タンパク質リフォールディングの標準的な方法

筑波大学大学院・数理物質研究科・電子・物理工学専攻

  • 邦文引用浜田寛之ら, 蛋白質科学会アーカイブ, 1, e035 (2008)
  • キーワードリフォールディング、凝集抑制
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概要

リフォールディングとは、変性させたタンパク質を活性のあるネイティブ構造へと巻き戻す方法をいう。大腸菌などの発現系を用いて異種タンパク質を大量調製するとき、しばしば封入体(凝集体)が形成するため、可溶化させたあとリフォールディングさせる技術が必要になる。本プロトコールでは、変性させたタンパク質を過剰量の緩衝液で希釈することで希釈リフォールディング法について、標準的な方法や留意点を述べる。

装置・器具・試薬

装置

  • インキュベーター(各社)
  • 遠心機(各社)
  • ボルテックスミキサー

試薬

  • 変性剤(グアニジン塩酸塩や尿素が用いられることが多い)
  • 還元剤(β-メルカプトエタノールやジチオトレイトールが用いられることが多い)
  • 緩衝液(トリス緩衝液やリン酸緩衝液など適宜)

変性緩衝液の例
 6M 塩酸グアニジン、50 mM ジチオトレイトール、50 mM トリス緩衝液 (pH 8.2)

リフォールディング緩衝液の例
 50 mM トリス緩衝液 (pH 8.2)

標準的な変性とリフォールディング方法

1) 可溶化

変性緩衝液を利用して、封入体やミスフォールドしたタンパク質を可溶化する。変性剤には塩酸グアニジンを用いることが多い。濃度は安定なタンパク質の場合には7M程度、不安定なタンパク質の場合には2M程度を用いる。ジスルフィド結合を有するタンパク質の場合には、変性剤以外に、還元剤が必要になる。還元剤にはβ-メルカプトエタノールやジチオトレイトール(DTT)が広く用いられている。この場合、凝集体の中で誤ったジスルフィド結合を形成している可能性があるので、完全に可溶化するにはある程度時間を要する。例えば4本のジスルフィド結合を有するニワトリ卵白リゾチームの場合、当研究室では完全に可溶化するまでに37℃で3時間程度、室温なら12時間程度インキュベートしている。また、銅イオンなどの金属イオンが空気酸化を触媒するため、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)を加えるとうまくいく場合がある。

2) リフォールディング

リフォールディング緩衝液に、変性させたタンパク質溶液を希釈または透析することで変性剤の効果を低下させてネイティブ構造へとリフォールディングさせる。標準の希釈倍率は10倍から100倍である。リフォールディングに適した温度はタンパク質によって様々である。4℃でうまくいくものもあれば37℃でうまくいくものもある。必ずしも低温の方が良いとは限らないので最適な温度を調べておくと良いだろう。また還元変性させたタンパク質には酸化剤として酸化型グルタチオンやシスチンを加える必要がある。

工夫とコツ

1)変性について

タンパク質を完全に変性させるには変性剤と還元剤が必要だが、基本的には塩酸グアニジンとDTTでうまくいく。難しいのは変性させたあと、いかにリフォールディングさせるかにある。

1-1) 変性剤

変性剤は基本的には塩酸グアニジンを用いるとよい。塩酸グアニジンの変性能は高く、しかも高濃度 (8M) まで溶解するために、たいていのタンパク質を変性させることができる。かつて尿素が変性剤として使われていたこともあったが、尿素水溶液はシアン酸を生じてタンパク質を化学修飾する可能性があるため好ましくない。グアニジンを用いても変性しない場合には界面活性剤など強い変性作用をもつ化合物に代えるのも一つの手ではあるが、変性温度を37℃や50℃といった高温にすることを考えた方が良い。その理由として、SDSやCHAPSなどの界面活性剤はさらに強力にタンパク質を変性させるが、タンパク質と強く結合してしまいリフォールディングを阻害することがあるからである。界面活性剤を用いる場合には、シクロデキストリンやシクロアミロースなどの除去剤をリフォールディング液に加えるなどして強制的に除去する必要がある。塩酸グアニジンはこれらの欠点がなく広く用いられる。

1-2) 還元剤

ジスルフィド結合を有するタンパク質の場合、変性剤の除去とともに還元したチオール基を酸化し、正しいジスルフィド結合を形成させる必要がある。古くは金属イオン(Cu2+)などを添加し、空気酸化を触媒する方法もあった。しかし、ジスルフィド結合はフォールディングに比べると形成の反応速度は遅く、基本的に空気酸化の効率は低いため、収率はさほど高くない。そこで近年では酸化試薬に適度な割合で還元型の試薬を混合する方法が用いられる。還元剤を共存させておくことでジスルフィド結合の交換反応が起こり、最終的には天然のジスルフィド結合が形成される。酸化型と還元型の混合比率はタンパク質によるが、リゾチームの場合は10:1から1:1程度の比率で混合している。

酸化剤/還元剤の組み合わせとしては、主にグルタチオン酸化型/還元型、シスチン/システイン、システアミン/シスタミン、βメルカプトエタノールなどの酸化剤と還元剤の組み合わせが多用されている。さらに近年では、酸化還元試薬をデザインし、チオール基のpKaを最適化することでジスルフィド交換反応を効率的に触媒させる方法もある (1)。

2) リフォールディング収率を増加させるには?

リフォールディングは温度や組成、反応時間、pH、添加剤など様々な因子によって収率が大きく変化する。最近では、リフォールディング条件のデータベースがあり、条件の検索の参考になる(http://refold.med.monash.edu.au/)。

2-1) 希釈するか透析するか

多量の緩衝液で希釈して変性タンパク質をリフォールディングさせる希釈法は操作が簡便でコストもかからないが、その反面、多量のリフォールディング緩衝液で希釈するために濃縮しなければならない。一方、透析法でリフォールディングさせる場合には、タンパク質濃度に大きな変化はない。一般的には100倍以上の緩衝液に透析することで変性剤を少しずつ除去する。最初2時間程度で透析外液を交換し、引き続き一晩透析することが多い。但し、透析法では変性剤の除去に長時間(25℃で24時間程度)かかるため、場合によってフォールディング中間体同士が凝集する可能性がある。 この理由から、一般的には変性剤が除去される速度が速い希釈法の方がリフォールディングに好ましいとされている。また、タンパク質が微量である場合に透析法で行う必要があるときには、市販されている微量用透析膜を用いることで数100mLの系でリフォールディングさせることも可能である。リフォールディングさせるには希釈法と透析法のどちらが良いかはタンパク質によるため、一度両方で比較してみると良いだろう (2) 。

2-2) タンパク質濃度

リフォールディングにおいては正しいフォールディングと凝集反応が競争する。 タンパク質のフォールディングも凝集も、溶媒との接触面積を極力減少させる凝縮反応という視点で見れば同じものであり、 その違いは単分子反応か分子間反応かという点にしかない。つまり、タンパク質濃度が高いと分子間反応である凝集は進みやすくなる。したがって、できるだけ低濃度でリフォールディングさせることが収率向上のためには最も有効である。低濃度でリフォールディングさせるためには希釈倍率を高くしたり、変性タンパク質のストック溶液を薄く調製したりすることが有効である。ただし、最終的なリフォールディング緩衝液の体積が必要以上に大きくなってしまうという問題がある。産業利用は難しいがポリマーソームや分子シャペロンで分子間の会合頻度を低下させることもリフォールディング収率の増加にはきわめて効果的である。

2-3) 希釈倍率

希釈倍率もリフォールディング収率に大きな影響を与える因子である。 前述したように、タンパク質濃度が希薄なほど分子間の凝集は抑制できるが、希釈倍率を高くすれば良いというものでもない。 それは、グアニジンなどの変性剤は凝集抑制能を有するため、希釈倍率を高くしすぎると変性剤の凝集抑制能が働かず、逆に収率の低下を招くからである。つまり、希釈倍率が低すぎるとタンパク質濃度が高く凝集しやすいが、希釈倍率を上げすぎても凝集が促進する。タンパク質の安定性などに応じて最適な希釈倍率を見極める必要もあるだろう。当研究室で調べたところ、リゾチームの場合おおよそ20倍から40倍希釈のときに最も収率が向上する。

2-4) pH

ジスルフィド結合を含むタンパク質であれば交換反応を効率的に起こすことが高い収率を得る鍵になる。システインのチオール基のpKaは約8.3なので、チオール基がチオレートアニオンになるためには通常はpH 8以上の緩衝液でリフォールディングさせる。ジスルフィド結合の再生が必要のないタンパク質であれば、等電点から遠ざけることで非特異的な凝集を抑制できる可能性が高く有効である。

2-5) 還元変性状態からリフォールディングさせるのに必要な時間

リフォールディングに必要な時間はジスルフィド結合の有無や、ネイティブ状態の安定性などにより大きく異なる。そのためリフォールディング収率が思わしくない場合は、リフォールディング時間を長くとる必要がある。例えばジスルフィド結合を持つリゾチームの場合では、ジスルフィド交換反応の起こりやすいpH8以上の条件では3時間程度でリフォールディング反応は収束するが、pH7付近だと12時間ほどかかる。

2-6) 低分子化合物の添加

リフォールディングにおいて高い収率を実現するためには凝集とリフォールディングのバランスを考慮することが重要である。アルギニンなどの添加剤を0.5Mから1.0M程度加えると選択的に凝集を抑制でき、リフォールディング収率を改善することができる。また、アルギニンエチルエステルやアルギニンアミドなどを0.1 M程度加えることでも大きく収率が改善させる場合がある。また、この方法は透析法にも適用可能である (2)。

2-7) 酵素の利用

フォールディング促進酵素としては、GLoES、GLoELなどの分子シャペロンやフォールダーゼと呼ばれる酵素などが存在する。ほかにもPDI (Protein Disulfide Isomearase)やPPI (Peptidyl-Prolyl cis-trans Isomerase)がある。しかし、これらのタンパク質は精製や、入手が困難であり、何よりも高価であるというデメリットがある。

2-8) キットを用いる

最近ではさまざまなリフォールディングキットが各社から販売されている。キットには二種類ある。これを使うとうまくいく、というタイプには、和光純役工業株式会社のTAPS-sulfonateやNovexin社のRefold SK、江崎グリコ株式会社のシクロアミロースを用いたキットがある。いずれも工夫されているので試してみる価値はある。条件の一次スクリーニングとしてpHや緩衝液の種類、低分子化合物の添加剤などがマイクロプレートに96種類入っているメルク社のiFoldなどがある。後者は高価な試薬を瓶ごと買う必要がなく、簡便にリフォールディング条件を検討できるという利点がある。市販キットは蛋白質核酸酵素に特集が組まれているので参考になる(3) 。

文献

  1. Gough, J. D. & Lees, W. J. J. Biotechnol., 115, 279-90 (2005)
  2. 梅津 光央ほか, 生物物理, 44, 102-107 (2004)
  3. 清水 真人ほか, 蛋白質核酸酵素 52, 381-388 (2007)