昨年度の若手奨励賞ならびに日本学術振興会育志賞を受賞された加藤英明さん(東京大学大学院理学系研究科)は日本蛋白質科学会の補助を受けて第27回 the Protein Society meeting に参加されました。
加藤 英明(東京大学大学院理学系研究科)
“Protein Society Symposium に御招待致します。”
蛋白質科学会若手奨励賞及び育志賞受賞を理由に、中村春木先生よりメールにてご連絡を頂いたのは昨年3月のことでした。“The Annual Symposium of the Protein Society” はその名の通り the Protein Society の主催する年会であり、今回で27回目となるこのシンポジウムは、2013年7月20日から23日にかけて米国ボストンにて行われました。80近くもの口頭発表、そして1000近くものポスター発表が行われるこの巨大な学会では、常に2つのフロアで2つのセッションが同時に行われており、その分野も構造生物、蛋白質工学、疾病研究、ケミカルバイオロジーなど多岐に渡ります。
私は構造生物学や蛋白質工学関係の発表を中心にまわり、自身は「Structural and computational analyses of channelrhodopsin, a light-gated cation channel」というタイトルでポスター発表を行いました。奨励賞、育志賞の受賞理由となったチャネルロドプシン(ChR)の結晶構造解析を元に、計算科学的手法を用いて ChR のダイナミクスに迫ろうとした私の研究について、構造生物学、計算機科学、ロドプシン関係の研究者の方々が発表を聞きに来て下さり、特に同じ微生物型ロドプシンであるバクテリオロドプシン(BR)の専門家の先生とは、BR と ChR のダイナミクスの共通点・相違点について、ポスター会場前で積極的な議論を交わすことが出来ました。残念ながら名前を聞くのを失念してしまいましたが、“Interesting! Interesting…!” と腕を組みながら繰り返し繰り返し頷いていた彼の姿は当分忘れられそうにありません。また、他のポスターを見て回っていた時、特に、神経生物学分野のツール開発について有名な、Robert Campbell 研のポスターを見ていた時には、発表者である小柄な体躯の研究員の方と意気投合し、どの微生物型ロドプシンからどんなツール開発が出来るか、その可能性について30分以上も議論を行ったことが非常に良い経験となりました。なにより、別れ際に “Nice meeting you” と言って握手をした際、今まで裏返しになっていた研究員の名札が表になり “Dr. Robert Campbell” の文字が私の目に飛び込んで来た時には、驚きのあまり持っていた紙コップを落としそうになったのを良く覚えています。
今回、オーストラリアより招待された2人の博士学生を含め、私たち3人の招待者には MIT やアラバマ大学の博士学生がそれぞれ ambassador として付くことになっており、私の場合、MIT の Tania baker 研で AAA+ ATPase の生化学的研究を行っている Lourraine Ling が案内を行ってくれました。彼女らは皆非常に議論好きで、一緒に昼食や夕食を食べに行くと、必ず自分達の今の研究や博士号を取った後の研究プラン、自分のいる研究分野が今後どのような方向に発展していくと予想されるか、など様々なことを話し合いました。こうした経験は私にとっても非常に良い刺激になりましたが、学会最終日ともなると話すことが無くなったせいでしょうか。ファーストフード店の中で “アメリカの麻薬取り締まりについてどう思うか” や、“民主制と共和制のどちらが今の時代に合っていると思うか” と言った問題について真面目に議論し始めた時には正直少し閉口してしまいました。中々このレベルの議論を英語で行うにはまだまだ英語力が足りないと身に沁みた次第であります。
また、今回は学会後に、空いた半日を使って MIT への研究室見学を行ってきました。Lori や東大・木暮一啓研の吉澤晋博士、MIT・利根川進研の奥山輝大博士のご好意のもと、AAA+ ATPase の研究で有名な Tania Baker 研(Lori の研究室)や同酵素の構造生物学的研究で著名な Robert Sauer 研、海洋微生物の生態学研究を行っている Edward Delong 研や言わずと知れた神経生物学の利根川進研など、幸運にも4つの研究室を訪問する機会に恵まれました。研究室のスペースや所属人数、実験設備の新しさや充実度などは各研究室によって様々でしたが、特に実験設備の新しさについて、利根川研を除き殆どの研究室でかなりの部分を共通機器に頼っており、どの研究室も新しく高価な実験器具に恵まれているわけでは無いということに軽い驚きを覚えました。一方で、こうした設備的な優劣とは関係なく、どの研究室においても、初対面の研究員相手に話しかけ議論が始まるようなオープンマインドな雰囲気が形成されていたことは私にとって感慨深く、一流の成果を上げるのに必要なものは機材よりも寧ろ人なのだということ、そしてこうしたオープンマインドな風土が、優秀な人材と研究を生むのに一役買っているのではないか、と考えさせられるものがありました。
最後に、今回の海外渡航にあたって旅費、及び滞在費の支援をして下さった日本蛋白質科学会の先生方へ、この場をお借りして感謝申し上げます。私は今年の3月に学位取得後、4月より米国スタンフォード大学にてポスドク生活を始める予定ですが、今回のボストンでの経験を活かして、より一層研究に邁進していきたいと考えている所存です。