ショウジョウバエS2細胞による蛋白質の発現

九州大学大学院・システム生命科学府・システム生命科学専攻

  • 邦文引用柴田俊生ら, 蛋白質科学会アーカイブ, 2, e052 (2009)
  • キーワード昆虫細胞、ショウジョウバエ
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概要

S2細胞は、マクロファージ様活性を示すショウジョウバエ胚由来の培養細胞株である。このS2細胞を使った組換え蛋白質の発現系は、大腸菌では不可能な高度な翻訳後修飾 (ジスルフィド結合形成や糖鎖修飾) を行うことができ、活性を保持した酵素の発現も可能であるので、一般的に広く用いられている。また、一般的に発現量は哺乳細胞発現システムより多く、数百μg~数十mg/Lである。筆者らは高度なジスルフィド結合が形成されていると推定されている蛋白質において、活性のある目的蛋白質を1 L培養あたり約2 mg得ることができた。他にも、糖鎖修飾のある哺乳細胞の酵素や受容体などの高収率な発現も多数報告されている (1,2)。培養時にはCO2インキュベーターを必要とせず、接着性もほとんどないため、培養は容易である。遺伝子を導入、発現させるときに必要になるのは、発現用のプラスミドとトランスフェクション試薬、および発現用試薬のみで、他の昆虫細胞株であるSf9細胞の発現系のようにバキュロウイルスなどを別途必要とせず、操作も比較的容易である。また、リン酸カルシウム沈殿法により一度プラスミドをトランスフェクションさせれば、数百コピーの目的遺伝子がゲノムに組み込まれ、安定発現株を得ることもできる。早ければ一ヶ月程度で安定発現株を得ることが可能である。このような利点のあるショウジョウバエS2細胞発現系による蛋白質の発現の実際について紹介する。

装置・器具・試薬

  • クリーンベンチ
  • 細胞培養用インキュベーター
  • 恒温水槽
  • 倒立顕微鏡
  • 10cm細胞培養用プレート (各社)
  • 6-wellプレート (各社)
  • クライオバイアル (各社)
  • ヘモサイトメーター (各社)
  • Drosophila S2 cells (Invitrogen)
  • Schneider’s Drosophila Medium (Gibco)
  • Serum Free Medium (Gibco)
  • L-グルタミン (Sigma)
  • Fetal Bovine Serum (Gibco)
  • ペニシリン-ストレプトマイシン (Sigma)
  • リン酸入りHBS (各社)
  • CuSO4 (各社)
  • S2 cells 用発現ベクター (Invitrogen)
  • 選択用ベクター (pCoHygro or pCoBlastなど) (Invitrogen)
  • 選択用抗生物質 (各社)
  • PBS (各社)

(なお、発現用の細胞やプラスミド、試薬などがセットになったキットがInvitrogenから発売されている。)

実験手順

[下準備]
1日目
 細胞を起こす。培地の作成。

2日目~
 細胞培養。

[一過性発現]
1日目
 細胞を6-wellプレートにまく (2×106 cells)。

2日目
 プラスミドのトランスフェクション。

3日目
 発現誘導。

4日目~
 蛋白質の回収、発現チェック。

[安定発現]
1日目
 細胞を6-wellプレートにまく (2×106 cells)。

2日目
 プラスミドのトランスフェクション。

5日目
 選択開始。

3週間~
 大量培養、発現誘導、蛋白質の回収、精製。

実験の詳細

[通常培地]

Shneider’s Drosophila Mediumに、65℃で30分間処理したFetal Bovine Serum (10 %)、ペニシリン (50 units/mL)、ストレプトマイシン (50 μg/mL)、L-グルタミン (1 mM) を各終濃度になるようにそれぞれ加える。これをフィルター滅菌し、乾熱滅菌済みの試薬瓶に入れる。使用前に30℃の高温水槽で温めておく。

[継代方法]

1×107 cells/mLのS2細胞が入っているクライオバイアルを液体窒素から取り出し、軽くふたを開けて、30℃の恒温水槽で解凍する(DMSOが入っているので手早く融解作業を行う)。ピペッティングによる懸濁を行った後、10 mLの培地が入った10 cmプレートにまんべんなく滴下する。その後、28℃で30 分間インキュベートする。インキュベート後、細胞を15 mLチューブに回収し、1,000 rpmで細胞を落とし、上清を捨てる。新たに培地10 mLを加え、懸濁し、再びプレートにまき、28℃で培養する。

コンフルエント (1×107 cells/mL程度) になったら、2-4×106 cells/mLになるように10 mLの培地入り10 cmプレートで継代する。S2細胞は単層で増えるため、コンフルエントになると細胞塊を形成し、浮遊した状態になるものが出てくる。なお、28℃のインキュベーターの場合、およそ3日でコンフルエントになる。5 mLピペットを使い、穏やかなピペッティングにより細胞をはがす。接着性は弱いのでピペッティングで簡単にはがすことができる。起こした細胞を3回程度継代する。起こしたばかりは元気がないのでしばらく培養を続ける。また、継代時にストック用としてプレート数枚分に増やしておく。

[細胞ストック方法]

培養しているプレートの一部でストックを作る。コンフルエントになった細胞を回収し、ヘモサイトメーターにより細胞密度をカウントの後、1,000 rpmで細胞を回収する。このとき培養上清 (conditioned medium) は別チューブに移しておく。

培養上清: 培地 : DMSO = 45 : 45 : 10 の割合でストック用液を作る。細胞をこのストック用液により 1×107 cells/mLになるように希釈し、1 mLずつクライオバイアルに分注する。このクライオバイアルを小型の発泡スチロールや専用の容器に入れて、-80℃でオーバーナイト冷凍する。その後、液体窒素中で保存する。

[トランスフェクション]

まずは一過性発現により迅速な目的蛋白質の発現確認や予備的な機能解析を行い、その後、安定発現に移行する。

1日目
6-wellプレートに1×106 cells/mLの細胞を2 mLまく。28℃で12時間程度培養し、2-4×106 cells/mLにする。

2日目
リン酸カルシウム沈殿法により、トランスフェクション用溶液を作成する。まず、以下のプラスミド溶液を作成する。

recombinant vector 19 μg
pCoHygro or pCoBlast 1 μg (安定発現時のみ使用)
2M CaCl2 24 μL
H2Oで200 μLにする。  

上記溶液を、1.5 mLチューブ内の等容量のHBS (50 mM HEPES, 1.5 mM Na2HPO4, 280 mM NaCl, pH7.1) にゆっくり滴下する。このとき、チューブを穏やかにvortexしながら混ぜる。混合液を室温で30分間静置後、細胞が入った6-wellプレートにまんべんなく均等に滴下する。その後28℃で24 時間培養する。

[一過性発現]

3日目 (6-wellプレートにまいてから)
リン酸カルシウムが入った培地を取り除き、細胞をチューブに遠心により回収後、培地で2回洗浄する。同プレートを用いて28℃で培養する。トランスフェクション後24時間経過したらCuSO4を終濃度500 μM加える。

4日目~
誘導後、12時間、1日、2日、3日、4日後にそれぞれ培養上清または細胞を回収し、発現チェックを行う。誘導中は新しい培地に変えない。筆者らが試したなかでは、おおむね誘導後3日後に最も多くの目的蛋白質が確認できた。

[発現チェック]

細胞内発現のときは、細胞をチューブに回収後、PBSで洗浄を行った後に、可溶化バッファー (50 mM Tris-HCl, pH7.8, 150 mM NaCl, 1% Nonidet P-40) を加え、氷上で10分間可溶化する。その後、遠心により細胞の残骸を沈殿させ、上清を用いて発現を確認する。分泌発現のときは、培地上清をチューブに回収後、1,000 rpmで5分間遠心して細胞を落とし、上清を用いて発現確認を行う。発現コンストラクトに応じた検出方法を用いる。筆者らは発現上清をNi-NTAによるバッチ法にて精製後、His抗体とV5エピトープ抗体、また目的蛋白質特異的抗体によるウエスタンブロットにより確認を行った。

[安定発現]

3日目 (6-wellプレートにまいてから)
リン酸カルシウムが入った培地を取り除き、細胞をチューブに遠心により回収後、培地で2回洗浄する。同プレートで28℃、2日間培養する。

5日目
細胞を遠心により回収し、トランスフェクション時に使った選択ベクターに対応する抗生物質入りの培地に交換する (hygromycinまたはblasticidin)。3日から5日おきに、同プレート上で抗生物質入り培地に交換する。一気に培養速度が遅くなるが、3週間程度抗生物質入り培地で培養を続けると、通常培地と同程度の増殖速度となる。

3週間~
1×107 cells/mLに達したら10 cmプレートに継代する。また、細胞ストック用、大量培養用に、プレートを複数枚に増やしていく。継代の際は、常に抗生物質入りの培地を使用する。

[大量培養]

コンフルエントになった10 cmプレートを数枚用意する。培地を取り除き、1プレートあたり5 mLの培地に懸濁しチューブに回収する。細胞密度をカウントし、125 mLボトル1本あたり50 mL、1×106 cells/mLになるように培地で希釈する。28℃で振盪培養 (100 rpm程度、細胞が沈まないくらい) を行う。数本用意し、1本は継代用、残りは発現用とする。継代に際しては、細胞数が 2-16×106 cells/mLの範囲になるように留意し、数日置きに1×106 cells/mLになるよう継代を続ける。

発現用のボトルは、1×107 cells/mLになったらCuSO4による誘導を開始する。一過性発現時でチェックした至適誘導時間になったら回収する。大量培養時には至適誘導時間がプレートでの発現とは異なることもあるので、新たにチェックしたほうが良い。また、発現する際に用いるボトル内の培地の容量によって、培地あたりの発現する蛋白質量が変化することもある。至適容量を見つけるために、いくつか条件を振ってみることをおすすめする。筆者らは1 Lのボトルを使用し、500 mLの系で発現誘導を行った。その後、Ni-NTAカラムを用いた精製を行った結果、およそ1 mgの活性を有した蛋白質を得ることができた。

工夫とコツ

無血清培地について

本培養のときは無血清培地を使うと持ち込み蛋白質が少なくなって良い。ただし、若干細胞の育ちが悪くなる傾向にある。これは継代のときにconditioned mediumを加えると改善される。また、通常の血清培地で培養中も細胞の調子が悪くなったらconditioned mediumを加えることにより、よく増殖するようになる。

分泌発現後のNi-NTAによる精製時の注意

分泌発現による大量培養時には、pH調整のため10×平衡化バッファー (500 mM NaH2PO4, pH8.0, 3 M NaCl) をconditioned mediumの1/10量加え、12,000 rpmで20 分間遠心した後に、Ni-NTAによる精製を行った。

Kozak配列の確認

極端に発現量が少ない場合、Kozak配列の有無を確認する。ショウジョウバエでは、ほぼ例外なく、(C/A)AA(A/C)AUGというコンセンサス配列を持つことが報告されている(3)。

発現用プラスミド

Invitrogenから各種発現用プラスミドが発売されている。目的によって使い分けると良い。筆者らの研究室では主にpMT/V5-HisとpMT/ViP/V5-Hisを用いている。

  • pMT/V5-His : 細胞内発現時に使用。
  • pMT/ViP/V5-His : 分泌シグナルBiPによる細胞外発現が可能。
  • pMT/BioEaseTM-DEST : ビオチン化された蛋白質の発現が可能。
  • pMT/V5-His-TOPOR : TAクローニングによる迅速なコンストラクト作成が可能
  • pAc5.1/V5-His : アクチンプロモーターによる恒常的な発現が可能。

トランスフェクション試薬

本法ではリン酸カルシウム沈殿法によるプラスミドのトランスフェクションを紹介したが、Cellfectin (Invitrogen) による発現も確認した。トランスフェクションがうまくいかない場合はこのようなリポフェクション試薬も試してみると良い。

文献

  1. Li, B. et al., Biochem. J., 313, 57-64 (1996)
  2. Johanson, K. et al., J. Biol. Chem., 270, 9459-71 (1995)
  3. Douglas R. Cavener. Nucleic Acids Research, 15, 1353-61 (1987)