蛋白質発現:CHO細胞

東北大学大学院工学研究科バイオ工学専攻

  • 邦文引用浅野竜太郎, 蛋白質科学会アーカイブ, 2, e050 (2009)
  • キーワードCHO細胞、リポフェクション、選択抗生剤、限界希釈法、クローニング
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概要

動物細胞発現系は、本来持っている立体構造や糖鎖構造をほぼ維持した状態で目的蛋白質を得ることが出来、比較的大きな分子に対しても適用可能である。通常、高電圧パルスをかけることで細胞膜に物理的な孔をあけ、ベクターを取り込ませるエレクトロポレーション法が広く使われているが、その他に、陽性荷電脂質などからなるリポソームと、導入するDNAの電気的な相互作用により複合体を形成させ、貪食や膜融合により細胞に取り込ませるリポフェクション法、リン酸化カルシウムとDNAの複合体を作製させ、細胞に取り込ませるリン酸カルシウム法などがある。本プロトコールではCHO(Chinese hamster ovary)細胞に対するリポフェクション法による遺伝子導入と蛋白質調製を紹介する。

装置・器具・試薬

  • CO2インキュベーター(各社)
  • 倒立顕微鏡(各社)
  • CHO細胞
  • 細胞培養用フラスコ(培養規模に応じて培養面積25cm2~75cm2など)
  • 液体培地((HamF12 + 10%FBS)など)
  • 細胞解離緩衝液(0.02%EDTA/PBSなど)
  • マルチウェルプレート(遺伝子導入規模により24穴~96穴など使い分ける)(各社)
  • セラムチューブ(滅菌されているもの)(各社)
  • 無血清培地(D-MEM、OPTI-MEMなど)
  • リポフェクション試薬(リポフェクトアミン2000(Invitrogen)など)
  • 選択抗生剤(G418、ハイグロマイシンなど)
  • 96穴プレート(容量が300μL程度のもの)(各社)
  • 12連マルチピペッター(各社)

実験手順

第1日
1)CHO細胞の準備
2)遺伝子導入DNAの準備

第2日
3)CHO細胞へのリポフェクション

第3日以降
4)目的蛋白質の発現確認
5)遺伝子導入CHO細胞の継代
6)限界希釈法によるクローニング

実験の詳細

第1日

1)CHO細胞の準備

細胞培養用フラスコで継代培養していたCHO細胞を対数増殖期に翌日~90%コンフルエントとなるよう、液体培地1mL程度でマルチウェルプレートに播種する。CHO細胞を細胞解離緩衝液で剥がし細胞数をカウント後、24穴であれば1.5×105個/ウェルとなるように播種する。細胞のコンディション、バイアビリティ等により増殖速度が多少変化するため1.0×105個~2.0×105個/ウェル位の範囲で播種し、遺伝子導入時に最も状態の良い細胞数のウェルを選ぶと良い。

2)遺伝子導入DNAの準備

ろ過滅菌水に溶解させた高純度プラスミドDNA(260nmと280nmの吸光度の比が1.8~1.9程度)など遺伝子導入を行うDNAを準備する。市販のプラスミド精製キット等でも十分な純度は得られるが、エンドトキシンの影響が懸念される場合は市販のキットで除去する(1)。吸光度から定量しておく。DNA(μg/mL)=(260nmにおける吸光度)×吸光係数(二本鎖DNAの場合50)×(セルの光路長(mm)/10)

第2日

3)CHO細胞へのリポフェクション

リポフェクションを行うウェルの上清を吸引し、新しい液体培地を0.5mL加えてインキュベーターへ戻しておく。滅菌セラムチューブを2本用意し、1本には0.8~1.0μgのDNAを入れ無血清培地で50 μLに希釈する。もう1本には3μLのリポフェクション試薬を入れ無血清培地で50μLに希釈する。それぞれを混合し、室温で20分静置後にウェルに添加し、プレートを軽くゆすって混合する(血清非存在下でリポフェクションを行う場合、ウェルに添加する直前に、0.5mLの無血清培地に交換する)。栄養分の枯渇が心配な場合は、4~5時間後に培地をさらに添加、あるいは交換してもよい。

第3日以降

4)目的蛋白質の発現確認

24~72時間後にレポーター遺伝子を共発現させているような場合は、細胞抽出液のアッセイや、in situ での染色を行う。特にレポーター遺伝子等がない場合、分泌蛋白質であれば、培地上清を用いた ELISA やフローサイトメトリーなどのアッセイにより発現を確認することができる。

5)遺伝子導入CHO細胞の継代

リポフェクション1日後に培地交換を行い、さらに2日後に選択抗生剤を添加する。この際、ウェルがコンフルエントであれば、一旦細胞解離緩衝液で剥がし、4ウェル程度に播種する。抗生剤は最終濃度(G418であれば0.5mg/mL程度)の1/4から1/2程度の濃度からはじめ、増殖等を考慮しながら数日ごとに濃度を上昇させ、培地交換を繰り返す。発現が安定するまでに数日から数週間有する。

6)限界希釈法によるクローニング

増殖が安定したら限界希釈法により安定産生株を樹立する。細胞を剥がしカウント後、1ウェルあたり1細胞以下になるような細胞懸濁液を調製する。200μLずつ12連マルチピペッターを用いて、96穴プレートに播種し、37℃でインキュベートする。長期間培養を行うので96穴プレートは、ハーフエリアではなくてフルのものを用い、また栄養分の枯渇が心配な場合、途中で100μL程度の液体培地を追加しても良い。培養液は選択抗生剤を入れたもの、プレートは通常数枚用意する。10日ほどで各ウェル中にコロニーが形成されている様子が顕微鏡で観察できるようになる。この時点で、複数のコロニーが見られたウェルはチェックを付けるなどして除外する。細胞抽出液のアッセイや、in situ での染色により、目的の蛋白質を発現しているクローンを選択する。特に分泌蛋白質の場合は、培地上清を用いたELISAなどにより定量的に評価することで、より産生量の多いクローンを取得可能である。

工夫とコツ

ベクターの選択

各社とも様々な発現ベクターを販売しているが、選択抗生剤耐性も選ぶ大きなポイントである。動物細胞用の選択抗生剤は、何れも高価なものが多いが、その中でG418は、比較的安価であるため、通常最も良く使われる。導入した遺伝子の欠落を防ぐために、クローニング後も添加し続けることが多いので思い切って大容量のものを購入するのも手である。

リポフェクション試薬

本プロトコールはInvitrogen社製のリポフェクトアミン2000添付のプロトコールに基づいて作成しているが、リポフェクション試薬は、各社から販売されている。用いる細胞種、CHOのサブクローンによっても至適な試薬を選択する必要がある1)。また、導入する遺伝子に応じて細胞数、DNA量等を変化させ、最適化することで効率を上昇させることができる。

共発現

動物細胞を用いた発現は、共発現が比較的容易に行えることも大きな魅力の一つである。プロモーター等の構成が、すべて同一であっても選択抗生剤耐性が異なれば利用可能であり、市販のベクターは通常、複数の選択抗生剤耐性を有するものが用意されている。共遺伝子導入は、前述のプロトコールの中で、それぞれのDNAを等量混合後、リポフェクションを行い、クローニングは液体培地に複数の抗生剤を添加して行う。実際、筆者らもG418とハイグロマイシン耐性ベクターを用いた共発現で、分子間ジスルフィド結合を伴う分子量200kDaを越える人工設計した組換え蛋白質の調製に成功している(2)。

クローンの選択

クローンの取得の際は、コロニーの大きさも1つの指標とする。大きなコロニーのクローンは1細胞あたりの産生量が低い可能性があり、また小さなコロニーのクローンは1細胞当たりの産生量が高くても、その後の大量調製に向けた培養時に、増殖が遅く時間を費やす可能性がある。長期培養における産生の安定性もクローンに大きく依存する。このため極力複数のクローンを選択すると共に、細胞数を揃え、1細胞当たりの産生量を評価することも重要である。

遺伝子増幅

クローニングにより~1mg/L程度の生産量が期待できるが、思うような量が得られない場合、またより生産量を向上させたい場合は遺伝子を増幅させる必要がある。DHFR(Dihydrofolate reductase)系、GS(Glutamine synthetase)系などがよく知られており、前者は、DHFRの拮抗剤であるMTX(methotrexate)の添加に呼応して、dhfr遺伝子が増幅する現象を利用している。dhfr欠損CHOとして知られるDG44、あるいはDXB11などに対して、dhfr遺伝子との共発現ベクター、あるいはdhfr発現ベクターとの共遺伝子導入を行う。その後MTXの濃度を徐々に上昇させることで増幅させる。各段階ごとにクローニングを行うことで、より高産生の株を樹立することが可能だが、通常優に数ヶ月有してしまう。

プラスミドの直鎖化

ゲノムDNAへのインテグレーションを考えた場合、任意のところで切断されるのを防ぐため、予め環状のDNAを直鎖化させることが古くから行われているが、10kb程度のプラスミドでは効率はさほど変わらないようである(1)。

文献

  1. 落合孝広 青木一教, 遺伝子導入なるほどQ&A, 羊土社 (2005)
  2. Asano, R. et al., J. Biol. Chem., 282, 27659-65 (2007)