BN-PAGEによるタンパク質複合体の解析

九州大学大学院理学研究院・生物科学部門

  • 邦文引用田村茂彦, 蛋白質科学会アーカイブ, 1, e015 (2008)
  • キーワードタンパク質複合体、電気泳動、分子量測定、相互作用解析
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概要

Blue Native Polyacrylamide Gel Electrophoresis (BN-PAGE)はNative PAGEのひとつであり、複合体構造をとるタンパク質および膜タンパク質複合体の大きさや分子種を調べるうえで有用な手法である(1)。つまり、通常のSDS PAGEでは変性状態のタンパク質を分離するのに対し、BN-PAGEではタンパク質の高次構造や複合体構造を保持したまま分子の大きさに従って分離することができる。さらに、2次元目の電気泳動(SDS-PAGE)を行うことで、ターゲットとしている複合体に含まれる個々のタンパク質組成についても調べることが可能となる。特に、界面活性剤の添加が必要となる膜タンパク質の複合体解析において、BN-PAGEは通常のNative PAGEやゲル濾過クロマトグラフィーと比較して分離能や簡便性等が優れている場合があり、この実験手法は極めて強力なツールとなり得る(2)。

まず、BN-PAGEの原理について簡単に説明するが、SDS-PAGEではタンパク質にSDSを強く結合させて一様に負の荷電を持たせながら泳動するのに対し、BN-PAGEではCoomassie Brilliant Blue G-250 (CBB G-250)をタンパク質分子の表面に弱く結合させて全体を負に荷電させる。通常のNative PAGEではタンパク質分子またはその複合体が持つ荷電に依存して電気泳動を行うため、その荷電状態によって泳動度が影響を受けることで分子の大きさを反映しない場合があるが、BN-PAGEではタンパク質自身の荷電状態の影響を抑えることができる。また、膜タンパク質や疎水性のタンパク質にもジギトニンなどの界面活性剤存在下でCBB G-250と結合させることで泳動・分離を可能とする(2、3)。

実験操作としては、SDS-PAGEを行う要領で進めればよいが、ゲル、泳動バッファー、サンプルバッファー等の組成が異なる。以下に、筆者らの研究室で行っているBN-PAGEの手順および試薬等について概説する。最近、インビトロジェン社からBN-PAGE用のゲルやバッファー等を含む泳動セットが販売されているのでそちらも参照して頂きたい。しかしながら高価な試薬であるため、当研究室では実験の目的にあわせて自作のゲルやバッファー等と併用している。

実験に必要な装置・器具・試薬

パワーサプライ、泳動槽、ゲル板、グラディエントメーカー(サンプラテック社製)などの通常のSDS-PAGEを行うための器具や装置

Stock Solution
 (1) 1M Tricine/NaOH (pH7.0)
 (2) 1M Bis-Tris/HCl (pH7.0)

泳動バッファー
 (3) Cathode Buffer 50mM Tricine/NaOH
15mM Bis-Tris/HCl (pH7.0)
0.02% CBB G-250

 (4) Anode Buffer 50mM Bis-Tris/HCl (pH7.0)

ゲル作製用バッファー
 (5) Gel Buffer 100mM Bis-Tris/HCl (pH7.0)
1M 6-aminocaproic acid

 (6) Acrylamide溶液 48% acrylamide
1.5% bisacrylamide

サンプルバッファー
 (7) 10x sample Buffer (1mLも調製すれば十分)
5%(w/v) CBB G-250
500mM 6-aminocaproic acid
100mM Bis-Tris/HCl (pH7.0)
1mM PMSF

上記の試薬はすべて4℃にて保存。また、ここで用いているCBB-G250(別名Serva Blue G)は、汎用されているCBB-R250とは別のものであることに注意。

ゲルの組成(ミニスラブゲル1枚)

実験手順

1)BN-PAGE用ゲルの作製
2)サンプルの前処理
3)サンプルのアプライ
4)電気泳動
5)固定・染色またはウェスタンブロッティング
6)必要に応じて2次元目のSDS-PAGE

実験の詳細

1)研究対象とするタンパク質複合体の大きさに応じてグラディエントゲルの濃度を決定する。筆者らは分子量が数十万の複合体を対象とするときは4 - 10%のゲルを作製しているが、もっと小さい場合は4 - 12%または4 - 16%のゲルを用いている。分離用のグラディエントゲルを作製した後、Laemmliのスタッキングゲルを作製する要領でupper gelを重層し、コームを差し込み、必要数のウェルを形成させる。

2)タンパク質試料を10X sample Bufferにて前処理する。例えば、18μlの試料に対して2μlの10X sample Bufferを加え、氷上にて5分程度置く。当研究室では、膜タンパク質の可溶化は主に0.5%または1%のジギトニンを用いている。

3)前処理後のサンプルをアプライするが、アプライ量は12ウェルのゲルで約15μlを超えないようにする。この時、サンプルにグリセロール等が含まれていなければ、ウェルに沈めるために適当量のグリセロールを加える必要がある。膜タンパク質を解析する場合、可溶化の時点でグリセロールを添加することが多いため、BN-PAGEサンプル作成時にはグリセロールの添加が不要なことがある。また、タンパク量は、泳動後にCBB染色または銀染色を行うか、それともウェスタンブロッティングを行うかによって、適宜決める。同時に分子量マーカーも泳動するが、筆者らはGE/ヘルスサイエンス社のネイティブPAGE用マーカーを用いている。

4)サンプルのアプライ後、パワーサプライを100Vの定電圧にセットし、泳動を開始する。このとき電流は数mAを示すが時間とともに徐々に下がってくる。1時間程度経過した後、電圧を150Vに上げてもよい。筆者らは、泳動は低温室(4℃)にて行っているが、サンプルによっては室温でも構わない場合もある。ただし低温で泳動する方がやや時間がかかる。電圧や温度の条件は文献によって様々であるが、それぞれのサンプルで最適な条件を見つけるとよい(4)。泳動が完了するまで3~4時間程度かかる。このとき泳動の後半1.5?2時間では、CBB G250を含まないCathode Bufferに交換してゲル中のCBB G250を除く。CBB-G250はPVDFに吸着しやすく、これがBN-PAGEからウェスタンブロッティングを行う際の抗体の反応性を弱める一因となる可能性がある。

5)泳動終了後、ゲルを取り出して通常の固定およびCBB染色や銀染色、またはウェスタンブロッティングで検出する。ウェスタンブロッティングでは泳動後のゲルを20mM Tris-HCl、150mM Glycin、0.1% SDSバッファーに10分間浸してタンパク質を変性させた後にPVDFメンブレンにブロッティングする。ブロッティング後のメンブレンはCBB G250で青色を呈しているが、この色素が抗体の反応を阻害または高いバックグランドを呈するようであればCBB G250をさらに除く操作が必要となる。この場合は、メンブレンをメタノールで洗浄し脱色するのだが、この処理により、抗原性の向上も期待できる。一方、2次元目の電気泳動としてSDS-PAGEを行えば完全にCBB G250を除くことができ、色素を気にすることなくタンパク質を検出することが可能である。

6)2次元目のSDS-PAGEへ進めるならば、サンプルを泳動したレーンをカミソリで短冊状に切り取り、SDS-PAGEの泳動バッファーに浸して10分間振とうする。必要であれば、ハイブリバッグ中にSDS-PAGE用のサンプルバッファーと共に入れて、50℃で10分間前処理する方法もあるが、あまりやり過ぎるとサンプルのロスが大きくなる(4)。もしメルカプトエタノールまたはDTTを含んだ溶液で処理した場合は、SDS-PAGEの泳動バッファーで10分x3回以上、よく洗浄する必要がある。還元剤を含んだ溶液での前処理またはジギトニンで可溶化したサンプルでは、十分にゲルを洗浄しないとSDS-PAGEのゲルが固まらないというトラブルが起きる可能性がある。

次に、SDS-PAGE用のゲル板を組み立てる際に、スタッキングゲルの真ん中あたりとなる場所に、よく水気を除いた短冊状のゲルを置いて、そのまま挟み込むようにしてゲル板を組み立てる。こうして通常のLaemmliのSDS-PAGEと同様にセパレーションゲルとスタッキングゲルを作成していく。セパレーションゲルはゲル片に接触しないように端から流し込み、スタッキングゲルを流し込む際はゲル片との境界部に気泡が残らないように気をつける。SDS-PAGEの終了後、実験の目的に応じてそれぞれの方法でタンパク質を検出する。

工夫とコツ

ゲルの作成

グラディエントゲルの作成には時間がかかる場合があり、途中でゲルが固まってしまうのを防ぐために、ゲル溶液はできるだけ冷やしてから操作を開始した方がよい。

サンプルの塩濃度

高濃度のNaClを含むサンプルはBN-PAGEに向かないため、この場合は塩としてアミノカプロン酸を使用するとよい。

サンプルのアプライ

タンパク質試料の溶液組成にもよるが、サンプルバッファーに適当量のグリセロールを加えた方がサンプルが沈みやすくアプライが容易となることがある。また、アプライの前にCBB G250を含んだCathode Bufferを泳動槽に入れてしまうと、ウェル中のサンプルを識別しにくくなり間違いを起こしやすくなる。そこで、アプライの際はCBB G250を含まないCathode Bufferをウェルに満たしただけで行い、アプライ後にCBB G250を含んだCathode Bufferを泳動槽に注ぐとよい。

泳動時間

実験のスケジュールに応じて、夜遅くから低電圧でオーバーナイト泳動(40V 、4℃)することも可能である。ただし、電圧を極端に下げすぎるとパワーサプライの種類によっては極端な低電流のために安全装置がはたらき、夜中に泳動が止まってしまう恐れがあるので注意が必要。

ウェスタンブロッティング

Native PAGEではタンパク質が高次構造を維持したままPVDFメンブレンにブロッティングされることで抗原部位が露出せず、抗体との結合が困難になることがある。泳動後のゲルを20mM Tris-HCl、150mM Glycin、0.1% SDSバッファーで10分の処理を行っても、特定のタンパク質についてはうまく変性させることが困難な場合がある。このようなとき筆者らはブロッティング後のメンブレンを50mM Tris-HCl(pH7.4)、 2% SDS、0.8% メルカプトエタノールからなるバッファーと共にハイブリバッグに入れて、50℃で30分間処理する。その後、よく洗浄してからウェスタンブロッティングでのブロッキングへと進める。この操作で、抗体が結合できないといった立体構造的な障害はほぼ解消される。

文献

  1. Schägger, H., et al., Anal. Biochem. 199, 223-231, 1991
  2. Schägger, H., Meth. Cell Biol. 65, 231-244, 2001
  3. Schägger, H., et al., Anal. Biochem. 217, 220-230, 1994
  4. Dekker, P. J., et al., EMBO J. 16, 5408-5419, 1997
  • 表1