GFPタグを利用した原核生物由来膜タンパク質の発現系評価

東京大学・医科学研究所・基礎医科学部門

  • 邦文引用服部素之, 蛋白質科学会アーカイブ, 3, e057 (2010)
  • キーワード構造生物学、膜タンパク質、GFP、FSEC
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概要

その生物学的重要性にも関わらず、膜タンパク質の立体構造解析は今なお一般に困難とされている。その一方、近年、膜タンパク質の構造解析における有力な手法として、GFPタグを用いたFluorescence-Detection Size-Exclusion Chromatography(GFP-FSEC)法が注目を集めている。GFP-FSEC法では、対象タンパク質をGFP融合タンパク質として発現させ、可溶化試料に対して蛍光検出機を備えたHPLCを用いてゲルろ過クロマトグラフィーを行う。そして、得られたHPLCのチャートに基づき、発現系の結晶化能評価が行われる。GFP 蛍光は高い感度と特異性を持つため、数mL程度の少量培養からの試料を未精製にて発現系の評価を行うことが可能となる。つまり、GFP-FSEC法を用いることで安価かつより短いタイムスケールでの発現系の結晶化能評価を行うことが可能となる。本稿では、原核生物由来の膜タンパク質の結晶化能評価を目的としたGFP-FSEC法の実際について述べる。

イントロダクション

シンクロトロン放射光や解析用ソフトウェアなどにおける近年の数多くの技術的進歩により、構造決定されたタンパク質の数は指数関数的に増加し、現在ではProtein Data Bank(PDB)に登録されている構造数は6万を超えるに至った。しかしながら、膜タンパク質についてはPDB中におけるその登録数は、今なお数百程度に留まっており、その生物学的重要性にも関わらず、膜タンパク質の立体構造解析は依然困難とされている。

タンパク質の構造解析における大きな問題点として

  1. 組み換えタンパク質としての発現量の乏しさ
  2. 界面活性剤による可溶化後の膜タンパク質の安定性の低さ

の2点が挙げられる。しかしながら、このような膜タンパク質の一般的な傾向とは逆に、

  1. 組み換えタンパク質としての比較的豊富な発現量
  2. 界面活性剤溶液中での高い安定性

という上記2点の特徴を持った発現系が構造解析を行う上では望ましい。実際、構造解析に成功した膜タンパク質の多くはこれらの特性を満たしており、そのような発現系は高い「結晶化能」を持っていると考えられる。

そのような高い結晶化能を持つ発現系の同定のためには、構造解析対象とするタンパク質の複数のホモログについて発現トライアルを行い、構造解析に適したホモログを同定するというストラテジーが有効である。例えば、筆者らのグループが行ったマグネシウム輸送体MgtEの構造解析では7種類のMgtEホモログをクローニングし、それらについて発現系の評価を行い、最終的に高度好熱菌 Thermus thermophilus 由来MgtEを「構造解析に適したホモログ」として同定している(1)。しかしながら、膜タンパク質の発現量、安定性、均一性の評価には、多くの場合、500mLないし 1L程度の中規模の培養スケールにて発現・精製を行う必要がある。そのため、多数のホモログに対してこれを行うためには、かなりの時間とコストが要求され、膜タンパク質の構造解析の律速段階となっている。

そのような問題に対する結晶化能評価手法の1つとして、GFPタグを利用したFluorescence-Detection Size-Exclusion Chromatography(GFP-FSEC)法がある(2)。GFP-FSEC法では、対象タンパク質をGFP融合タンパク質として発現させ、可溶化試料に対して蛍光検出機を備えたHPLCを用いてゲルろ過クロマトグラフィーを行う。対象となるタンパク質の発現量については、ゲルろ過クロマトグラフィーにおけるピークのGFP蛍光強度の高さにより評価される。また、試料の安定性については、ゲルろ過クロマトグラフィーにおけるピークの形状により評価される。すなわち、「構造解析に適した発現系」はゲルろ過クロマトグラフィーにおいて鋭く、高い単一ピークを示す。GFP蛍光は高い感度と特異性を持つため、数mL程度の少量培養からの試料を未精製にて発現系の評価を行うことが可能である。そのため、GFP-FSEC法は安価かつより短いタイムスケールでの結晶化能評価を行うことを可能とし、膜タンパク質の構造解析の律速段階のブレイクスルーとなる技術であるといえる。実際、本稿で筆者らが参考としたGFP-FSEC法の原著論文(2)を発表したGouaux博士のグループはGFP-FSEC法を利用し、膜輸送体の構造解析において大きな成功をおさめている(3-7)。本稿では、原核生物由来の膜タンパク質の結晶化能評価を目的としたGFP-FSEC法の実際について述べる。

装置・器具・試薬

HPLC

  • システムコントローラCBM-20A(島津製作所)
  • 送液ユニット LC-20AD(島津製作所)
  • オートサンプラSIL-20AC(島津製作所)
  • カラムオーブンCTO-20A(島津製作所)
    • システムを低温室に設置する場合は不要
  • UV-VIS検出器SPD-20A (島津製作所)
  • 蛍光検出器RF-10AXL (島津製作所)
  • オンラインデガッサDGU-20A5 (島津製作所)
  • LC-20AD用低圧グラディエントユニット (島津製作所)
    • 本稿で述べるGFP-FSEC法には必須ではない。
  • 高圧流路切換バルブFCV-12AH (島津製作所)
  • Superose 6 10/300 ゲルろ過クロマトグラフィー用カラム(GE Healthcare)
  • 各種バッファー(破砕バッファー、可溶化バッファー、ゲルろ過クロマトグラフィーバッファー)

発現プラスミドおよび発現ホスト

  • GFP融合タンパク質発現プラスミド
    • Gouaux博士よりpNGFP-BC(N末端GFP融合タンパク質発現用)およびpCGFP-BC(C末端GFP融合タンパク質発現用)の譲渡を受け、それらに対して目的遺伝子をクローニングした。ベクターマップについては筆者らが参考とした原著論文(2)を参照されたい。
  • 大腸菌C41(DE3)コンピテントセル(Overexpress)
    • 他のBL21系の大腸菌についても使用可能である

また、大腸菌を用いた組み換えタンパク質の発現については蛋白質科学会アーカイブ「T7プロモータを利用した大腸菌による組み換え蛋白質の発現」など他稿にその詳細な記述があり、培養および発現のための装置・器具・試薬や実験の詳細についてはそちらを参照されたい。

超遠心

  • Optima TL 100 ultracentrifuge(Beckman)
  • TLA-100.3 rotor (Beckman)

超音波砕機

  • S-450D(Branson)

実験手順

第1日
 1)目的プラスミドのC41(DE3)への形質転換

第2日
 2)前培養

第3日
 3)本培養と発現誘導

第4日
 4)膜画分の調製
 5)可溶化
 6)HPLC分析
 *膜画分については-80度保管が可能であるため、5)および6)については後日行うことも可能である

実験の詳細

第1日

####1)目的プラスミドによるC41(DE3)の形質転換

ヒートショック法もしくはエレクトロポレーションにて、目的とする遺伝子を含むプラスミドによりC41(DE3)コンピテントセルを形質転換する。アンピシリンを含むLBプレート上で37℃一晩静置。多数の試料について形質転換を行う場合は、ヒートショック法が簡便である。

第2日

2)前培養

前日の各LBプレートから、コロニーを取り、3mLスケールのLB培地に植菌して37℃で一晩振盪培養を行う。GFP-FSEC法では多数の培養試料を同時に取り扱うことが多く、多数の試料についてIPTGによる発現誘導の際のタイミングを合わせるためには、各培養試料間の濁度をそろえる必要がある。そのため前培養を行う。

第3日

3)本培養と発現誘導

前日の前培養試料から培地を0.1mL取り、3mLスケールのLB培地に植菌し、37℃で振盪培養を開始する。数時間ほどで培養液の600nm 付近のOD が0.5程となるのでIPTGを加え、発現誘導を行う。試料数が数十にも及ぶ場合、全ての試料のODを測定するのは現実的ではないため、代表していくつかのODを測定するとよい。加えるIPTG濃度やIPTG添加後の培養時間、温度については条件検討が必要である。初期条件としては、目的タンパク質一種あたり0.5mM IPTG濃度にて

  1. 37℃、3時間培養
  2. 37℃、一晩培養(16-20時間程度)
  3. 20℃、一晩培養(16-20時間程度)

の3条件を試みることを推奨する。筆者の経験では20℃培養が効果的であることが多い。これは膜タンパク質の過剰発現が細胞に対して毒性を持つことに起因する可能性が指摘されており、低温培養が有効な事例がいくつか報告されている(8)

第4日

4)膜画分の調製

以降の作業は全て氷上もしくは4℃下にて行う。前日の3mLスケールの培養試料について、2回に分けて1.5mLエッペンドルフチューブに集菌する。各チューブに0.5mLの破砕用バッファーを加え、超音波破砕機S-450Dを用いて、1分間超音波破砕を行う(power level 1, 1 sec on, 1 sec off, total 1 min)。破砕バッファーの組成についての1例としては、150mM NaCl、50mM HEPES pH7.0、1mM PMSF、1mM DTTが挙げられる。破砕後、16,000 x gにて10分遠心し、上清を新しい超遠心用のチューブに移し、TLA100.3にて40,000 rpm(87,000 x g)1時間超遠心を行う。超遠心後、エッペンドルフチューブの底に微量の膜画分があることを確認する。多数の試料を取り扱い、膜画分の調製に時間がかかる場合は、調製後、試料を-80℃に保管し、以降の作業を後日行ってもよい。

5)可溶化

膜画分を含むエッペンドルフチューブに0.2mLの可溶化バッファー(150mM NaCl, 50mM HEPES pH 7.0, 2% ドデシルマルトシド(DDM), 1mM DTT)を加える。他に膜タンパク質の構造解析でしばしば用いられる界面活性剤としては、デシルマルトシドやオクチルグルコシドなどがあげられる。バッファーを加えた際、膜画分はエッペンの底に付着しているため、市販の1.5mLチューブ用のホモジェナイザーを用いて膜画分を懸濁させる。その後、ローテーターを用いて1時間ほど4℃で振盪させ、可溶化を行う。可溶化後、TLA100.3にて再度40,000rpm(87,000 x g)、1時間超遠心を行い、上清を新しい1.5mLチューブに移す。

6)HPLC分析

HPLC分析についても4℃下で行う。ゲルろ過クロマトグラフィー用バッファー(150mM NaCl, 50mM HEPES pH 7.0, 0.05% DDM)により平衡化されたSuperose 6 10/300カラムに対して、オートサンプラーを用いて可溶化試料を0.1mL注入する。この際の流速は0.5mL/minとし、1回の注入あたり30mL溶出させる。蛍光検出機RF-10AXL(島津製作所)の設定は励起/蛍光波長= 480/512 um、感度: medium sensitivity、ゲイン x4とする。各種設定は、参考とした原著論文(2)のグループらの設定に基づく。HPLCの溶出プロファイルについては、ASCII形式で出力することが可能であるため、EXCELを用いてグラフを作成することができる。図1に、筆者らのグループによって得られたHPLCチャートの1例を示す。

工夫とコツ

発現ターゲットの探索

複数のホモログをクローニングし、発現トライアルを行う場合、原核生物由来の輸送体の場合、有望なターゲットみつけるためには、最低でも10種類ほどを試したほうがよい。原核生物のゲノムもしくは菌株については、理化学研究所の微生物材料開発室から比較的安価に入手可能である。

GFPタグの位置

同じ遺伝子であっても、GFPタグの箇所(N末、C末)とで、得られるHPLCチャートに有意な差があることがあるため(2)、可能な限り、N末、C末それぞれのGFP融合発現系を作成することを推奨する。

オートサンプラ-の注意点

オートサンプラーを用いることにより、一度に多数の試料について分析を行うことが可能であるが、その場合、最初に注入された試料と最後に注入された試料とでは、可溶化からHPLC分析までの時間に大きな差ができることになる。そのため、後半に注入された試料については、時間経過による分解や凝集などが問題となる可能性がある。よって、各試料について整合性のある結果を得るためには、1回の可溶化で分析する試料数は多くても1晩分(15から20程度)に留め、さらなる分析については後日、別に可溶化を行ったほうがよい。

GFPを利用した発現量の見積もりについて

HPLC分析の結果、得られる値は相対的な蛍光強度であり、それ自体では絶対的な発現量の見積もりを行うことはできない。そのため、GFP単体の精製試料もしくは発現量が知られているGFP融合膜タンパク質の発現系を用いて、発現量の指標とするのがよい。

文献

  1. Hattori, M., et al., Acta. Crystallogr. Sect. F Struct. Biol. Cryst. Commun., 63, 682-4 (2007)
  2. Kawate, T. & Gouaux, E. Structure, 14, 673-81 (2006)
  3. Yamashita, A., et al., Nature, 437, 215-23 (2005)
  4. Jasti, J., et al., Nature, 449, 316-23 (2007)
  5. Kawate, T., et al., Nature, 460, 592-8 (2009)
  6. Shaffer, P. L., et al., Science, 325, 1010-4 (2009)
  7. Sobolevsky, A. I., et al., Nature, 462, 745-56 (2009)
  8. Wang, D. N. et al., Biochim. Biophys. Acta., 1610, 23-36 (2003)
  • 図1