バキュロウイルス-昆虫細胞発現系を用いたタンパク質の大量生産

九州大学生体防御医学研究所・ポストゲノムサイエンスセンター蛋白質化学分野


  • キーワード昆虫細胞バキュロウイルス大量生産
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概要

昆虫細胞とバキュロウイルスを組み合わせた発現系(バキュロウイルス遺伝子発現ベクター系;BEVS)は、大腸菌では困難な高等真核生物特有の翻訳後修飾能力を有しており、生化学アッセイや構造解析などに適した天然の生物学的活性と構造を保持した組換えタンパク質を、ポリへドリンプロモーターの制御下で大量に生産出来る。本プロトコールでは、大腸菌内で組換えバキュロウイルスDNAを作製できるBac-to-Bacシステム(1)を使用した組換えタンパク質の大量生産法を紹介する。遺伝子のクローニングからタンパク質の精製まで早ければ1ヶ月程度で完了する。

装置・器具・試薬

  • pFastBac1などのBac-to-Bac用ベクター (Invitrogen)
  • DH10Bac (Invitrogen)
  • SOC培地 (各社)
  • LB培地 (各社)
  • LB寒天培地(各社)
  • Kanamycin (各社)
  • Gentamicin (各社)
  • Tetracycline (各社)
  • イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)(各社)
  • X-gal(各社)
  • QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN)
  • インキュベーター(CO2制御は不要)(各社)
  • 低速スターラー(5 ~ 150 rpm)(各社)
  • 100mL、500mL及び1Lのスピナーフラスコ(各社)
  • Sf9昆虫細胞
  • Grace’s insect medium (Invitrogen)
  • Sf-900II Serum Free Medium (Invitrogen)
  • Fetal Bovine Serum (各社)
  • Pluronic F-68 (Invitrogen)
  • Cellfectin (Invitrogen)などのトランスフェクション試薬
  • 6穴プレート(付着細胞用)(各社)
  • 底面積25cm2及び75cm2の培養フラスコ(付着細胞用、フィルター付きのキャップを用いる必要は無い)(各社)

実験手順

組換えバキュロウイルスDNAの作製及び精製

  1. 目的の遺伝子をpFastBac1などのBac-to-Bac用ベクターにクローニングする。
  2. そのプラスミドを氷上で溶かした20μLのDH10Bacに0.1μg程度加え、穏やかに混合し、氷上で20分インキュベートする。
  3. 42℃で1分間ヒートショックを行い、氷上に2分静置した後、200μLのSOC培地(抗生物質の入っていないLB培地でも可)を加え、37℃で4時間培養する。
  4. kanamycin (50μg/mL)、gentamicin (7μg/mL)、tetracycline (10μg/mL)、X-gal (100μg/mL)、IPTG (40μg/mL)入りのLBプレートに播く。全て播くとコロニーが生えすぎるので、希釈したり、減らしたりして撒く量を調節したほうが良い。10倍希釈して100 μl撒くとちょうど良い場合が多い。
  5. 37℃でコロニーの発色の有無を判別出来るまで培養する。通常、24時間程度培養すれば判別できる。
  6. 白色のコロニーを数個爪楊枝でつつき、新しいLBプレート(上記抗生物質、IPTG、X-Gal入り)に植菌し、37℃で一晩培養後、発色の有無を再確認する。
  7. 再確認した白色のコロニー由来の大腸菌をkanamycin (50μg/mL)、gentamicin (7μg/mL)、tetracycline (10μg/mL)入りのLB培地5mLで一晩37℃で震盪培養する。
  8. 増殖した大腸菌からの組換えバキュロウイルスDNAの精製には、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)が利用可能である。ただし、サイズの大きなバキュロウイルスのDNA(約130Kbp)の精製では、溶出用バッファーを70℃前後に暖めておくと回収量が多くなる。
  9. 精製したウイルスDNAを鋳型とし、M13 Forward (-40) ; GTTTTCCCAGTCACGACとM13 Reverse ; CAGGAAACAGCTATGACのプライマー対を用いてPCRを行い、目的遺伝子の挿入を増幅断片の長さで確認する。

組換えバキュロウイルスの作製

  1. 6穴プレートの各ウェルにGrace培地(+10% FBS)で培養したSf9細胞5×105個を播き、細胞が底面に付着するまで27℃で培養する。なお、Sf-900II無血清培地で培養した細胞を使うと何故か分からないがうまくいかないことが多い。また、あらかじめ血清無添加のGrace培地1 mLを入れたウェルに細胞を播くと、細胞が底面に付着しやすくなる。
  2. 5mLのポリスチレンチューブ(1.5mLのエッペンドルフチューブでも可)を2本用意し、片方には精製したバキュロウイルスDNA1μgとGrace培地125μL(A液)を入れ、もう片方には、Cellfectin (他のトランスフェクション試薬でも可) 6μLとGrace培地125μL(B液)を入れ、それぞれよく混合した後、B液にA液を加え、15分から20分室温で放置した後、さらにGrace培地を250μL加え穏やかに混合する。
  3. 細胞が底面に付着しているのを確認してから培地を取り除き、2)で作製したトランスフェクション液を加える。
  4. 27℃で4時間インキュベートする。
  5. トランスフェクション液を取り除き、2mLのGrace培地(+10% FBS)を加え、27℃で1週間培養する。細胞がコンフルエント(細胞が培養容器の培養面を全て覆い、細胞どうしが互いに接着しあっている状態を指す)に達すると失敗することが多いので、培養開始から1日目くらいに6穴プレートの空いたウェルまたは底面積25cm2の培養フラスコに細胞を半分程移すと良い。培養開始からおよそ5日目にはウイルス感染細胞が多数浮遊し、組換えバキュロウイルスの増殖を確認できる。
  6. 1700xg(3000rpm)、室温、10分の遠心分離により培養上清を回収し、P1ウイルスストックとして4℃または-80℃で保存する。遺伝子産物が分泌タンパク質の場合は、回収した培養上清の一部を、また、それ以外のタンパク質の場合は沈殿として回収した細胞を適当量のSDS-PAGE sample bufferで処理し、SDS-PAGE及びウエスタンブロットにより組換えタンパク質の有無を確認する。

組換えバキュロウイルスの増幅

  1. 底面積75cm2の培養フラスコにGrace培地(+10% FBS)10mLと1.0×106個のSf9細胞を播く。
  2. P1ウイルスストックを50μl程度加える。
  3. 27℃で5日から7日培養する。
  4. 1700 xg(3000rpm)、室温、10分の遠心分離により培養上清を回収し、P2ウイルスストックとして4℃または-80℃で保存する。
  5. P2ウイルスストックを作製している間に、P3ウイルスストック用のSf9細胞(Grace培地(+10% FBS、+0.1% Pluronic F-68)500mL、細胞初期密度2.0×105 cells/mL)を500mLのスピナーフラスコを用いて回転速度80~90rpmくらいで懸濁培養しておく。
  6. P2ウイルスストックのタイターをプラークアッセイまたは市販のキットで決定し、細胞密度が1.0×106 cells/mLに達したらMOI (multiplicity of infection ; 感染多重度) =0.1(Sf9細胞1個に対して感染ウイルス粒子0.1個)で感染させる。
  7. 27℃、回転速度120~130rpmで5日から7日培養する。
  8. 1700 xg(3000rpm)、室温、10分の遠心分離により培養上清を回収し、P3ウイルスストックとして4℃で保存する。組換えタンパク質の大量生産にはP3ウイルスストックを使用する。

組換えタンパク質の大量生産

  1. 100mLのスピナーフラスコ(培地量100mL)を用いて、最適な感染期間、MOI、及び細胞密度を決定する。多くの場合、48~72時間の感染期間、2~5のMOI、1.0×106 cells/mLの細胞密度という条件で大量生産を行っている。
  2. 500mLや1Lのスピナーフラスコを用いてSf9細胞を大量培養し、1)で決定した条件に従い、ウイルスを感染させる。
  3. 1700 xg(3000rpm)、室温、10分の遠心分離により分泌タンパク質の場合は培養上清を、細胞内タンパク質の場合は細胞を回収する。培養上清は精製するまで4℃で、細胞は-80℃で保存する。
  4. 培養上清は限外ろ過膜による濃縮や透析でバッファー交換を行い、例えばヘキサヒスチジン(6xHis)やグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)などの精製用タグを融合した組換えタンパク質の場合には、NiカラムやGS4Bカラムを用いてアフィニティー精製を行う。細胞の場合は、界面活性剤入りの溶解バッファー (例 50mM Tris HCl pH8.0、 150mM NaCl、 1% NP40) を1.0×107個のSf9細胞に対して1mL加えて懸濁し、氷上で30分静置した後、遠心分離により上清を回収し、ヘキサヒスチジンタグ融合タンパク質であればNiカラムなどを用いて精製を行う。

工夫とコツ

・ 昆虫細胞の翻訳後修飾特性は哺乳類細胞のそれと完全に一致している訳ではない。例えば、昆虫細胞では哺乳類細胞で付加される複合型のN型糖鎖は付加されない。そのため、Sf9細胞で生産された哺乳類由来の糖タンパク質は天然の生物学的活性と構造を保持していない可能性があることに注意する必要がある。

・ N型糖鎖修飾に関しては、哺乳類の糖転移酵素遺伝子をSf9細胞のゲノム中に挿入し、安定に発現させることで複合型糖鎖の修飾を可能にしたMimic Sf9細胞(Invitrogen)が市販されている。

・ Bac-to-Bac用のベクターには、

  1. pFastBac 1:ポリヘドリンプロモーター、タグ無し
  2. pFastBac HT A (B及びC):ポリヘドリンプロモーター、N末6xHisタグ
  3. pFastBac Dual:ポリヘドリンプロモーター及びp10プロモーター、タグ無し
  4. pDEST 8:ポリヘドリンプロモーター、タグ無し
  5. pDEST 10:ポリヘドリンプロモーター、N末6xHisタグ
  6. pDEST 20:ポリヘドリンプロモーター、N末GSTタグ

の6種類(全てInvitrogen)があり、4、5、6についてはGatewayテクノロジーによるクローニングが可能である。また、p10プロモーターはポリヘドリンプロモーターと同様にタンパク質の大量発現が可能なプロモーターであり、ポリヘドリンプロモーターと同時に用いることで2種類の遺伝子を発現させることが出来る。

・ バキュロウイルスDNAを鋳型にしたPCRで得られる増幅断片の長さは、目的遺伝子とポリヘドリンプロモーターやgentamicin耐性遺伝子などベクター由来の塩基配列を合わせたものである。ベクター由来の増幅断片の長さは用いるベクターによって変わる。詳しくは下表参照。

ベクター 増幅断片の長さ
無し(未組換え) 約300 bp
pFastBac 1 約2.3 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pFastBac HT A(B及びC) 約2.4 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pFastBac Dual 約2.6 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pDEST 8 約2.5 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pDEST 10 約2.7 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pDEST 20 約3.2 kbp + 目的遺伝子のサイズ

・ コロニーPCRでも組換えバキュロウイルスDNAの確認は可能である。

・ Sf-900IIで培養したSf9細胞では何故かウイルスの生産効率が低いので、ウイルスの増幅には血清を添加した培地を用いた方が良い。

・ バキュロウイルスを増幅する際、感染8日目からタイターが徐々に低下するので、出来るだけ感染7日目までに回収した方が良い。細胞を観察し、ほぼ全ての細胞にウイルスが感染しているようであれば、感染5日目から7日目の間のタイターに大きな違いは見られない。

・ タンパク質の大量生産を行う際、スケールを倍にしても生産量は倍にはならず、1.5倍くらいになり、生産効率が落ちる傾向がある。可能であればスピナーフラスコの数を増やす方が良い。

・ 分泌タンパク質を大量生産したケースでは、1Lの培養(Sf-900II 1L、細胞密度1.0×106 cells/mL)から約0.5 mgのタンパク質が精製出来た。また、細胞内タンパク質では2Lの培養(Grace培地(+10% FBS、+0.1% Pluronic F-68)2 L、細胞密度1.0×106 cells/mL)から約3 mgのタンパク質が精製出来た。

文献

  1. Luckow, V. A. et al., J. Virol., 67, 4566-4579 (1993)

概要

昆虫細胞とバキュロウイルスを組み合わせた発現系(バキュロウイルス遺伝子発現ベクター系;BEVS)は、大腸菌では困難な高等真核生物特有の翻訳後修飾能力を有しており、生化学アッセイや構造解析などに適した天然の生物学的活性と構造を保持した組換えタンパク質を、ポリへドリンプロモーターの制御下で大量に生産出来る。本プロトコールでは、大腸菌内で組換えバキュロウイルスDNAを作製できるBac-to-Bacシステム(1)を使用した組換えタンパク質の大量生産法を紹介する。遺伝子のクローニングからタンパク質の精製まで早ければ1ヶ月程度で完了する。

装置・器具・試薬

  • pFastBac1などのBac-to-Bac用ベクター (Invitrogen)
  • DH10Bac (Invitrogen)
  • SOC培地 (各社)
  • LB培地 (各社)
  • LB寒天培地(各社)
  • Kanamycin (各社)
  • Gentamicin (各社)
  • Tetracycline (各社)
  • イソプロピル-β-チオガラクトピラノシド(IPTG)(各社)
  • X-gal(各社)
  • QIAprep Spin Miniprep Kit (QIAGEN)
  • インキュベーター(CO2制御は不要)(各社)
  • 低速スターラー(5 ~ 150 rpm)(各社)
  • 100mL、500mL及び1Lのスピナーフラスコ(各社)
  • Sf9昆虫細胞
  • Grace’s insect medium (Invitrogen)
  • Sf-900II Serum Free Medium (Invitrogen)
  • Fetal Bovine Serum (各社)
  • Pluronic F-68 (Invitrogen)
  • Cellfectin (Invitrogen)などのトランスフェクション試薬
  • 6穴プレート(付着細胞用)(各社)
  • 底面積25cm2及び75cm2の培養フラスコ(付着細胞用、フィルター付きのキャップを用いる必要は無い)(各社)

実験手順

組換えバキュロウイルスDNAの作製及び精製

  1. 目的の遺伝子をpFastBac1などのBac-to-Bac用ベクターにクローニングする。
  2. そのプラスミドを氷上で溶かした20μLのDH10Bacに0.1μg程度加え、穏やかに混合し、氷上で20分インキュベートする。
  3. 42℃で1分間ヒートショックを行い、氷上に2分静置した後、200μLのSOC培地(抗生物質の入っていないLB培地でも可)を加え、37℃で4時間培養する。
  4. kanamycin (50μg/mL)、gentamicin (7μg/mL)、tetracycline (10μg/mL)、X-gal (100μg/mL)、IPTG (40μg/mL)入りのLBプレートに播く。全て播くとコロニーが生えすぎるので、希釈したり、減らしたりして撒く量を調節したほうが良い。10倍希釈して100 μl撒くとちょうど良い場合が多い。
  5. 37℃でコロニーの発色の有無を判別出来るまで培養する。通常、24時間程度培養すれば判別できる。
  6. 白色のコロニーを数個爪楊枝でつつき、新しいLBプレート(上記抗生物質、IPTG、X-Gal入り)に植菌し、37℃で一晩培養後、発色の有無を再確認する。
  7. 再確認した白色のコロニー由来の大腸菌をkanamycin (50μg/mL)、gentamicin (7μg/mL)、tetracycline (10μg/mL)入りのLB培地5mLで一晩37℃で震盪培養する。
  8. 増殖した大腸菌からの組換えバキュロウイルスDNAの精製には、QIAprep Spin Miniprep Kit(QIAGEN)が利用可能である。ただし、サイズの大きなバキュロウイルスのDNA(約130Kbp)の精製では、溶出用バッファーを70℃前後に暖めておくと回収量が多くなる。
  9. 精製したウイルスDNAを鋳型とし、M13 Forward (-40) ; GTTTTCCCAGTCACGACとM13 Reverse ; CAGGAAACAGCTATGACのプライマー対を用いてPCRを行い、目的遺伝子の挿入を増幅断片の長さで確認する。

組換えバキュロウイルスの作製

  1. 6穴プレートの各ウェルにGrace培地(+10% FBS)で培養したSf9細胞5×105個を播き、細胞が底面に付着するまで27℃で培養する。なお、Sf-900II無血清培地で培養した細胞を使うと何故か分からないがうまくいかないことが多い。また、あらかじめ血清無添加のGrace培地1 mLを入れたウェルに細胞を播くと、細胞が底面に付着しやすくなる。
  2. 5mLのポリスチレンチューブ(1.5mLのエッペンドルフチューブでも可)を2本用意し、片方には精製したバキュロウイルスDNA1μgとGrace培地125μL(A液)を入れ、もう片方には、Cellfectin (他のトランスフェクション試薬でも可) 6μLとGrace培地125μL(B液)を入れ、それぞれよく混合した後、B液にA液を加え、15分から20分室温で放置した後、さらにGrace培地を250μL加え穏やかに混合する。
  3. 細胞が底面に付着しているのを確認してから培地を取り除き、2)で作製したトランスフェクション液を加える。
  4. 27℃で4時間インキュベートする。
  5. トランスフェクション液を取り除き、2mLのGrace培地(+10% FBS)を加え、27℃で1週間培養する。細胞がコンフルエント(細胞が培養容器の培養面を全て覆い、細胞どうしが互いに接着しあっている状態を指す)に達すると失敗することが多いので、培養開始から1日目くらいに6穴プレートの空いたウェルまたは底面積25cm2の培養フラスコに細胞を半分程移すと良い。培養開始からおよそ5日目にはウイルス感染細胞が多数浮遊し、組換えバキュロウイルスの増殖を確認できる。
  6. 1700xg(3000rpm)、室温、10分の遠心分離により培養上清を回収し、P1ウイルスストックとして4℃または-80℃で保存する。遺伝子産物が分泌タンパク質の場合は、回収した培養上清の一部を、また、それ以外のタンパク質の場合は沈殿として回収した細胞を適当量のSDS-PAGE sample bufferで処理し、SDS-PAGE及びウエスタンブロットにより組換えタンパク質の有無を確認する。

組換えバキュロウイルスの増幅

  1. 底面積75cm2の培養フラスコにGrace培地(+10% FBS)10mLと1.0×106個のSf9細胞を播く。
  2. P1ウイルスストックを50μl程度加える。
  3. 27℃で5日から7日培養する。
  4. 1700 xg(3000rpm)、室温、10分の遠心分離により培養上清を回収し、P2ウイルスストックとして4℃または-80℃で保存する。
  5. P2ウイルスストックを作製している間に、P3ウイルスストック用のSf9細胞(Grace培地(+10% FBS、+0.1% Pluronic F-68)500mL、細胞初期密度2.0×105 cells/mL)を500mLのスピナーフラスコを用いて回転速度80~90rpmくらいで懸濁培養しておく。
  6. P2ウイルスストックのタイターをプラークアッセイまたは市販のキットで決定し、細胞密度が1.0×106 cells/mLに達したらMOI (multiplicity of infection ; 感染多重度) =0.1(Sf9細胞1個に対して感染ウイルス粒子0.1個)で感染させる。
  7. 27℃、回転速度120~130rpmで5日から7日培養する。
  8. 1700 xg(3000rpm)、室温、10分の遠心分離により培養上清を回収し、P3ウイルスストックとして4℃で保存する。組換えタンパク質の大量生産にはP3ウイルスストックを使用する。

組換えタンパク質の大量生産

  1. 100mLのスピナーフラスコ(培地量100mL)を用いて、最適な感染期間、MOI、及び細胞密度を決定する。多くの場合、48~72時間の感染期間、2~5のMOI、1.0×106 cells/mLの細胞密度という条件で大量生産を行っている。
  2. 500mLや1Lのスピナーフラスコを用いてSf9細胞を大量培養し、1)で決定した条件に従い、ウイルスを感染させる。
  3. 1700 xg(3000rpm)、室温、10分の遠心分離により分泌タンパク質の場合は培養上清を、細胞内タンパク質の場合は細胞を回収する。培養上清は精製するまで4℃で、細胞は-80℃で保存する。
  4. 培養上清は限外ろ過膜による濃縮や透析でバッファー交換を行い、例えばヘキサヒスチジン(6xHis)やグルタチオン-S-トランスフェラーゼ(GST)などの精製用タグを融合した組換えタンパク質の場合には、NiカラムやGS4Bカラムを用いてアフィニティー精製を行う。細胞の場合は、界面活性剤入りの溶解バッファー (例 50mM Tris HCl pH8.0、 150mM NaCl、 1% NP40) を1.0×107個のSf9細胞に対して1mL加えて懸濁し、氷上で30分静置した後、遠心分離により上清を回収し、ヘキサヒスチジンタグ融合タンパク質であればNiカラムなどを用いて精製を行う。

工夫とコツ

・ 昆虫細胞の翻訳後修飾特性は哺乳類細胞のそれと完全に一致している訳ではない。例えば、昆虫細胞では哺乳類細胞で付加される複合型のN型糖鎖は付加されない。そのため、Sf9細胞で生産された哺乳類由来の糖タンパク質は天然の生物学的活性と構造を保持していない可能性があることに注意する必要がある。

・ N型糖鎖修飾に関しては、哺乳類の糖転移酵素遺伝子をSf9細胞のゲノム中に挿入し、安定に発現させることで複合型糖鎖の修飾を可能にしたMimic Sf9細胞(Invitrogen)が市販されている。

・ Bac-to-Bac用のベクターには、

  1. pFastBac 1:ポリヘドリンプロモーター、タグ無し
  2. pFastBac HT A (B及びC):ポリヘドリンプロモーター、N末6xHisタグ
  3. pFastBac Dual:ポリヘドリンプロモーター及びp10プロモーター、タグ無し
  4. pDEST 8:ポリヘドリンプロモーター、タグ無し
  5. pDEST 10:ポリヘドリンプロモーター、N末6xHisタグ
  6. pDEST 20:ポリヘドリンプロモーター、N末GSTタグ

の6種類(全てInvitrogen)があり、4、5、6についてはGatewayテクノロジーによるクローニングが可能である。また、p10プロモーターはポリヘドリンプロモーターと同様にタンパク質の大量発現が可能なプロモーターであり、ポリヘドリンプロモーターと同時に用いることで2種類の遺伝子を発現させることが出来る。

・ バキュロウイルスDNAを鋳型にしたPCRで得られる増幅断片の長さは、目的遺伝子とポリヘドリンプロモーターやgentamicin耐性遺伝子などベクター由来の塩基配列を合わせたものである。ベクター由来の増幅断片の長さは用いるベクターによって変わる。詳しくは下表参照。

ベクター 増幅断片の長さ
無し(未組換え) 約300 bp
pFastBac 1 約2.3 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pFastBac HT A(B及びC) 約2.4 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pFastBac Dual 約2.6 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pDEST 8 約2.5 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pDEST 10 約2.7 kbp + 目的遺伝子のサイズ
pDEST 20 約3.2 kbp + 目的遺伝子のサイズ

・ コロニーPCRでも組換えバキュロウイルスDNAの確認は可能である。

・ Sf-900IIで培養したSf9細胞では何故かウイルスの生産効率が低いので、ウイルスの増幅には血清を添加した培地を用いた方が良い。

・ バキュロウイルスを増幅する際、感染8日目からタイターが徐々に低下するので、出来るだけ感染7日目までに回収した方が良い。細胞を観察し、ほぼ全ての細胞にウイルスが感染しているようであれば、感染5日目から7日目の間のタイターに大きな違いは見られない。

・ タンパク質の大量生産を行う際、スケールを倍にしても生産量は倍にはならず、1.5倍くらいになり、生産効率が落ちる傾向がある。可能であればスピナーフラスコの数を増やす方が良い。

・ 分泌タンパク質を大量生産したケースでは、1Lの培養(Sf-900II 1L、細胞密度1.0×106 cells/mL)から約0.5 mgのタンパク質が精製出来た。また、細胞内タンパク質では2Lの培養(Grace培地(+10% FBS、+0.1% Pluronic F-68)2 L、細胞密度1.0×106 cells/mL)から約3 mgのタンパク質が精製出来た。

文献

  1. Luckow, V. A. et al., J. Virol., 67, 4566-4579 (1993)