NMRによる蛋白質の立体構造解析

大阪大学・薬学研究科


  • キーワードNMR立体構造
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概要等

NMRを用いて溶液中での蛋白質の立体構造を求める際には、その分子量に応じて異なった試料・解析法が要求される。分子量1-2万程度の蛋白質は、13C/15N均一ラベル蛋白質試料を用いた手法が確立しており、本稿ではそれについて述べる。より高分子量の蛋白質に対しては、13C/15Nに加えて2Hラベルや、アミノ酸特異的ラベルが必要となり、それに合わせた測定法・解析法が必要である。なお、ここで分子量とは溶液中における値であり、二量体など会合体ではその分大きくなることに留意する必要がある。分子量数千のいわゆるペプチドに対しては、必ずしも同位体ラベル試料は必要でないが、1H-NMRデータの測定・解析には職人芸的なテクニックが必要となる場合もあり一概に容易とはいえない。またヘム蛋白質など常磁性金属を含む蛋白質は特別に扱う必要がある。

NMRを用いた構造解析は、化学シフト帰属段階と、構造情報取得段階に分けられる。前者では、NMRによって観測される各原子核の化学シフトを蛋白質の化学構造中の各原子に結び付ける。なかでも主鎖原子の帰属は他の段階に比べ容易であり、分子間相互作用解析など立体構造解析以外にも役立つ情報が得られるため、立体構造既知の蛋白質に対しても実施する場合がある。後者では、蛋白質分子内の原子間距離や角度に関する情報を与えるスペクトルを用い構造計算をおこなう。

なお、NMRの測定法や原理については優れた書籍が多数あるが、蛋白質に関しては、書籍(1)が測定の理論的側面から詳しく記述されており大変参考になる。また書籍(2)は蛋白質に関するものでは無いが、実験の実際的側面と基本的原理が分かり易く述べられている。

装置

  • 1H/13C/15N 三重共鳴プローブが付いた三重共鳴実験可能な500 MHz以上のNMR装置
  • 解析ソフトウエアがインストールされているPC

実験手順

  1. 準備
  2. 主鎖帰属用実験
  3. 側鎖帰属用実験
  4. H/D交換実験
  5. 構造計算用実験
  6. その他

詳細

1. 準備

1-1. 測定試料

実験に応じて、15Nラベル試料及び13C/15Nラベル試料を用いる。大腸菌発現系によるラベル蛋白質の作成については、本アーカイブの池上によるプロトコールに詳しく記述されている。蛋白質は、0.2 -1.0 mM 程度の濃度、室温以上の温度、中性以下のpHで数日間安定に溶解していることが望ましい。通常、溶媒として10-50 mM 程度の酢酸、リン酸、Tris、HEPESなどのバッファーが用いられる。NaCl等の塩を50-200 mM程度添加することが多いが、高塩濃度はNMRプローブの感度を下げる(特に低温プローブにおいて)ため注意が必要である。バッファー・添加物については重水素化したものを用いる方が良い(10 mM程度であれば1H体でも使える)。溶媒としては軽水に溶解した試料、及び重水に溶解した(*2) 試料を使い分ける。軽水試料にはロック用に重水を5-10%添加する。

1-2. 1D 測定

蛋白質用NMRチューブはSHIGEMI社製のミクロセルが標準になっている(NMRのメーカーに応じて底部のサイズが異なるので注意)。液量は250μL程度必要である。SHIGEMIチューブの外管に試料溶液を入れる。試料の出し入れはピペットチップかシリンジに外径2 mmのテフロンチューブを付けたもので行うと便利である。内管で上から押さえて気泡を抜くが、その際なるべく溶液を泡立てないよう注意する。外管の口をパラフィルム等で閉じて内管を固定する。

予めプローブを測定温度に設定しておき、NMRチューブをスピナーにセットして投入する。温度は20-40℃程度に設定することが多いが、蛋白質が安定ならば高い方がよい。スピナーは回転させない。試料投入後数分待ってからプローブのチューニング、ロック及びシムの調整を行う。最近の装置ではこの過程はある程度自動化されている。

まず1Hの90°パルス幅を測定する。レシーバーゲインを最低にして、一回積算で水のシグナルを観測する。1Hの出力パワーを通常使用する最大値に設定し、パルス長を変えて測定することを繰り返して360°パルスに相当するパルス長(信号が消失する値。180°パルスでも信号が消失するが360°の方が良い)を探す。スペクトルではなく、FIDを見た方が判断し易い。90°パルス長 = 360°パルス長/4であり、通常数マイクロ秒になる。得られた値を以降の測定に用いる。高塩濃度の試料では長くなる傾向があるが、異常に長い場合はアンプの劣化など装置の故障も考えられる。高感度プローブの場合、水のシグナルが強すぎて90°パルス測定が出来ない場合もある。その際はpre-saturation法によって水信号を消去し、バッファー由来信号等で測定する。後の実験で1Hのデカップリングやミキシングを使う場合は、用いる90°パルス幅が決まっているので、それを与える出力パワーを探す作業が必要な場合もある。

次に1Hの1Dスペクトルを測定する。1Hの観測中心を水に設定し、観測幅は10-15 ppm程度とする。pre-saturation法によって水信号を消去し測定する。水信号がある程度消去できればレシーバーゲインを大きくでき、数回の積算で蛋白質由来のシグナルが十分観測できるはずである。消去効率は、水の線形と、照射位置に大きく依存するので、上手く行かない場合は、シム調整と照射位置の最適化を行う。1Dスペクトルではピークの分布を確認する。0 ppm以下にメチル基由来のピークがある場合は立体構造が形成されている可能性が高い。また5-6 ppmにHα由来ピークがある場合はおそらくβシートが形成されている。また、溶媒によってはブロードな蛋白質ピークとは別にTris等バッファー成分に由来するシャープなピークが観測される。サンプル濃縮に限外濾過膜を使った場合はしばしばグリセロールが混入し3.6 ppm付近にピークが現れる。実際に1Dスペクトルを細かく解析することは無いが、試料の状態を確認するためにも毎回測定しておきたい。

1-3 15N HSQC測定

二次元15N HSQCスペクトル(図1に例を示す)は蛋白質のNMRにおいて最も基本となるスペクトルである。試料としては15Nラベルした蛋白質あるいは15N/13Cラベルした蛋白質を用いる。1Hは観測中心を水に設定し、観測幅は12 ppm程度、観測時間は50-100 msとする(例えば600 MHzの装置では観測幅13.3 ppm = 8000 Hz、複素ポイント数512点で観測時間は64 msになる)。観測時に15Nをパルスデカップリングするので、1Hの観測ポイントを不用意に多くすると装置・試料が過熱する可能性があるため注意する。15Nは観測中心を117 ppm前後、観測幅30 ppm程度にし、複素ポイント数64-128程度にする。積算の間隔は1秒程度にする。通常2-8回の積算で測定できる。13Cラベルした蛋白質の場合はt1期に13Cデカップリングが必要である。15Nの観測中心、観測幅は得られたスペクトルでピークがスペクトル端にかからないよう調整する。通常、t1の初期値がパルスプログラム中で適切に設定され、その結果15N軸の位相補正は0(0次)/0(1次)あるいは-90(0次)/180(1次)になり、15Nの観測幅からはみ出したピークは位相が歪むこと無く折り返す。そうならない場合は、t1の初期値を正しく設定する必要がある。

1-4 15N HSQCの評価 

測定後のフーリエ変換・解析は、NMR装置付随のソフトウエアを用いることもできるが、多くの研究室では別の解析ソフトを用いている。フーリエ変換に用いるソフトとしてよく使われているのはNMRPipeである(日本ではエルエイシステムズから入手できる)。NMRPipeでは、データ処理の各段階(ウインドウ関数・ゼロフィリング・フーリエ変換・位相補正・ベースライン補正など)を行うコマンドをシェルスクリプトファイルに順次記述する。データはコマンド間を受け渡されていくに従って処理され、最終的にスペクトルとなる。得られたスペクトルはNMRPipe付属のNmrDrawで表示できる。

15N HSQCで観測されるのはPro及びN末端以外の主鎖アミド、Trp側鎖のεNH、Asn/Glnの側鎖アミドNH2である。場合によってはArgのεNHも観測される(Lysのζアミノ基、Hisのイミダゾール基、ArgのηNH2を観測するためには、特定の条件や専用の実験が必要である)。Asn/Glnの側鎖NH21Hが6.5-8.0 ppm、15Nが109-115 ppmに15Nの化学シフトが等しい2つのピークとして現れる。また少数含まれるNHD由来(ロック用重水による)の小さな信号がこぶのようにピークの上に付いているのも特徴である。Trp側鎖は1Hが10 ppm程度に現れる。ArgのΣHNは15Nの化学シフトが設定範囲外(85 ppm付近)であるため、折り返しの形で現れる。主鎖アミドでは、Gly由来ピークが高磁場側(< 110 ppm)に現れるのが特徴である。以上を考慮し、主鎖アミド基のピークがどのように見えているか注意する。まず、残基数(-Proの数-1)程度のピークが見えている必要がある。また、ピークどうしの重なりが少なく、分散していることが重要である。ピークの1H化学シフトが狭い(~1 ppm, < 8.5 ppm)範囲に集中している場合は、立体構造が形成されていない。ピーク間でシグナル強度に差が無いことが望ましい。蛋白質複合体の一部や、マルチドメインの一部を切り出した蛋白質では、構造多形が生じシグナル強度に大きな差が生じる場合がある。これらのケースではドメイン境界の再検討も含め、更なる条件最適化が勧められる。また、比較的高濃度で測定するため、通常は問題にならない分子間の弱い非特異的会合がスペクトルの質を落とす場合があり、濃度を下げた方が結果的に良いこともある。15N HSQCが綺麗に測定できない試料はその後の測定でも不都合が生じる場合が多いので、安易に妥協せず十分検討した方が結果的に早く実験・解析を進めることができる。

2. 主鎖帰属用実験

主鎖帰属は13C/15Nラベル試料を用い複数の3D NMR実験を組み合わせて行う。よく用いられるHNCACB,CBCA(CO)NHの組み合わせではHN、N、Cα、Cβが帰属できる。HNCACB,CBCA(CO)NHだけでは曖昧さが解消されない場合、C’の化学シフトを使うHNCO,HN(CA)COを用いれば解決できる。また、溶解度等の問題で十分な感度が得られない場合、比較的感度の高いHNCA、HN(CO)CAを援用する場合もある。これらの3D NMR実験で最も高感度なのはHNCOであり、低感度なのはHNCACB及びHN(CA)COで、その差は一桁程度あると思われるが、通常後者でも1-2日程度で測定できる。

各測定とも通常複素ポイント数として15N軸を32程度、13C軸を32-64程度で測定する。1H、15Nの観測中心、観測幅は15N HSQCと揃える。13Cの観測中心、観測幅は見ている部位(Cα, Cα/β, C’)に応じて変えるが、組み合わせるスペクトル間では揃える。設定可能なパラメータの数は多く、また同じ実験でもパルスプログラムとしては異なる実装が多数ありうるのでここでパラメータの詳細を述べることは困難である。実際には一度設定すれば変更が必要ないパラメータも多いので、初期セットを専門家に設定してもらうとよい。また、パルス長などは一つ設定すれば残りはそこから計算されるようになっている場合が多い。いずれにせよ用いるパルスプログラムに対応した個々のパラメータの意味を把握しておくことは重要である。

3D NMRの解析にはnmrview、sparky、kujiraなど蛋白質のNMR解析用ソフトが不可欠であり、詳しい操作はそれぞれのマニュアル等を参照されたい。基本的には15N HSQCで得られるHN,Nの化学シフトの組で各残基をユニークに同定できると考える。実際は15N HSQCで完全に重なっているピークもいくつか存在するので、高感度で分離の良い3D HNCO法を援用するのが良い。すなわちHNCOでピークをピックした後、その位置を15N HSQC上に投影すれば、HNCOではC’で分離しているが、HSQCでは重なっているピークの存在を明らかにできる。そのようにして、各残基を表すHN,Nの化学シフトの組をリストアップする。

次にそれぞれのHN,Nの化学シフトの位置で各3Dスペクトルを2次元の短冊状に切り取ったstripと呼ばれるスペクトル断片を並べて解析する。HNCACBではstripの縦軸は13C軸になり、1H(i)、15N(i)に対して、Cα(i)、Cβ(i)、Cα(i-1)、Cβ(i-1)の位置にピークが得られる。このときCβに由来するピークの位相は反転(表示ではCαと異なる色)している。CBCA(CO)NHではCα(i-1)、Cβ(i-1)の位置にピークが得られる。こちらはCβとCαの位相は同じである。2つのスペクトルを見ながら隣接残基に由来するストリップを探す。そのようにして連続するストリップを同定し並べ替えていくことによって帰属を伸張する。Cα/Cβの化学シフトはアミノ酸の種類を判別するのに有効であり、連結されたセグメントがアミノ酸配列上どの部分に由来するかを決めることができる。kujiraでは上記のスペクトルの同時解析を半自動的に進めることができる。作業を順当に行えば15N HSQCで観測できている主鎖アミド基ピークのほとんど全てを帰属することが可能である。主鎖帰属が終わった段階でChemical Shift Indexから二次構造を解析できる。またNMRPipeに付属するプログラムTALOSによって、主鎖の二面角を推定することも可能である。

3. 側鎖帰属用実験

側鎖帰属は3D NMR実験を用い主鎖の帰属を側鎖へ伸張することによっておこなう。まず、HBHA(CBCACO)NH法によって、主鎖アミドの帰属に基づきHα、Hβを帰属する。残りのアルキル部分は主鎖アミドとの交差ピークを用いるH(CCO)NH、C(CCO)NH法を用いるのが簡便である。これらが十分なピークを与えない箇所や、Proの前の残基についてはCCH-TOCSY、HCCH-TOCSY法およびCCH-COSY、HCCH-COSYによって、Cα、CβおよびHα、Hβとの交差ピークを利用して帰属する。それでも側鎖ピークを100%ユニークに帰属することは出来ない場合が多い。メチル基はシャープで強いピークを与えるのでAla,Thr,Ile,Leu,Valを帰属することは比較的容易であり、後の構造計算でも有用なので優先的に帰属する(Metのεメチル基は見易いが普通の測定ではCγと連結できない)。全体を一瞥するにはconstant time 13C HSQCを用いる。15N HSQCと比べて重なりが激しいが、α位とメチル基は比較的分離が良く帰属結果の確認に使える。アミドを使わない測定(CCH-TOCSY, HCCH-TOCSY, CCH-COSY, HCCH-COSY)では、D2O試料を使う方が質の良いスペクトルが得られる。しかし、軽水試料と微妙にケミカルシフトがずれるので、両方の試料で13C HSQCを測定して比較するとよい。

芳香環部分についてはまずδ位あるいはε位とβ位とを(HB)CB(CGCD)HD、(HB)CB(CGCDCE)HEによって連結し、環内を芳香環用のCCH-TOCSY法によって連結することができるが、芳香環の化学シフトは重なりが大きくユニークな帰属が得られないことも多い。以上の手順で帰属が難しい部分は後でNOEを解析する過程で帰属を補う。

他にAsn/Glnの側鎖NH2については、HNCACB法等の主鎖帰属用実験をNH2基に最適化したパルスシーケンスによって側鎖メチレン部位のケミカルシフトに基づいた帰属が可能である。

4. H/D交換実験

本実験は構造決定に必須ではないが、他に得られないNMRらしいユニークな情報が得られるので解説する。まず15Nラベルした試料を準備する。基本的には帰属等に用いる試料と同等なものでよい。H/D交換の過程は15N HSQCスペクトルで追跡するため、15N HSQCが数分~一時間程度で測定可能な濃度の試料が必要である。

[手法1] 凍結乾燥
 エッペンドルフチューブ等に入れた試料を液体窒素などで瞬間的に凍結させ、真空デシケータ等の中で吸引して乾燥させる。これを凍結前と同体積の重水に溶解すれば、凍結前と同じ組成の溶液となる(バッファーが非揮発性の場合)。コツは、性能の良い真空設備を使い、容器を傾けるなどして凍結時の表面積を稼いで蒸発速度を上げることである。

[手法2] 脱塩カラム
 重水で調製したNMR測定用バッファーを用意する。ゲル濾過を利用したNAP-5 (GEヘルスケア)等の脱塩カラムを重水バッファーで平衡化しておき、NMR試料を通すことで溶媒を置換する。試料が希釈されるので、必要ならばmicrocon(ミリポア)などで濃縮する。作業中のH/D交換を遅くするため、なるべく低温で実施する。

[手法3] 希釈・再濃縮
 重水バッファーで数倍に希釈し、microconなどで元の体積まで濃縮することを3,4回繰り返す。[手法2]同様、低温で実施する。膜へ吸着する試料や沈殿し易い試料には向かない。

各手法とも一長一短がある。[手法1]の凍結乾燥後試料は保存可能で重水を添加すれば直ぐ測定できる。しかし設備が必要であり、試料によっては変性して再溶解できない場合がある。従って、H/D交換が速く、変性しにくい試料に向いている。[手法2]、[手法3]は作業中にもH/D交換が起こってしまうので、交換が極めて速い部位の測定は難しいが、蛋白質中の二次構造領域は十分交換が遅く実用上はそれほど問題にならない。失敗が少なく、設備も必要でないため無難な方法である。置換後はすぐにHSQCスペクトルを測定する。手法にもよるが、交換開始後15分から2時間程度の時点で測定することになる。ここで交換されず残っている部位は、水素結合によって保護されていると示唆される。その後必要に応じてHSQC を測定しH/D交換の様子を追跡する。速いH/D交換速度を定量的に求めたい場合など、実験中に交換が起こると望ましくないことがある。その場合は、試料のpHを下げてH/D交換をクエンチする。一般に主鎖アミドの易動性プロトンのH/D交換はpH 2.5前後で最も遅く(~0.1 min-1)、pHがそこから1変化すると交換速度は1桁増えて中性では1×103 min-1 程度に達する。

5. 構造計算用実験

構造計算に最も重要な情報は近接(< 5 Å)1H間の距離情報を与えるNOEであり、通常3D 15N-separated NOESY及び3D 13C-separated NOESYによって測定する。15N-separated NOESYでは任意の1HからアミドプロトンへのNOEを観測する。15Nラベル試料あるいは13C/15Nラベル試料を用いるが、前者の方が質の良いスペクトルが得られる。13C-separated NOESYでは任意の1Hから13Cと結合したプロトンへのNOEを観測する。13C/15Nラベル試料を用いる(13Cラベル試料でも良いが普通作らない)。13C-separated NOESYはD2Oに溶解した試料を使う方が質の良いスペクトルが得られる。側鎖13Cのケミカルシフト及び1JCHの値はアルキル基と芳香環とでは大きく異なるので13C-separated NOESYはそれぞれに合わせた設定を使って別個に測定する。NOESY測定の重要なパラメータとしてmixing timeがあるが、通常50-100 msでよい。

各スペクトルから数千個以上のNOEピークが得られるので、解析にはソフトウエアを使いこなすことが不可欠である。まずNOEピークをピックさせ、それまでに作成したケミカルシフトテーブル及び、スペクトル内での対称ピークの有無に基づいて、各NOEを1Hペアに帰属させる。操作の詳細はマニュアル等を参照されたい。一般的に重なりのためケミカルシフト値のみから全てのNOEピークをユニークに帰属することは不可能である。従って帰属の確実性の高いNOEのみをまず選び、そこからラフな立体構造を推定し、その構造情報から残りのNOEの帰属を絞っていくという繰り返しが必要となる。構造計算にはCYANA、xplor-NIH、CNS等の専用ソフトウエアを用いる。これらのソフトでは、帰属が曖昧な(候補となる1Hペアが複数ある)NOEであっても、構造計算の束縛条件に用いることが可能である(距離の-6乗平均値を使うことで、構造計算中に接近できた束縛条件のみ支配的になるような計算式を用いる)。計算結果に基づいた帰属の繰り返し過程は、例えばCYANA/Kujiraといった支援ソフトの組み合わせによって半自動的に進めることができる。また、計算にはケミカルシフトから推定した二面角の角度制限も加える。H/D交換から得られた水素結合しているアミドプロトンについては、構造計算がある程度進み、水素結合のアクセプターが同定できるようになってから、構造情報として用いる。

測定されたNOEはそもそも定量性があまり無いので、計算結果で満たされない(バイオレーション)NOEは束縛条件を緩めるあるいは外すことがある。これらの過程を無批判に進めることは危険であり、例えば対称性からは必ずあるはずのNOEが無い、あるいは、距離から決して出ないはずのNOEがあるといったケースから元々のケミカルシフトの帰属エラーが見つかることもあるので注意が必要である。

構造計算とNOEの帰属を繰り返せば、通常は20構造程度を重ね合わせた際の主鎖原子座標のRMSDが0.5Å以内に収束した構造が得られる。得られた構造については、PROCHECK等によって妥当性を評価する。

6. その他

J値による二面角の推定

3JHN-Haを求めてφの値を推定することができる。実験としてはHMQC-J、HNHA法などがある。これは比較的簡単な実験である。また、3JHa-Hb3JN-Hb,3JC’-Hbからχ1を推定するとともに、プロキラルなβプロトンを立体特異的に帰属することができる。そのための実験としてはHNHB、HN(CO)HB法などがある。これらの測定は感度が低く、必ずしも全ての残基が観測できるわけではない。

Val/Leuメチル基の立体特異的帰属

大腸菌発現系を用いて蛋白質をラベルしている場合は、大腸菌の代謝系を利用した方法が簡便である。炭素源であるglucoseの一部(10-15 %)を[13C]-glucoseにして発現させ、得られた試料の13C-HSQCを測定するだけでよい。131あるいは131では付け根の13Cとのカップリングが観測される。

ダイナミクスの評価

緩和時間測定によって分子内部のダイナミクスを評価することは、蛋白質のNMR解析において重要なテーマであり多くの研究が行われている。その詳細は文献等を参照されたい。簡便な評価法としては、{1H}-15N NOE測定がある。これは1H共鳴を飽和させて1H-15N間の定常状態NOEを測定するもので、ps-nsオーダーの速い分子内運動が存在する部位を明らかにできる。そのような部位では1H間のNOEが観測されにくく、立体構造も収束しないのが普通である。また、何点か温度を変えて15N-HSQCを測定してみるのもよい。構造多形がある場合、温度変化によって構造間での平衡が変化しスペクトルの変化となって現れる。

残余双極子カップリング

バイセル、ファージ粒子などの非等方的な物質を溶媒中に混在させるか、引き延ばしたアクリルアミドゲル中に蛋白質を浸透させると、蛋白質がそれらとの相互作用により溶液中で弱く配向する。すると、通常溶液中では消失している双極子カップリングが僅かに復活して測定可能になる。このカップリング値は双極子間ベクトルと分子の配向軸との角度に依存するため、NOEやJ等から得られる局所的・相対的な構造情報とは異なる性格の立体構造情報として有力である。測定は容易だが、蛋白質によっては適切な配向溶媒系を見つけるのが難しい。金属結合部位を持つ、あるいは人為的に導入した蛋白質では磁気的な異方性が大きいランタニドイオンを結合させることによっても蛋白質を配向させることができる。

常磁性シフト・緩和

常磁性の金属イオンやTEMPOなどのラジカルを付加することで、それらの常磁性シフト・緩和効果を構造情報として用いることが可能になる。これらは最大数十Åの影響範囲を持つため、NOEでは得られない遠位の情報を与える。

工夫とコツ

試料調製

100-200 mM程度の硫酸塩はNMRスペクトルを顕著に改善する場合があるので、塩の影響を受け易い低温プローブでなければ試す価値がある。両性イオンはプローブの感度に悪影響を与えないので、塩ではなくスルフォベタイン類、中性アミノ酸(Gly等)、あるいはArg/Gluの等モル混合物を試すのも良いが、Gly以外はD化体が無いか高価である。アミノ酸のような補償溶質が共存すると、耐熱性や長期安定性が向上することを経験している。他に、必要に応じてEDTA、DTT、CHAPSなどを添加してもよい。グリセロールなど溶液の粘度が増加する添加物は避ける。常磁性イオンを含まないことも必要である。以上を考慮し、まず少量の蛋白質を用いて条件を探索する。結晶化プレートや透析ボタンを用い、沈殿が生成しない条件を選ぶとよい。また、見かけ上溶解していても最後に0.22μmのスピンフィルターを通しておく。NMRチューブは蛋白質の吸着を防ぐためシリコナイズ処理しておくと良い。

同じような分子量の蛋白質でも、スペクトルの質は蛋白質によって様々である。また、ハードウエア/ソフトウエアの状態や設定によってスペクトルの質は劇的に替わる。可能であればユビキチンなど質の良いスペクトルを与えることが分かっている試料をポジティブコントロールとして用意しておくことが勧められる。ラベルユビキチンは市販されている。

装置定数

以下は定期的に確認する方が良い。

化学シフト基準値: 蛋白質試料には標準物質を加えず、別に外部標準試料を作って測定しておく。標準物質としては2,2-dimethylsilapentane-5-sulfonic acid (DSS)の水溶液を用いる。DSSの共鳴周波数を測定し、1Hの0 ppm とする。13C、15Nに関しては1Hの周波数の25.144953 %、10.1329118 %をそれぞれ0 ppm とする 。

13C、15Nのパルス長: それぞれ、分光計メーカー提供の標準サンプルで測定する。自作する場合は[15N]-尿素と[13C]-メタノールをdDMSOに溶かして調製する。異なるパワーでの90度パルス長を測り線形性を確かめる。

温度:  NMRプローブの温度は、分光計メーカー提供の標準サンプルで校正しておく。温度制御系はサンプル内部の温度ではなく、サンプル周囲のエアーの温度を測っている。従ってプローブの種類や外部エアー流量・温度によって表示値と実際の温度とのずれは変化する。

測定

主鎖帰属以降の過程では必ず複数の実験を組み合わせることになるので、可能なら同じ試料で連続して実験を行う方がよい。少なくともHNCACBとCBCA(CO)NHなどペアで解析する実験は連属して行うべきである。その際、安定性に劣る試料の場合は多次元測定の合間に15N HSQCを測定し、試料の状態をチェックできるようにしておくとよい。複数の実験を連続して行う場合、実際の測定前に必ずそれぞれの実験の1Dもしくは2Dバージョンを測定し、異常が無いか確認するとともに、実験ごとにレシーバーゲインを適切に設定しておく。ただし長期間測定していると試料内で気泡が生じてシムが合わなくなり、水信号が消えなくなってレシーバーがオーバーフローすることがあるので注意する。

最近、非線形サンプリングなど各種の高速測定法が提案されている。設定やデータ処理が複雑になる分、トラブルシューティングが難しい面もある。通常の測定・解析に習熟後、慎重に活用すれば、試料によっては大変有効であると思われる。

フーリエ変換

多次元測定の場合、間接測定軸の展開時間の初期値に合わせて対応する軸のFTのパラメータを設定する必要があるが、間違え易いので注意点を述べる。初期値は観測幅をswとすると通常は0、0.5/sw(half dwell)あるいは1/sw(full dwell)から有限のパルス長に起因する補正値を引いた値に設定されている。どの設定になるかは実験の種類や観測幅及びパルスシーケンスの実装などに依存するので予め調べておく。それに合わせて、FT時のfirst point 補正係数(cとする)、位相補正p0/p1を以下のように設定する。

0の場合          c = 0.5, p0 = 0, p1 = 0
half dwellの場合      c = 1.0, p0 = -90, p1 = 180

full dwell の場合は、fidを右に1点シフト(1点目が2点目になる。NMRpipeならnmrPipe -fn ZF -pad 1|nmrPipe -fn RS -rs 1 -sw)し、新たに生じた1点目はリニアプレディクションで構築(nmrPipe -fn LP -before -pred 1)した後、0の場合同様にc = 0.5、p0 = 0、p1 = 0でFTする。

Webサイト

ケミカルシフトデータベース
BMRB: http://bmrb.protein.osaka-u.ac.jp/

ソフトウエア
エルエイシステムズ:http://www.las.jp/
NMRPipe: http://www.nmrscience.com/
nmrview : http://www.onemoonscientific.com/
CYANA : http://www.cyana.org/
xplor-NIH : http://nmr.cit.nih.gov/xplor-nih/
CNS: http://cns-online.org/

文献

  1. Cavanagh, J. et al., Protein NMR Spectroscopy, Elsevier Academic Press, Burlington, San Diego and London (2007)
  2. T.D.W.クラリッジ, 有機化学のための高分解能NMRテクニック(竹内敬人・西川実希 訳), 講談社 (2004)
  • 図1

概要等

NMRを用いて溶液中での蛋白質の立体構造を求める際には、その分子量に応じて異なった試料・解析法が要求される。分子量1-2万程度の蛋白質は、13C/15N均一ラベル蛋白質試料を用いた手法が確立しており、本稿ではそれについて述べる。より高分子量の蛋白質に対しては、13C/15Nに加えて2Hラベルや、アミノ酸特異的ラベルが必要となり、それに合わせた測定法・解析法が必要である。なお、ここで分子量とは溶液中における値であり、二量体など会合体ではその分大きくなることに留意する必要がある。分子量数千のいわゆるペプチドに対しては、必ずしも同位体ラベル試料は必要でないが、1H-NMRデータの測定・解析には職人芸的なテクニックが必要となる場合もあり一概に容易とはいえない。またヘム蛋白質など常磁性金属を含む蛋白質は特別に扱う必要がある。

NMRを用いた構造解析は、化学シフト帰属段階と、構造情報取得段階に分けられる。前者では、NMRによって観測される各原子核の化学シフトを蛋白質の化学構造中の各原子に結び付ける。なかでも主鎖原子の帰属は他の段階に比べ容易であり、分子間相互作用解析など立体構造解析以外にも役立つ情報が得られるため、立体構造既知の蛋白質に対しても実施する場合がある。後者では、蛋白質分子内の原子間距離や角度に関する情報を与えるスペクトルを用い構造計算をおこなう。

なお、NMRの測定法や原理については優れた書籍が多数あるが、蛋白質に関しては、書籍(1)が測定の理論的側面から詳しく記述されており大変参考になる。また書籍(2)は蛋白質に関するものでは無いが、実験の実際的側面と基本的原理が分かり易く述べられている。

装置

  • 1H/13C/15N 三重共鳴プローブが付いた三重共鳴実験可能な500 MHz以上のNMR装置
  • 解析ソフトウエアがインストールされているPC

実験手順

  1. 準備
  2. 主鎖帰属用実験
  3. 側鎖帰属用実験
  4. H/D交換実験
  5. 構造計算用実験
  6. その他

詳細

1. 準備

1-1. 測定試料

実験に応じて、15Nラベル試料及び13C/15Nラベル試料を用いる。大腸菌発現系によるラベル蛋白質の作成については、本アーカイブの池上によるプロトコールに詳しく記述されている。蛋白質は、0.2 -1.0 mM 程度の濃度、室温以上の温度、中性以下のpHで数日間安定に溶解していることが望ましい。通常、溶媒として10-50 mM 程度の酢酸、リン酸、Tris、HEPESなどのバッファーが用いられる。NaCl等の塩を50-200 mM程度添加することが多いが、高塩濃度はNMRプローブの感度を下げる(特に低温プローブにおいて)ため注意が必要である。バッファー・添加物については重水素化したものを用いる方が良い(10 mM程度であれば1H体でも使える)。溶媒としては軽水に溶解した試料、及び重水に溶解した(*2) 試料を使い分ける。軽水試料にはロック用に重水を5-10%添加する。

1-2. 1D 測定

蛋白質用NMRチューブはSHIGEMI社製のミクロセルが標準になっている(NMRのメーカーに応じて底部のサイズが異なるので注意)。液量は250μL程度必要である。SHIGEMIチューブの外管に試料溶液を入れる。試料の出し入れはピペットチップかシリンジに外径2 mmのテフロンチューブを付けたもので行うと便利である。内管で上から押さえて気泡を抜くが、その際なるべく溶液を泡立てないよう注意する。外管の口をパラフィルム等で閉じて内管を固定する。

予めプローブを測定温度に設定しておき、NMRチューブをスピナーにセットして投入する。温度は20-40℃程度に設定することが多いが、蛋白質が安定ならば高い方がよい。スピナーは回転させない。試料投入後数分待ってからプローブのチューニング、ロック及びシムの調整を行う。最近の装置ではこの過程はある程度自動化されている。

まず1Hの90°パルス幅を測定する。レシーバーゲインを最低にして、一回積算で水のシグナルを観測する。1Hの出力パワーを通常使用する最大値に設定し、パルス長を変えて測定することを繰り返して360°パルスに相当するパルス長(信号が消失する値。180°パルスでも信号が消失するが360°の方が良い)を探す。スペクトルではなく、FIDを見た方が判断し易い。90°パルス長 = 360°パルス長/4であり、通常数マイクロ秒になる。得られた値を以降の測定に用いる。高塩濃度の試料では長くなる傾向があるが、異常に長い場合はアンプの劣化など装置の故障も考えられる。高感度プローブの場合、水のシグナルが強すぎて90°パルス測定が出来ない場合もある。その際はpre-saturation法によって水信号を消去し、バッファー由来信号等で測定する。後の実験で1Hのデカップリングやミキシングを使う場合は、用いる90°パルス幅が決まっているので、それを与える出力パワーを探す作業が必要な場合もある。

次に1Hの1Dスペクトルを測定する。1Hの観測中心を水に設定し、観測幅は10-15 ppm程度とする。pre-saturation法によって水信号を消去し測定する。水信号がある程度消去できればレシーバーゲインを大きくでき、数回の積算で蛋白質由来のシグナルが十分観測できるはずである。消去効率は、水の線形と、照射位置に大きく依存するので、上手く行かない場合は、シム調整と照射位置の最適化を行う。1Dスペクトルではピークの分布を確認する。0 ppm以下にメチル基由来のピークがある場合は立体構造が形成されている可能性が高い。また5-6 ppmにHα由来ピークがある場合はおそらくβシートが形成されている。また、溶媒によってはブロードな蛋白質ピークとは別にTris等バッファー成分に由来するシャープなピークが観測される。サンプル濃縮に限外濾過膜を使った場合はしばしばグリセロールが混入し3.6 ppm付近にピークが現れる。実際に1Dスペクトルを細かく解析することは無いが、試料の状態を確認するためにも毎回測定しておきたい。

1-3 15N HSQC測定

二次元15N HSQCスペクトル(図1に例を示す)は蛋白質のNMRにおいて最も基本となるスペクトルである。試料としては15Nラベルした蛋白質あるいは15N/13Cラベルした蛋白質を用いる。1Hは観測中心を水に設定し、観測幅は12 ppm程度、観測時間は50-100 msとする(例えば600 MHzの装置では観測幅13.3 ppm = 8000 Hz、複素ポイント数512点で観測時間は64 msになる)。観測時に15Nをパルスデカップリングするので、1Hの観測ポイントを不用意に多くすると装置・試料が過熱する可能性があるため注意する。15Nは観測中心を117 ppm前後、観測幅30 ppm程度にし、複素ポイント数64-128程度にする。積算の間隔は1秒程度にする。通常2-8回の積算で測定できる。13Cラベルした蛋白質の場合はt1期に13Cデカップリングが必要である。15Nの観測中心、観測幅は得られたスペクトルでピークがスペクトル端にかからないよう調整する。通常、t1の初期値がパルスプログラム中で適切に設定され、その結果15N軸の位相補正は0(0次)/0(1次)あるいは-90(0次)/180(1次)になり、15Nの観測幅からはみ出したピークは位相が歪むこと無く折り返す。そうならない場合は、t1の初期値を正しく設定する必要がある。

1-4 15N HSQCの評価 

測定後のフーリエ変換・解析は、NMR装置付随のソフトウエアを用いることもできるが、多くの研究室では別の解析ソフトを用いている。フーリエ変換に用いるソフトとしてよく使われているのはNMRPipeである(日本ではエルエイシステムズから入手できる)。NMRPipeでは、データ処理の各段階(ウインドウ関数・ゼロフィリング・フーリエ変換・位相補正・ベースライン補正など)を行うコマンドをシェルスクリプトファイルに順次記述する。データはコマンド間を受け渡されていくに従って処理され、最終的にスペクトルとなる。得られたスペクトルはNMRPipe付属のNmrDrawで表示できる。

15N HSQCで観測されるのはPro及びN末端以外の主鎖アミド、Trp側鎖のεNH、Asn/Glnの側鎖アミドNH2である。場合によってはArgのεNHも観測される(Lysのζアミノ基、Hisのイミダゾール基、ArgのηNH2を観測するためには、特定の条件や専用の実験が必要である)。Asn/Glnの側鎖NH21Hが6.5-8.0 ppm、15Nが109-115 ppmに15Nの化学シフトが等しい2つのピークとして現れる。また少数含まれるNHD由来(ロック用重水による)の小さな信号がこぶのようにピークの上に付いているのも特徴である。Trp側鎖は1Hが10 ppm程度に現れる。ArgのΣHNは15Nの化学シフトが設定範囲外(85 ppm付近)であるため、折り返しの形で現れる。主鎖アミドでは、Gly由来ピークが高磁場側(< 110 ppm)に現れるのが特徴である。以上を考慮し、主鎖アミド基のピークがどのように見えているか注意する。まず、残基数(-Proの数-1)程度のピークが見えている必要がある。また、ピークどうしの重なりが少なく、分散していることが重要である。ピークの1H化学シフトが狭い(~1 ppm, < 8.5 ppm)範囲に集中している場合は、立体構造が形成されていない。ピーク間でシグナル強度に差が無いことが望ましい。蛋白質複合体の一部や、マルチドメインの一部を切り出した蛋白質では、構造多形が生じシグナル強度に大きな差が生じる場合がある。これらのケースではドメイン境界の再検討も含め、更なる条件最適化が勧められる。また、比較的高濃度で測定するため、通常は問題にならない分子間の弱い非特異的会合がスペクトルの質を落とす場合があり、濃度を下げた方が結果的に良いこともある。15N HSQCが綺麗に測定できない試料はその後の測定でも不都合が生じる場合が多いので、安易に妥協せず十分検討した方が結果的に早く実験・解析を進めることができる。

2. 主鎖帰属用実験

主鎖帰属は13C/15Nラベル試料を用い複数の3D NMR実験を組み合わせて行う。よく用いられるHNCACB,CBCA(CO)NHの組み合わせではHN、N、Cα、Cβが帰属できる。HNCACB,CBCA(CO)NHだけでは曖昧さが解消されない場合、C’の化学シフトを使うHNCO,HN(CA)COを用いれば解決できる。また、溶解度等の問題で十分な感度が得られない場合、比較的感度の高いHNCA、HN(CO)CAを援用する場合もある。これらの3D NMR実験で最も高感度なのはHNCOであり、低感度なのはHNCACB及びHN(CA)COで、その差は一桁程度あると思われるが、通常後者でも1-2日程度で測定できる。

各測定とも通常複素ポイント数として15N軸を32程度、13C軸を32-64程度で測定する。1H、15Nの観測中心、観測幅は15N HSQCと揃える。13Cの観測中心、観測幅は見ている部位(Cα, Cα/β, C’)に応じて変えるが、組み合わせるスペクトル間では揃える。設定可能なパラメータの数は多く、また同じ実験でもパルスプログラムとしては異なる実装が多数ありうるのでここでパラメータの詳細を述べることは困難である。実際には一度設定すれば変更が必要ないパラメータも多いので、初期セットを専門家に設定してもらうとよい。また、パルス長などは一つ設定すれば残りはそこから計算されるようになっている場合が多い。いずれにせよ用いるパルスプログラムに対応した個々のパラメータの意味を把握しておくことは重要である。

3D NMRの解析にはnmrview、sparky、kujiraなど蛋白質のNMR解析用ソフトが不可欠であり、詳しい操作はそれぞれのマニュアル等を参照されたい。基本的には15N HSQCで得られるHN,Nの化学シフトの組で各残基をユニークに同定できると考える。実際は15N HSQCで完全に重なっているピークもいくつか存在するので、高感度で分離の良い3D HNCO法を援用するのが良い。すなわちHNCOでピークをピックした後、その位置を15N HSQC上に投影すれば、HNCOではC’で分離しているが、HSQCでは重なっているピークの存在を明らかにできる。そのようにして、各残基を表すHN,Nの化学シフトの組をリストアップする。

次にそれぞれのHN,Nの化学シフトの位置で各3Dスペクトルを2次元の短冊状に切り取ったstripと呼ばれるスペクトル断片を並べて解析する。HNCACBではstripの縦軸は13C軸になり、1H(i)、15N(i)に対して、Cα(i)、Cβ(i)、Cα(i-1)、Cβ(i-1)の位置にピークが得られる。このときCβに由来するピークの位相は反転(表示ではCαと異なる色)している。CBCA(CO)NHではCα(i-1)、Cβ(i-1)の位置にピークが得られる。こちらはCβとCαの位相は同じである。2つのスペクトルを見ながら隣接残基に由来するストリップを探す。そのようにして連続するストリップを同定し並べ替えていくことによって帰属を伸張する。Cα/Cβの化学シフトはアミノ酸の種類を判別するのに有効であり、連結されたセグメントがアミノ酸配列上どの部分に由来するかを決めることができる。kujiraでは上記のスペクトルの同時解析を半自動的に進めることができる。作業を順当に行えば15N HSQCで観測できている主鎖アミド基ピークのほとんど全てを帰属することが可能である。主鎖帰属が終わった段階でChemical Shift Indexから二次構造を解析できる。またNMRPipeに付属するプログラムTALOSによって、主鎖の二面角を推定することも可能である。

3. 側鎖帰属用実験

側鎖帰属は3D NMR実験を用い主鎖の帰属を側鎖へ伸張することによっておこなう。まず、HBHA(CBCACO)NH法によって、主鎖アミドの帰属に基づきHα、Hβを帰属する。残りのアルキル部分は主鎖アミドとの交差ピークを用いるH(CCO)NH、C(CCO)NH法を用いるのが簡便である。これらが十分なピークを与えない箇所や、Proの前の残基についてはCCH-TOCSY、HCCH-TOCSY法およびCCH-COSY、HCCH-COSYによって、Cα、CβおよびHα、Hβとの交差ピークを利用して帰属する。それでも側鎖ピークを100%ユニークに帰属することは出来ない場合が多い。メチル基はシャープで強いピークを与えるのでAla,Thr,Ile,Leu,Valを帰属することは比較的容易であり、後の構造計算でも有用なので優先的に帰属する(Metのεメチル基は見易いが普通の測定ではCγと連結できない)。全体を一瞥するにはconstant time 13C HSQCを用いる。15N HSQCと比べて重なりが激しいが、α位とメチル基は比較的分離が良く帰属結果の確認に使える。アミドを使わない測定(CCH-TOCSY, HCCH-TOCSY, CCH-COSY, HCCH-COSY)では、D2O試料を使う方が質の良いスペクトルが得られる。しかし、軽水試料と微妙にケミカルシフトがずれるので、両方の試料で13C HSQCを測定して比較するとよい。

芳香環部分についてはまずδ位あるいはε位とβ位とを(HB)CB(CGCD)HD、(HB)CB(CGCDCE)HEによって連結し、環内を芳香環用のCCH-TOCSY法によって連結することができるが、芳香環の化学シフトは重なりが大きくユニークな帰属が得られないことも多い。以上の手順で帰属が難しい部分は後でNOEを解析する過程で帰属を補う。

他にAsn/Glnの側鎖NH2については、HNCACB法等の主鎖帰属用実験をNH2基に最適化したパルスシーケンスによって側鎖メチレン部位のケミカルシフトに基づいた帰属が可能である。

4. H/D交換実験

本実験は構造決定に必須ではないが、他に得られないNMRらしいユニークな情報が得られるので解説する。まず15Nラベルした試料を準備する。基本的には帰属等に用いる試料と同等なものでよい。H/D交換の過程は15N HSQCスペクトルで追跡するため、15N HSQCが数分~一時間程度で測定可能な濃度の試料が必要である。

[手法1] 凍結乾燥
 エッペンドルフチューブ等に入れた試料を液体窒素などで瞬間的に凍結させ、真空デシケータ等の中で吸引して乾燥させる。これを凍結前と同体積の重水に溶解すれば、凍結前と同じ組成の溶液となる(バッファーが非揮発性の場合)。コツは、性能の良い真空設備を使い、容器を傾けるなどして凍結時の表面積を稼いで蒸発速度を上げることである。

[手法2] 脱塩カラム
 重水で調製したNMR測定用バッファーを用意する。ゲル濾過を利用したNAP-5 (GEヘルスケア)等の脱塩カラムを重水バッファーで平衡化しておき、NMR試料を通すことで溶媒を置換する。試料が希釈されるので、必要ならばmicrocon(ミリポア)などで濃縮する。作業中のH/D交換を遅くするため、なるべく低温で実施する。

[手法3] 希釈・再濃縮
 重水バッファーで数倍に希釈し、microconなどで元の体積まで濃縮することを3,4回繰り返す。[手法2]同様、低温で実施する。膜へ吸着する試料や沈殿し易い試料には向かない。

各手法とも一長一短がある。[手法1]の凍結乾燥後試料は保存可能で重水を添加すれば直ぐ測定できる。しかし設備が必要であり、試料によっては変性して再溶解できない場合がある。従って、H/D交換が速く、変性しにくい試料に向いている。[手法2]、[手法3]は作業中にもH/D交換が起こってしまうので、交換が極めて速い部位の測定は難しいが、蛋白質中の二次構造領域は十分交換が遅く実用上はそれほど問題にならない。失敗が少なく、設備も必要でないため無難な方法である。置換後はすぐにHSQCスペクトルを測定する。手法にもよるが、交換開始後15分から2時間程度の時点で測定することになる。ここで交換されず残っている部位は、水素結合によって保護されていると示唆される。その後必要に応じてHSQC を測定しH/D交換の様子を追跡する。速いH/D交換速度を定量的に求めたい場合など、実験中に交換が起こると望ましくないことがある。その場合は、試料のpHを下げてH/D交換をクエンチする。一般に主鎖アミドの易動性プロトンのH/D交換はpH 2.5前後で最も遅く(~0.1 min-1)、pHがそこから1変化すると交換速度は1桁増えて中性では1×103 min-1 程度に達する。

5. 構造計算用実験

構造計算に最も重要な情報は近接(< 5 Å)1H間の距離情報を与えるNOEであり、通常3D 15N-separated NOESY及び3D 13C-separated NOESYによって測定する。15N-separated NOESYでは任意の1HからアミドプロトンへのNOEを観測する。15Nラベル試料あるいは13C/15Nラベル試料を用いるが、前者の方が質の良いスペクトルが得られる。13C-separated NOESYでは任意の1Hから13Cと結合したプロトンへのNOEを観測する。13C/15Nラベル試料を用いる(13Cラベル試料でも良いが普通作らない)。13C-separated NOESYはD2Oに溶解した試料を使う方が質の良いスペクトルが得られる。側鎖13Cのケミカルシフト及び1JCHの値はアルキル基と芳香環とでは大きく異なるので13C-separated NOESYはそれぞれに合わせた設定を使って別個に測定する。NOESY測定の重要なパラメータとしてmixing timeがあるが、通常50-100 msでよい。

各スペクトルから数千個以上のNOEピークが得られるので、解析にはソフトウエアを使いこなすことが不可欠である。まずNOEピークをピックさせ、それまでに作成したケミカルシフトテーブル及び、スペクトル内での対称ピークの有無に基づいて、各NOEを1Hペアに帰属させる。操作の詳細はマニュアル等を参照されたい。一般的に重なりのためケミカルシフト値のみから全てのNOEピークをユニークに帰属することは不可能である。従って帰属の確実性の高いNOEのみをまず選び、そこからラフな立体構造を推定し、その構造情報から残りのNOEの帰属を絞っていくという繰り返しが必要となる。構造計算にはCYANA、xplor-NIH、CNS等の専用ソフトウエアを用いる。これらのソフトでは、帰属が曖昧な(候補となる1Hペアが複数ある)NOEであっても、構造計算の束縛条件に用いることが可能である(距離の-6乗平均値を使うことで、構造計算中に接近できた束縛条件のみ支配的になるような計算式を用いる)。計算結果に基づいた帰属の繰り返し過程は、例えばCYANA/Kujiraといった支援ソフトの組み合わせによって半自動的に進めることができる。また、計算にはケミカルシフトから推定した二面角の角度制限も加える。H/D交換から得られた水素結合しているアミドプロトンについては、構造計算がある程度進み、水素結合のアクセプターが同定できるようになってから、構造情報として用いる。

測定されたNOEはそもそも定量性があまり無いので、計算結果で満たされない(バイオレーション)NOEは束縛条件を緩めるあるいは外すことがある。これらの過程を無批判に進めることは危険であり、例えば対称性からは必ずあるはずのNOEが無い、あるいは、距離から決して出ないはずのNOEがあるといったケースから元々のケミカルシフトの帰属エラーが見つかることもあるので注意が必要である。

構造計算とNOEの帰属を繰り返せば、通常は20構造程度を重ね合わせた際の主鎖原子座標のRMSDが0.5Å以内に収束した構造が得られる。得られた構造については、PROCHECK等によって妥当性を評価する。

6. その他

J値による二面角の推定

3JHN-Haを求めてφの値を推定することができる。実験としてはHMQC-J、HNHA法などがある。これは比較的簡単な実験である。また、3JHa-Hb3JN-Hb,3JC’-Hbからχ1を推定するとともに、プロキラルなβプロトンを立体特異的に帰属することができる。そのための実験としてはHNHB、HN(CO)HB法などがある。これらの測定は感度が低く、必ずしも全ての残基が観測できるわけではない。

Val/Leuメチル基の立体特異的帰属

大腸菌発現系を用いて蛋白質をラベルしている場合は、大腸菌の代謝系を利用した方法が簡便である。炭素源であるglucoseの一部(10-15 %)を[13C]-glucoseにして発現させ、得られた試料の13C-HSQCを測定するだけでよい。131あるいは131では付け根の13Cとのカップリングが観測される。

ダイナミクスの評価

緩和時間測定によって分子内部のダイナミクスを評価することは、蛋白質のNMR解析において重要なテーマであり多くの研究が行われている。その詳細は文献等を参照されたい。簡便な評価法としては、{1H}-15N NOE測定がある。これは1H共鳴を飽和させて1H-15N間の定常状態NOEを測定するもので、ps-nsオーダーの速い分子内運動が存在する部位を明らかにできる。そのような部位では1H間のNOEが観測されにくく、立体構造も収束しないのが普通である。また、何点か温度を変えて15N-HSQCを測定してみるのもよい。構造多形がある場合、温度変化によって構造間での平衡が変化しスペクトルの変化となって現れる。

残余双極子カップリング

バイセル、ファージ粒子などの非等方的な物質を溶媒中に混在させるか、引き延ばしたアクリルアミドゲル中に蛋白質を浸透させると、蛋白質がそれらとの相互作用により溶液中で弱く配向する。すると、通常溶液中では消失している双極子カップリングが僅かに復活して測定可能になる。このカップリング値は双極子間ベクトルと分子の配向軸との角度に依存するため、NOEやJ等から得られる局所的・相対的な構造情報とは異なる性格の立体構造情報として有力である。測定は容易だが、蛋白質によっては適切な配向溶媒系を見つけるのが難しい。金属結合部位を持つ、あるいは人為的に導入した蛋白質では磁気的な異方性が大きいランタニドイオンを結合させることによっても蛋白質を配向させることができる。

常磁性シフト・緩和

常磁性の金属イオンやTEMPOなどのラジカルを付加することで、それらの常磁性シフト・緩和効果を構造情報として用いることが可能になる。これらは最大数十Åの影響範囲を持つため、NOEでは得られない遠位の情報を与える。

工夫とコツ

試料調製

100-200 mM程度の硫酸塩はNMRスペクトルを顕著に改善する場合があるので、塩の影響を受け易い低温プローブでなければ試す価値がある。両性イオンはプローブの感度に悪影響を与えないので、塩ではなくスルフォベタイン類、中性アミノ酸(Gly等)、あるいはArg/Gluの等モル混合物を試すのも良いが、Gly以外はD化体が無いか高価である。アミノ酸のような補償溶質が共存すると、耐熱性や長期安定性が向上することを経験している。他に、必要に応じてEDTA、DTT、CHAPSなどを添加してもよい。グリセロールなど溶液の粘度が増加する添加物は避ける。常磁性イオンを含まないことも必要である。以上を考慮し、まず少量の蛋白質を用いて条件を探索する。結晶化プレートや透析ボタンを用い、沈殿が生成しない条件を選ぶとよい。また、見かけ上溶解していても最後に0.22μmのスピンフィルターを通しておく。NMRチューブは蛋白質の吸着を防ぐためシリコナイズ処理しておくと良い。

同じような分子量の蛋白質でも、スペクトルの質は蛋白質によって様々である。また、ハードウエア/ソフトウエアの状態や設定によってスペクトルの質は劇的に替わる。可能であればユビキチンなど質の良いスペクトルを与えることが分かっている試料をポジティブコントロールとして用意しておくことが勧められる。ラベルユビキチンは市販されている。

装置定数

以下は定期的に確認する方が良い。

化学シフト基準値: 蛋白質試料には標準物質を加えず、別に外部標準試料を作って測定しておく。標準物質としては2,2-dimethylsilapentane-5-sulfonic acid (DSS)の水溶液を用いる。DSSの共鳴周波数を測定し、1Hの0 ppm とする。13C、15Nに関しては1Hの周波数の25.144953 %、10.1329118 %をそれぞれ0 ppm とする 。

13C、15Nのパルス長: それぞれ、分光計メーカー提供の標準サンプルで測定する。自作する場合は[15N]-尿素と[13C]-メタノールをdDMSOに溶かして調製する。異なるパワーでの90度パルス長を測り線形性を確かめる。

温度:  NMRプローブの温度は、分光計メーカー提供の標準サンプルで校正しておく。温度制御系はサンプル内部の温度ではなく、サンプル周囲のエアーの温度を測っている。従ってプローブの種類や外部エアー流量・温度によって表示値と実際の温度とのずれは変化する。

測定

主鎖帰属以降の過程では必ず複数の実験を組み合わせることになるので、可能なら同じ試料で連続して実験を行う方がよい。少なくともHNCACBとCBCA(CO)NHなどペアで解析する実験は連属して行うべきである。その際、安定性に劣る試料の場合は多次元測定の合間に15N HSQCを測定し、試料の状態をチェックできるようにしておくとよい。複数の実験を連続して行う場合、実際の測定前に必ずそれぞれの実験の1Dもしくは2Dバージョンを測定し、異常が無いか確認するとともに、実験ごとにレシーバーゲインを適切に設定しておく。ただし長期間測定していると試料内で気泡が生じてシムが合わなくなり、水信号が消えなくなってレシーバーがオーバーフローすることがあるので注意する。

最近、非線形サンプリングなど各種の高速測定法が提案されている。設定やデータ処理が複雑になる分、トラブルシューティングが難しい面もある。通常の測定・解析に習熟後、慎重に活用すれば、試料によっては大変有効であると思われる。

フーリエ変換

多次元測定の場合、間接測定軸の展開時間の初期値に合わせて対応する軸のFTのパラメータを設定する必要があるが、間違え易いので注意点を述べる。初期値は観測幅をswとすると通常は0、0.5/sw(half dwell)あるいは1/sw(full dwell)から有限のパルス長に起因する補正値を引いた値に設定されている。どの設定になるかは実験の種類や観測幅及びパルスシーケンスの実装などに依存するので予め調べておく。それに合わせて、FT時のfirst point 補正係数(cとする)、位相補正p0/p1を以下のように設定する。

0の場合          c = 0.5, p0 = 0, p1 = 0
half dwellの場合      c = 1.0, p0 = -90, p1 = 180

full dwell の場合は、fidを右に1点シフト(1点目が2点目になる。NMRpipeならnmrPipe -fn ZF -pad 1|nmrPipe -fn RS -rs 1 -sw)し、新たに生じた1点目はリニアプレディクションで構築(nmrPipe -fn LP -before -pred 1)した後、0の場合同様にc = 0.5、p0 = 0、p1 = 0でFTする。

Webサイト

ケミカルシフトデータベース
BMRB: http://bmrb.protein.osaka-u.ac.jp/

ソフトウエア
エルエイシステムズ:http://www.las.jp/
NMRPipe: http://www.nmrscience.com/
nmrview : http://www.onemoonscientific.com/
CYANA : http://www.cyana.org/
xplor-NIH : http://nmr.cit.nih.gov/xplor-nih/
CNS: http://cns-online.org/

文献

  1. Cavanagh, J. et al., Protein NMR Spectroscopy, Elsevier Academic Press, Burlington, San Diego and London (2007)
  2. T.D.W.クラリッジ, 有機化学のための高分解能NMRテクニック(竹内敬人・西川実希 訳), 講談社 (2004)