発現ベクターの構築に関わるTips

京都大学大学院農学研究科

  • 邦文引用井沢真吾, 蛋白質科学会アーカイブ, 1, e024 (2008)
  • キーワードゲルの切り出し、ライゲーション、UVイルミネーター、高効率コンピテントセル、挿入断片の確認
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全体の概要

発現ベクターを構築する上での、DNAに優しい切出し、形質転換の効率向上、時間短縮、コストダウンに役立つDNAの泳動方法やライゲーション方法の情報提供。

主な内容

  1. UV照射をしないゲルからのDNA切出しと室温でのDNAライゲーション
  2. 高効率コンピテントセルの自作方法
  3. 挿入断片が入ったコロニーの経済的な目星の付け方

1. UV照射をしないゲルからのDNA切出しと室温でのDNAライゲーション

概要

UV照射によるDNAのダメージを避けたアガロースゲル電気泳動とその切り出し。

装置・器具・試薬

  • 核酸泳動用のアガロースゲル(1%前後の固さ)と電気泳動槽(MupidやGelMate2000など)
  • Gel Indicator™ (BioDynamics Laboratory 社製)
  • Quick Ligation™ Kit (New England Biolabs 社製)など

目的

制限酵素処理後やアルカリフォスファターゼ処理後のDNAは、アガロースゲル電気泳動で目的断片を他の断片から分離する。通常は、泳動後にエチジウムブロマイド(EtBr)で染色したり、あるいは最初からEtBrを含んだゲルで泳動して、暗室のUVイルミネーター上でバンドを確認することが広く行われている。

しかし、UV照射によるDNAの損傷のために、変異頻度の上昇やライゲーション効率の低下が問題となる場合がある。初心者が作業に馴れずにもたついて長時間UVをゲルに照射してしまう際や、UVイルミネーターを新品に交換した際に、実験がうまくいかなくなる原因の一つとして過剰なUV照射によるDNAの損傷が考えられる。

筆者らはUV照射をせずにゲルからの切り出しを行うために、BioDynamics Laboratory 社 (フナコシなどで取扱)から販売されているGel IndicatorTMを利用している(1)。本品はアガロースゲルとDNAを試薬で染色してから泳動することにより、UVイルミネーターなどの装置無しで泳動中からDNA断片が可視化される(図1)。それぞれのバンドが分離したところで泳動を止め、実験台上でゲルを切り出すことができるので、わざわざ暗室と実験室を往復することなく、スムーズにDNAの精製ステップに進むことができる。  切出し後のライゲーションについても、16℃などの低温インキュベータを必要とせずに、室温で短時間に実施できる酵素が販売されている。New England Biolabs(NEB)社のQuick LigationTM Kit(2)やプロメガ社のLigaFastTM Rapid DNA Ligation System(3)は室温5分間の反応でライゲーション反応を完了できる。これらはkitやsystemと名が付いてはいるが、実際にはDNA溶液にバッファーと酵素を加えるだけである。付け加えておくと、NEB社のT4 DNA ligaseは実は室温で利用できるので、若干反応時間が長くはなるがよりコストを圧縮することが可能である(4)。

Gel Indicator™ を利用した実験手順

  1. 1 %低融点アガロースゲルなどが解けた状態のうちに1000分の1容量(100mLのゲルには100μl)のGel Indicator Solutionを加え、均一に溶かした後に泳動ゲルを作成する。
  2. DNAのサンプルには5分の1容量のOrange loading dyeを加え、均一に溶かす。
  3. 1)2)のゲルとサンプルを用いて電気泳動を行い、目的のバンドが分離したら切り出し・精製を行う。

New England Biolabs(NEB)社 Quick Ligation™ Kitを利用した実験手順

  1. ライゲーションを行うDNAのサンプルを10μlの滅菌水に溶解する。
  2. 2X Quick Ligase Bufferを10μl加え、よく溶解する。
  3. 1μlのQuick T4 DNA Ligaseを加え、25℃で5分間反応させる。その後、コンピンテントセルを使った形質転換を行う。

2. 高効率コンピテントセルの自作方法

概要

市販のコンピテントセルを利用するのは経済的に負担が大きいので、超低温フリーザーでの保存も可能なコンピテントセルを自前で作成する。Inoue et al.(1990)の方法が多くのラボで少しずつ改変されて使われている(5)。作業時間は約半日、培養を除けば1時間少々。

装置・器具・試薬

  • 大腸菌(各自の好みの菌株)
  • 核酸泳動用のアガロースゲル(1%前後の固さ)と電気泳動槽(MupidやGelMate2000など)
  • Transformatin Buffer (TB):950mL の蒸留水に10 PIPES (3.0g)、 15mM CaCl2・2H2O (2.2g)、 250mM KCl (18.6g)を溶解しKOHでpH6.7に調整する。さらにMnCl2・4H2Oを10.9g (55 mM)加え、蒸留水で終量1 literにfill up。濾過滅菌後4℃にて保存。使用前に氷冷しておく。
  • SOB培地 Bacto Tryptone 20g、Yeast Extract 5g、5M NaCl 2mL、2M KCl 1.25mLを終量990mLの水に溶解してオートクレーブ。60℃以下に冷めてから濾過滅菌した2M Mg solution (1M MgSO4 ・7H2O + 1M MgCl2・6H2O)を10mL加える。冷蔵保存し、無菌的に利用する。
  • 液体窒素、氷
  • 超低温フリーザー(-80℃以下で使用)
  • 50mLサイズの滅菌済遠心管(ファルコンチューブ)、滅菌済サンプルチューブ、低温遠心機

実験手順

4) 300mL三角フラスコで50mL SOB培地でOD600=0.5まで大腸菌を培養(低温で培養するほうが効率がよい、筆者らは25℃でオーバーナイトの培養をして、翌朝コンピテントセルを作成している)。
5) 無菌的操作で培養液をファルコンチューブに移して10分間氷冷。
6) 0-4℃で冷却しながら集菌(3000rpmで10分間)、上清は捨てる。
7) 氷冷したTB 16mLを加え懸濁、10分間氷冷。
8) 4℃で冷却しながら集菌(3000rpmで10分間)、上清は捨てる。
9) 2mLの氷冷したTBを加え懸濁、さらに150μlのDMSOを加え(final 7%)、10分間氷冷。
10) 100μlずつエッペンチューブに分注し液体窒素で急冷、その後-80℃で保存(1~2ヶ月は充分使用可能)。

利用の際は市販のコンピテントセル同様の使用法で形質転換する。

(ア) 氷上でコンピテントセルを溶解し、DNA sampleを加え1時間氷冷 (15-30分でも十分)。
(イ) 42℃でヒートショックを30秒(あるいは120秒)与え、ただちに氷冷。
(ウ) 氷冷を2分した後、SOB培地あるいはLB培地 2mLに懸濁、37℃で穏やかに1時間振盪する(振盪無しでも可、10~30分でも十分)。
(エ) 集菌しplating、37℃で12~18時間培養。

3. 挿入断片が入ったコロニーの経済的な目星の付け方

概要

発現ベクター構築の際に、形質転換後の多数の大腸菌コロニーの中から挿入断片が入ったコロニーを経済的かつ簡便に見つけだす(目星をつける)方法。Blue/whiteの判別ができない場合、挿入断片が保持されているかどうかをコロニーPCRやmini prepと制限酵素で確認したりするのは費用も手間もかかって大きな負担となる。そこで、まず本法で目星をつけておいて、目的の挿入断片が入っていそうなもののみmini prepで精製して確認をすれば多少経済的・効率的になる。培養時間を除くと作業時間は約1時間。

装置・器具・試薬

  • 滅菌した爪楊枝。順向き・逆向き二種類の方向で爪楊枝を100mLビーカーに入れてアルミホイルでふたをしてオートクレーブしておく。使用後もオートクレーブによって再利用可。
  • 大腸菌培養用のプレート(プラスミドを保持するための抗生物質等を含む)
  • Cracking solution (3 % w/v SDS、 50mM Tris-base、 pH12.6)
  • 核酸泳動用のアガロースゲル(1%前後の固さ)と電気泳動槽(MupidやGelMate2000など)
  • 65℃のヒートブロックあるいはインキュベーター
  • 泳動用色素 (たとえば100mM EDTA、 30% Sucrose、 10% glycerol、 10% Xylene cyanol、 10% Bromo Phenol Blueの混合液、その他、TaKaRaやTOYOBOの制限酵素にオマケでついてくるものでも可能)
  • 1.5mLサンプルチューブ
  • PCI (phenol:chloroform:isoamylalcohol=25:24:1)

実験手順

  1. 形質転換で出たコロニーは滅菌した爪楊枝(順向き)を使い、一枚のシャ-レ当たり16個のplasmidを広げておく。コントロールとして空のベクタ-を保持した大腸菌も広げ、37℃で7-8時間培養(図2)。
  2. 1.5mLサンプルチューブにCracking solutionを50μlずつ分注する。
  3. つまようじの頭で菌体を採取し、Cracking solutionに懸濁する(図3の白い部分が菌体)。懸濁すると粘りが出て糸を引くようになる。
  4. ふたをして65℃で10分間インキュベートする。
  5. ほぼ等量のPCIと数μlの泳動用色素を加え5-10秒Vortex(さらに時間を短縮したい場合はPCIと泳動色素を前もって混ぜてから分注する。)。
  6. 13000rpm程度で3~5分遠心。
  7. 上清を20μl取りアガロース電気泳動、染色、観察(図4)。
  8. コントロールよりも上にバンドがくれば何かが入っている可能性大なのでmini prepなどで精製して確認する。

工夫とコツ

泳動は100Vで45分ほど、Xylene cyanolの黄色のバンドがゲルの先端に届くぐらいまで流すと差がわかりやすい。

  • 図1
  • 図2
  • 図3
  • 図4