タンパク質の結晶作成についての私見(改訂)

九州大学・生体防御医学研究所・構造生物学分野


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はじめに

本概要はタンパク質結晶初心者である執筆者の5年間の勉強、経験、そして多数の人からのアドバイスをまとめたものである。タンパク質の結晶化はその一部が未だにアートの領域にあるために、多数の異なる見解や隠れた職人芸的技術があると思われる。さらに、タンパク質に備わる個性が事態をさらに複雑にしている。初心者は、沈殿ばかりであったとき、あるいは微結晶が決して大きくならないときに、次に何をなすべきかわからず途方にくれてしまう。そんなときに、経験者の一言が大いに役に立つ。以下がその代わりを果たすことを期待する。

ただし、多くの場合、経験者のアドバイスは、その人自身の経験を超えるものではないので、文章としてまとめると、「…かもしれない」「…という可能性がある」「例外として…」などメリハリに欠けたものになってしまうおそれがある。そこで、敢えて断定的に書いてある部分も多い。したがって、以下はあくまで私見として読んでいただきたい。

その後12年が経過して加筆を行なう機会を得たが、タンパク質結晶作成の初心者としての当時のアツい思いを大事にして大幅な更新は行わないこととした。当時は「遺伝子組み換えで調製した膜タンパク質は結晶解析ができない」といった言説が半ば信じられていたことを考えると、わずか10余年で膜タンパク質の結晶解析がごく普通のこととなったことに隔世の感がある。さらにクライオ電子顕微鏡単粒子解析の急速な普及が進む状況で、「結晶解析はもはや不要だ」という過激な意見もあるはずである。しかし、すべての測定技術はそれぞれに不断の進歩があり、一瞬の間だけ古く見えても次の技術革新の波が必ずやってくる。結晶解析もしかりである。とはいえ、タンパク質の結晶作成はロボットの普及などがあるものの、依然、愉しい手を使った実験であり、数ある生化学実験の中でも、結果が結晶の形で目に見えると言う意味で格別である。Let’s try to crystalize all your proteins.

結晶化理論

タンパク質の結晶化は核形成と核からの成長の2つの過程に分けて考えることができる。核形成条件はいまだ試行錯誤して見つける必要があるが、成長の最適化は理論的に攻めることができる。

結晶化理論2

「勝てば官軍」:結晶化の理論や屁理屈は人の数だけあるが、結晶が出れば勝ちである。結晶化スクリーニングでは、9回の裏ツーアウト逆転満塁ホームランが起こりうる。己を信じて日々努力することが肝要である。

「感性を磨け」:しかし、結晶化名人がいるのは確かである。長年の経験と勘から、沈殿の見た目の善し悪しや、複数の溶液条件の共通性から、次になすべき実験を的確に立案できる。しかし、これは普通の実験となにも変わることはない。観察力と記憶力があればだれでも名人になりうる。これに対し、ひたすらスクリーニングキットの種類を増やして、沈殿を作り続けるのは感心しない

「タンパク質の結晶化条件は必ず複数ある」:ある条件で結晶が出ても、他の条件のサーチを止めてはいけない。現在の条件で出た結晶は最終的な構造解析に至ることがないかもしれない。たとえ構造解析ができたとしても、他の条件で出た結晶の構造が無駄になることはない。論文を書くときに比較することで図を一枚追加できる。もしも結晶が出る条件が非常に狭く限定されたものであるならば、世の中にこれだけのたくさんの結晶構造が溢れることは無い。この事実を己のタンパク質を信じて進む糧にせよ。

「一期一会かも」:とはいえ、結晶析出の再現性に乏しいこともある。1個しか大きくならず、それを使って全データを取るということもある。これは結晶化条件が最適でないことが原因である。当然、時間をかけて最適な結晶化条件を探索すれば再現できるはずであるが、この世の中、一つだけの対象にいつまでも固執しているわけにはいかない。出た結晶は大事にしよう。

「見た目で信じてはいけない」:外見が美しいと良い結晶だと思うのは、世の常である。しかし、すばらしく大きくて、エッジがきれいな結晶が惨めな回折データを与えるのに、みすぼらしい外観の小さな結晶が構造決定可能なデータを与えることも珍しくない。つまり、マクロなレベルでのきれいさと、オングストロームレベルでの整列は基本的に無関係である。外見と中身が必ずしも一致しないのは世の常かもしれない。ただし、なにがしかの相関はあると思われる。結晶化条件の最適化において、すべての結晶(もどき)にX線をあててみることは理想的であるが実際的でない。エッジがきれいな美しい結晶を目指すことは、ひとつの方針としてあり得る。

「誰が偉い?」:どのタンパク質をターゲットにするかを決定する、タンパク質をたくさん作る、結晶をつくる、回折測定をする、位相を決定する、構造論文を書く、以上のための研究費を獲得するなど、多数の人が1つの構造決定に関わる。少し前までは、結晶をつくったり、位相を決めたりする人が専門技術ということで偉かったかもしれない。しかし、昨今の技術革新はその地位を危うくしている。現在では、結晶作成と構造決定は多少アートの要素を残した実験技術になっている。将来、1分子X線構造解析技術などが実現でもすれば結晶化技術は過去の遺物となる。タンパク質は機能をもっているが故に皆が興味をもっているのだから、構造から機能に結びつく発見ができる人が一番偉い(はずだ)。

詳細

タンパク質の調製

タンパク質の純度が最も重要である。大まかな目安としては、「SDS 電気泳動で CBB 染色したときに単一バンド」とするか、「純度99%以上」といえる。動的光散乱(Dynamic Light Scattering)測定などをして、タンパク質が単分散状態すなわちアグリゲーションをつくっていないことを確認しておくことも有効である。しかし、SDS 電気泳動などで単一のバンドを与える場合であっても、イオン交換クロマトグラフィーで複数のピークを与える場合は、電荷が異なることを意味するので、それぞれを異なる標品として扱う。もったいないからといって、複数のピークを合わせたり、裾に肩が見られるのにそれを含めてしまうことは避ける。たとえば、複数のピークのうち、1つだけが結晶を与える場合がある。「私はそんなことはしない」と言う人もいると思うが、経験上、このようなことをついしてしまう人は案外多い。

目的タンパク質をアフィニティタグとの融合タンパク質として発現することが多い。この場合、融合タンパク質を結晶化するアイディアはうまくいかない。なぜなら、融合タンパク質と目的タンパク質はフレキシブルなリンカーを介してつながっているので、この運動性が結晶化を阻害する。ヒスタグは小さいのでそのまま残しておいても問題ないことが多いが、お作法として除去するのが普通である。アフィニティタグの除去はプロテアーゼを用いて行う。除去後に残るリンカー由来配列は数残基程度と短かくなるようにあらかじめ設計しておく。インクルージョンボディになって巻き戻しをしたり、丈夫なために熱処理で精製ができる場合は、アフィニティタグをつけずにダイレクト発現にする方が、タグの除去のステップを省略できるので試す価値がある。N 末端のメチオニンが残らないように、2番目のアミノ酸は側鎖が小さなアミノ酸(アラニンやセリン)を選ぶと良い。N末端のメチオニンが中途半端に残るのは、大腸菌で大量発現すると細胞内で N 末端のメチオニンの酵素的な除去が間に合わなくなってしまうためである。

精製は、アフィニティ精製→イオン交換カラム→ゲル濾過の順番にするのが理にかなっている。最後のゲル濾過は夾雑物である低分子を除く役割も持っている。

凍結乾燥はなるべく避けたいが、凍結乾燥した場合は十分に透析する。精製段階の最終ステップ近くでは硫安沈殿を避ける。\(\ce{(NH4)2SO4}\) の残留があり再現性がなくなる。ただし、核酸に結合するタンパク質では硫酸イオンがリン酸基結合サイトに入って結晶化がうまくいく場合がある。

最終的な精製タンパク質溶液には不必要なものが入っていないこと。単に前例を踏襲して、たとえば EDTA が意味も無く入っているような事態を避けなければならない。タンパク質の安定化や溶解性に本当に必要なものがあれば、それを必要最少限の濃度で入れること。DTT、塩、基質、グリセロールなど。なんと水で透析する猛者もいる。私は怖くてしませんけど。

タンパク質試料が古くなると結晶が出るケースでは、βメルカプトエタノールが添加されている可能性があり、時間がたつとβメルカプトエタノールが酸化あるいは揮発した結果、タンパク質にフリーのSH基がなくなったためと考えられる。

SH 基保護試薬として、DTT、βメルカプトエタノール、TCEP–HCl(Tris(2-caroboxyethyl)-phosphine hydrochloride)がある。βメルカプトエタノールは揮発性だが、あとの2つの不揮発性である。

pH を調節するための緩衝液は 10 mM 程度の濃度の薄い緩衝液、Tris pH 8.0、TEA pH 7.5、HEPES pH 7.0 などを用いる。結晶化スクリーニングでは、沈殿剤の緩衝液を使って pH を変えるのでタンパク質溶液中の高い濃度は不可である。

腐敗防止にアジド(\(\ce{NaN3}\))は加えるなら0.02%〜0.1%くらい。ただし、これにはいろいろ意見がある。アジドの代わりに thymol あるいは Thimerosal を加えることがある。私はどれも加えません。

セレノメチオニン体の調製

大腸菌は普通の BL21(DE3) でよい。特にメチオニン要求株を使う必要はない。培地に Ile, Lys, Thr を倍量加えた SR 培地を用いて代謝を抑えることができる。MALDI-TOF-MS を使って、セレノメチオニンが入っていることを確認することを勧める。

バッファー交換と濃縮

遠心式の限外濾過膜を使うのが普通。例えばミリポア社の Amicon Ultra シリーズがある。濾過膜は再生セルロース製である。一方、GE ヘルスケア、現在はサイティバ(Cytiva)社の Vivaspin シリーズはポリエーテルスルホン(PES)製の濾過膜を使っている。著者が長年の研究生活で得た真理の一つに「タンパク質を扱う上で一番難しい作業は濃縮である」ことがある。吸着などの問題があるときには、異なる材質の濾過膜を使うのも一法であることを憶えておいて損はない。結晶化のための最後の作業として、エッペンドルフチューブタイプの膜を使うと最終体積を40 μL程度にまで濃縮できる。必ず、濾液をチェックして漏れがないかどうかを調べてから濾液を捨てること。使用前に限外濾過膜を水でよく洗うこと。保存用にグリセロールなどが含まれているからである。3Kカットオフだとバッファー交換にかなり時間がかかる。

イオン交換樹脂に吸着して濃縮することも一案。スピンカラムで脱塩を検討するのもグッド。濃度の測定は、1 μL 程度で UV 吸収が測定できる装置を使うと便利である。ナノドロップという商品名の装置がその代表である。購入前(値段のわりには使うとは思えない)と購入後(無いと生きていけない)の評価がここまで異なる機器は珍しい。

タンパク質溶液のフィルター濾過について

いろいろ意見あり。0.22 μm の遠心濾過フィルターを結晶化直前に行う。しかし、サンプルロスを考えると、遠心(あるいは超遠心)で済ます方が良い場合もある。結晶化スクリーニングのときは逆にゴミなどの微粒子は、結晶核を残す?意味で濾過しないことを推奨することもある。

保存

なるべくタンパク質濃度が高い状態で保存する(10〜50 mg/ml)。結晶化においては溶解度が高いタンパク質は高い濃度が必要という理屈で、できるだけ濃縮して保存タンパク質溶液とする。4℃で溶液のまま保存するか、少量に小分けして液体窒素で急速凍結して−80℃で保存する。融解するときに、氷上でゆっくり溶かす、あるいは37℃で急速に溶かすかのオプションあり。サブユニットがある場合は、凍結保存はあまりよくないかもしれない。保存のためにグリセロールをむやみに添加しないこと。グリセロールの残留が問題となる。

アグリゲーションの有無のチェック

Native PAGE、BN-PAGE(Blue Native)、IEF(等電点電気泳動)、NMR、ゲル濾過カラム、Dynamic light scattering(DLS)、電子顕微鏡負染色像観察などが考えられる。最初の結晶化スクリーニングで、べたっとした沈殿ばかりという場合は、面倒でもこうしたチェックが必要かもしれない。

沈殿剤の選択

手持ちのタンパク質量が少ないときは、中性 pH 付近で、グリッドスクリーンの PEG6000、\(\ce{(NH4)2SO4}\) を試す。余裕があるなら、加えて PEG/LiCl、MPD、NaCl を試す。低濃度から試し、沈殿がでたらそれ以上の濃度はやめる。次に pH を変える。結晶化温度はまず20℃を試す。

最近では結晶化セットアップロボットを使うと、一条件あたり、0.1 μL~0.2 μL の少量でスクリーニングを行うことができる。この場合は最初からスパースマトリックススクリーニングを行う。ハンプトン、キアゲン、シグマ、モレキュラーディメンジョン、その他の市販されているスパースマトリックススクリーニングキットを用いる。膜タンパク質用のキットもある。ただし、キットの名前が異なっていても、組成が同一であったり、似ていることもあるので、むやみにたくさんのキットを試しても無駄である

タンパク質の量が少ないからといって、タンパク質濃度を落としてより多くのスクリーニング条件を試すというのはまったく良くない戦略である。結晶化は溶解度と関係しているので、溶解度が許す限り高い濃度にした方がよい。たとえば、5 mg/ml では沈殿だけだが、20 mg/ml では結晶が出るなどということがある。標準としては 10 mg/ml とされている。タンパク質濃度として 80~100 mg/ml という例もある。

沈殿剤の種類

硫安 \(\ce{(NH4)2SO4}\) の代わりにマロン酸が有効なことがある。ハンプトンにキットがある。有機溶媒(organic solvent)で不揮発性のものでは MPD がポピュラーである。沈殿剤にはヒ素(カコジル酸緩衝液)や重金属イオンが入っているものがあるので捨てるときに注意が必要になる。最近はカコジル酸緩衝液を使っていないキットも販売されているのでお勧め。

マロン酸を使った結晶化について

特長として

  1. 塩の中では結晶化ヒット率が最も高い
  2. 硫安と置き換えられる
  3. 2M 以上の濃度の場合、クライオプロテクタントとして使える。

が挙げられている。

結晶化の温度

20℃が基本で、余裕があれば4℃を加える。中間をとって10℃がよいという意見もある。20℃より30℃がよいというサンプルも経験上あった。4℃で行う場合は、厳密には結晶化のセットアップから観察まですべて4℃で行うべきであるが、氷室での作業となるので、セットアップと観察は室温で行うことで代えてもよい。私はセットアップと観察は室温でしています。

マニュアルセットアップ

シッティングドロップの方がセットアップにかかる時間が少ないので初期スクリーニングに適している。ハンギングドロップ法はその後の最適化スクリーニングに用いる。

ハンギングドロップ法:グリース付きの24穴プレートを使うと便利である。カバーグラス(ガラス製あるいはプラスチック製)はキムワイプで拭いた後、ダスターでほこり(主にキムワイプの線維)を吹き飛ばす。ガラスの小さな破片もよく残るので注意する。タンパク質溶液 1 μL に沈殿剤を 1 μL 加えるのが基本である。沈殿剤の中にタンパク質溶液を加えるのは沈殿が出る可能性があるので推奨されていない。必ずタンパク質溶液を乗せてから、それに沈殿剤を加える。混ぜるのが普通であるが、混ぜない場合もある。混ぜる場合も、stir(コーヒー混ぜ)と mix(ピペットマンで吸ったり吐いたりする)がある。再現性を考えて統一性を持たせること。核形成が増えるので最初のスクリーニングでは混ぜるが、最適化では混ぜないこともある。

ウエルに沈殿剤を 400 μL ずつ入れる。それほど正確でなくてよい。タンパク質溶液 1 μL にウエルから 1 μL とって加える。この時点で体積は 2 μL になり、タンパク質と沈澱剤濃度はそれぞれ半分になる。液–液平衡に向けてドロップから水が蒸発して、ウエルの沈殿剤液に移動する。平衡には2週間程度かかる。最終的にはドロップ体積が 1 μL となり、タンパク質濃度と沈澱剤濃度が共に徐々に濃くなっていく。この過程の最中にタンパク質が沈殿あるいは結晶となる。

結晶化セットアップロボットによるセットアップ

HydraPlusOne, Mosquite, Gryphon などがある。結晶化セットアップのための時間や労力が減らせるメリットもあるが、それよりも、マニュアル操作に比べて少ない体積で結晶化を試せるので、より多くの結晶化条件を探索できるメリットの方が大きい。また、ドロップの体積が少ない分だけ早く平衡に達するので、時間短縮効果もある。

観察

顕微鏡をつかって40倍~100倍でセットアップ直後と毎日観察する。1週間後からは数日おきでよい。20℃では、マニュアルセットアップのハンギングドロップやシッティングドロップの場合、平衡に達するのに2週間くらいかかる。ロボットを用いた96穴プレートでは1週間程度である。低温ではさらに時間がかかる。焦点深度を変えて、プラスチック表面やガラス表面にも注目すること。

しばらくして、ほとんどのウエルで透明な溶液のままであるときは、タンパク質濃度が足りない。目安として、半分程度のウエルで沈殿が見られるようなタンパク質濃度が良いらしい。逆にほとんどのウエルで沈殿が見られるときは、タンパク質濃度が高すぎる。このときは、沈殿剤濃度を下げる(たとえば、沈殿剤をすべて半分に希釈するなど)を行う。先に書いたとおり、タンパク質濃度を下げてはいけません。

べたっとした沈殿、色がついた沈殿、網目状の沈殿などいろいろできる。ドロップ表面に膜が張って、しわしわになることもある。また、相分離と呼ばれる現象で、オイルと呼ばれる油滴ができることがある。もう少し、性質が良いと、つぶ沈(丸く光る、かなり大きくなる)や、つぶ沈が集まって透明なかたまりをつくることがある。クワジ結晶(準結晶, quasi-crystal)や球晶と呼ばれる「結晶もどき」ができることもある。余談ながら、相分離はとても見事に起こるので何か意味があるのでは当時思っていたが、液液相分離という物理現象が生物現象として重要性なことがわかってくると、「やっぱりね」と思う今日この頃である。

結晶かどうかを判断するときは、エッジがあるか、偏光があるかなどを見る。偏光なしで観察した方がわかりやすい場合がある。普通、結晶は透明に見えるのに対し、ゴミなどは光を通さずに暗く見える。特に初心観察者はガラスの破片やプラスチック基材の傷などを結晶と思いこむことが多い。天井の蛍光灯が映り込むことがある。粘調なドロップの場合は、液中にトラップされた泡が結晶に見えるので注意。とはいえ、慣れてくるとすぐに見分けがつくようになるのでご心配なく。

タンパク質の結晶の外観は、微結晶、“うに” みたいな針状結晶、薄い層状結晶、ロッド状、柱状結晶など多彩である。(警告)変幻自在な結晶の形を収集することが趣味になることが多い。

塩の結晶はエッジがあり、偏光もあるので、タンパク質結晶と間違いやすい。特にタンパク質溶液や沈殿剤にリン酸、カルシウムイオンなどが入っている場合は要注意である。結晶に再現性があるなら無駄になることを覚悟で、結晶をいくつか選んで針でつついて壊してみる。堅い手応えなら、塩である可能性が高い。また、青い色素が市販されている。これを加えてしばらくすると、タンパク質結晶はまわりに比べて青く染まるが、塩は逆に白く抜ける。しかし、経験上、含水率が低くて堅いタンパク質結晶や青く染まらないタンパク質結晶もたまにあるので、最終的には X 線を当ててみることで判断するしかない。少々値段は高いが、トリプトファンの蛍光をみる顕微鏡がある。タンパク質結晶は光るが塩の結晶は光らない。

結晶が沈殿のなかから出てくることはごく普通に見られる。これは初心者にはにわかには信じられない。結晶が成長するにしたがって、沈殿が目に見えて減っていくことがある。

結晶条件の最適化

pH を0.2刻みで ±0.8 程度ふる。PEG などの濃度を1%刻みで ±8% 程度ふる。

PEG の分子量を変える。100から20,000まである。数字が大きくなるにつれて PEG 濃度を少しずつ下げる。

PEG に低濃度の塩(\(\ce{NaCl}\)、\(\ce{LiCl}\)、\(\ce{(NH4)2SO4}\)、\(\ce{Li2SO4}\))を加える。

MPD から PEG400、あるいは PEG400 から MPD としてみる。

カチオンの種類を変えてみる。

バッファーの種類を変えてみる。

タンパク質濃度を変える(すべてクリアーなら上げる。沈殿が多いなら下げるとよいかもしれないが、他の要因かもしれない)。

サンプル体積を変える。タンパク質溶液と沈殿剤溶液の比率や体積を変えるのも有効である。タンパク質溶液と沈殿剤溶液:2 μL + 1 μL と 1 μL + 0.5 μL では比率は同じであるが、異なる混ぜ方であると考えるべき。

温度を変える。4~37℃

結晶化の方法を変える。ハンギング法とシッティング法は一見よく似ているが、結晶形成の条件が異なる。透析法、オイルバッチなど別の方法を試すのも価値がある。低分子の添加剤を試す。これは結晶がすでに出ているが、大きくしたいとか、3次元的に成長させたいときに、低分子物質を加える操作である。

シーディング

シーディングとは困難な核形成のステップをうまく回避するための技術である。なんらかの形で核を移植する。移植された核が溶けてしまわないで、成長していく条件をあらかじめ設定しておく必要がある。

マクロシーディング

小さな結晶を数個取り出して、新しくセットしたドロップへ移す。結晶が少し溶けて新しい表面が出てくることが重要。でも上手く行かないことが多いでしょう。

ミクロシーディング1

微結晶が出ているドロップには核(シード)が含まれている。

シードを含むドロップ 0.5 μL + そのウエル 4.5 μL(これで10分の1の濃度)そこから、3 μL + ウエル溶液 27 μL(これで100分の1)そこから、3 μL + ウエル溶液 27 μL(これで1000分の1)。タンパク質溶液 1 μL + 上記のシードを含む溶液 1 μL をドロップ(ここで沈殿剤濃度は半分になる。これでシードが溶けてしまうと困るが)に、ウエルには新しい沈澱剤溶液を入れて、次の結晶化ラウンドに入る。

ミクロシーディング2

結晶を針で壊す。その針で結晶が出なかったドロップをストリークする。ドロップは沈殿が出ているようなものは避けて、透明なものを選ぶ。新しくセットしたものだと溶けてしまうので、しばらく日数がたったものを使う。沈殿が出ているドロップでは単に沈殿してしまう。

分解能がより高い結晶をつくる

添加剤(Additive)を検討する。dioxane, DMSO, PEG200, ethanol, DMF, ter-butanol 0.1~2% v/v などの低分子をドロップに加える。何でもありである。ハンプトンなどから添加剤のキットがでている。

添加剤としてNDSB(総称)を使うときは、ストック溶液は加熱して溶かすこと。超音波処理では透明でもアグリゲーションをつくっている。

添加剤(additive)はタンパク質試料に加えるが、そのときウエル溶液にも加えるべきか否かの問題がある。蒸気圧の変化を引き起こすものはウエル溶液にも加えないと、体積が 1 + 1 μL から 1 μL にもどらす、逆に増えることがある。例えば、グリセロールはウエル溶液にも加えるべき。塩は少量ならウエル溶液には入れなくてもよい。しかし、要は条件を再現できれば、それほど厳密に考えなくてもよい。

もう一つの方法として、2つの沈殿剤をミックスする方法がある。まず、最初のスクリーニングで沈殿を生じた溶液条件では、なんらかの形で溶解度を変えたためであると考えられる。そこで、これらを選んで、最適化したいと考えている条件に10%程度加えて再スクリーニングを行う。

核酸結合タンパク質では、スペルミジンなど、核酸に結合する低分子が有効かもしれない。また、主鎖リン酸基をミミックする意味で、リン酸緩衝液が良いことがある。硫酸イオンにも同様な効果がある。

一般的にはゆっくりと結晶を成長させた方がよいと考えられる。例えば結晶がでた条件 PEG16% とする。ハンギングドロップ法やシッティングドロップ法で等量ずつ混ぜた場合、最初の PEG 濃度は8%である。そこで、ドロップをつくる場合は PEG16% を使うが、ウエルにはより低い PEG 濃度である8%~16%の PEG を入れると、ゆっくりと結晶成長が進行して、良質の結晶が期待できる。PEG8% の場合はバッチ法に近くなる。

脱水(dehydration)

結晶の含水量が高い結晶に有効である。結晶中の溶媒水が吸い出されて結晶が締まることで分解能が上がると考えられる。結晶化条件に比べ沈殿剤濃度が高い溶液にループを使って結晶を移し、数秒から数分そのまま置いてから凍結する。結晶を含むドロップを空気にさらしてしばらく置いて乾かすこと(air-dry)が効くこともある。初心者がもたもたやった方が分解能の高い回折データが得られることがあるのはこのためである。まさにビギナーズラック(lack)である!結晶化プレートを長く放置しておくと密閉が不十分なために脱水が自然に起こるケースも考えられる。

脱水をコントロールして行うには、沈殿剤の濃度を高めたウエル溶液を入れたウエルに結晶が含まれたドロップをスライドガラスごと移して、数時間~数日待つことを行う。

結晶は脱水操作でひびが入ったりすることがしばしばあるが構わない。分解能だけではなく、スポットが伸びた形(モザイシティ)が解消される効果も期待できる。結晶がぼろぼろ崩れて、中心部分の芯が良いという場合もあった。

アニーリング(annealing)

回折計にマウントしたまま低温窒素ガスを数秒遮って、また当てる操作をアニーリングと呼ぶ。一瞬溶けてまた凍る。試すのは簡単であるが、それほど成功率は高くないと思う。

マウントからはずして室温に戻して完全に溶かしたあとに、クライオソルベントのドロップへ結晶を戻して、しばらく待ってからまたマウントする。これは結構うまくいくことが多い。

ドロップからの結晶の取り出し方法

顕微鏡で見ながらクライオループですくい取る。結晶の大きさよりやや大きいループを選ぶ。大きすぎるループは結晶を拾いにくいし、不要な沈殿剤溶液が周囲に残って、散乱によるバックグランドを上げてしまう。操作としては、まず結晶を液面近くまで浮かび上がらせる。表面近くにきたら、ループを下にあてがって、ループ面に対し平行に引き抜く。金魚すくいのように結晶をくぐらせてはいけない。名人になると、ループに結晶が触れないように配慮しながら拾うことができるらしい。普通人にはそんな余裕はないけど。

結晶を引き上げたら、脱水を考えなければ15秒以内に凍結させる。乾燥すると塩が析出したりして、結晶が壊れて回折能が低下する。

クライオ条件

結晶を凍結させる際に、周囲にある溶液は非結晶状態(アモルファス状態)で凍らせなければならない。その理由は水をそのまま普通に凍らせると体積が増えるために、その圧力で結晶が破壊されるのを避けるためである。アモルファス氷をつくるために、クライオプロテクタントと呼ばれる低分子化合物を混ぜてかつ急速凍結する。クライオプロテクタントとしてグリセロールやエチレングリコールを用いる場合、目安として22.5%ぐらいまでを加えて、アモルファス氷になるようにする。この数字は目安であって、20%では足りず、25%は多すぎるという経験から来ている。

PEG と MPD は沈殿剤であると同時にそのままクライオプロテクタントでもある。この場合、PEG や MPD の濃度がある程度あれば、そのまま、凍結させることができる。また、足りなければ補って濃度を増やせばよい。低濃度の塩はクライオプロテクタントとしては働かないが、高濃度の塩がクライオプロテクタントになる場合がある(“Cryosalts: suppression of ice formation in macromolecuar crystallography.”, Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr., 2000 Aug;56(Pt 8):996-1001)。

結晶をつくったウエル溶液に、単純にクライオプロテクタントを加えると沈殿剤濃度が低下してしまう。しかし、結晶をクライオプロテクタント溶液につける短い時間(1分以下)の間に結晶が溶けなければよいので、これで事足りる場合が多い。丁寧にやるときは、ウエル溶液の水が一部クライオプロテクタントに置き換わった組成のクライオプロテクタント溶液を別につくる。

結晶をクライオプロテクタント入りの溶液にくぐらす操作を行うときにクライオプロテクタントが希釈される。そこで、その分を考えてクライオプロテクタント溶液のクライオプロテクタントの濃度を多少上げておくほうが良い。

クライオプロテクタントの濃度を一気に上げる方法が普通であるが、他に、段階的に少しずつクライオプロテクタントの濃度を上げていく方法がある。結晶によってはどちらかの方法を使うことが必須な場合がある。

(例)段階的に上げる方法。結晶を含むドロップ(たとえば 2 μL)に 10 μL のウエル液を加えて体積を増やす。ここにクライオプロテクタント溶液をピペットマンで 5 μL 加えて、しばらく待ったあとに 5 μL 取り去る。これを3~4回繰り返して、徐々にクライオプロテクタントの濃度を上げていく。関係する溶液をすべて同じスライドガラス板上に配置しておくことで、すばやく操作を行うことができる。

正攻法としては、始めからクライオプロテクタントを含む沈殿剤溶液で結晶化を行う。こうするとハンドリング操作が結晶に与えるダメージを最小にすることができる。もちろん、結晶が出なくなることもある。

クライオプロテクタントを入れる代わりに結晶の周囲の母液をオイルで置換する方法もある。perfluoropolyether oil PFO-X125/03(Lancaster Synthesis、和光)がある。

凍結操作

結晶をクライオプロテクタント溶液ドロップにループでいったん移して、そこから再度拾ってマウントする。アモルファス状態になったかどうかは X 線を照射してチェックする。慣れると X 線を当てなくても外見で凍ったかどうかわかる。凍ってしまった場合は、アモルファス氷になる必要最小限のクライオプロテクタント濃度を決める。

結晶はあまりにおおきいと凍結の際に歪むので、あまり大きくない方がよい。大きさとして一辺が 100 μm くらい以下が適当である。この操作で歪んでモザイシティが大きくなったりするので回折実験でチェックすべきである。

液体窒素に結晶を入れる場合は、液体窒素が気化して窒素ガスの層をつくり、急激な温度低下を阻害する。窒素ガス層を剥がすために、結晶ループにつけたロッド(棒)を動かして、混ぜるような動作をすることが有効とされている。これに対して、100 K 程度の低温の窒素ガス気流中で凍らせる場合はこの心配がない。

クライオ電子顕微鏡単粒子解析では、電顕グリッドの微細な穴に張ったタンパク質溶液を液体エタンに投下して急速凍結する。液体エタンは液体窒素の中に浮かべた容器の中に、エタンガスを直接吹き付けて簡単に作ることができる。エタンを使う理由は融点と沸点との差が約80℃あり、液体として存在する温度幅が広いために高温の物体に接触してもすぐに気化することがなく、ガス層を作らないので冷却能に優れている。これを利用できないか?と考えるのは自然である。事実、過去に、X 線結晶解析でも液体エタンや液体プロパンが使われたことがあるようだが普及しなかった。操作が煩雑になる割にはメリットがなかったのだろう。

雑多な結晶化の Tips

pH は等電点付近が良い場合が多いとある。しかし、統計には根拠がないとの指摘もあり。

バッファーとしてリン酸塩は避ける。無機塩結晶を生じやすい。しかし、リン酸塩でないとだめな場合もある。

たくさん微結晶が出来てしまう場合に、多数の核形成を抑えるため、プレートごとゆっくりと振とうすると良い場合がある。

塩濃度が高いときはタンパク質の溶解度が温度の高い方が下がり、PEG のときは逆に、タンパク質の溶解度が温度の低い方が下がる傾向あり。

有機溶媒を沈殿剤として使うときは、低温(4℃)でなるべく低イオン強度で行う。

結晶の twinning を減らすには、dioxane(0.5~2%)や glycerol を加える。glycerol は疎水相互作用を抑える効果ある。PEG が沈殿剤なら PEG の分子量や製造元を変えるという手もある。

セレノメチオニンを入れたタンパク質では疎水性が上がって、ワイルド体に比べて溶解度が下がることが多い。通常は、結晶化条件が共通あるいは、わずかな結晶化条件の調整で結晶化が可能なことが多いが、結晶化やクライオ条件が変わる可能性が常にある。心構えとして、別の蛋白質と考えて条件検討をするぐらいの気持ちが良い。

膜タンパク質の結晶化

アグリゲーションの有無のチェックは動的光散乱(DLS)よりも電子顕微鏡観察負染色観察の方がよい。超遠心をすることでアグリゲーションを事前に除くことが重要。αへリックスタイプとβバレルタイプでは考え方が異なる。αへリックス同士の膜中での相互作用はゆるく相対配置がきっちり決まっていない。αへリックスの間に脂質あるいは界面活性剤分子が入り込んでいることが多い。リガンドが結合すると、相対配置がきっちり決まって結晶解析ができる(例、ロドプシン)。βバレルタイプは一般に安定である。

添加剤として分子の大きさが界面活性剤よりやや小さい両親媒性の有機化合物を加えて隙間を埋めることがある。また、膜由来の脂質が残って隙間を埋めるパッキンとして働くことが多い。PEG400 はクライオプロテクタントとしても働くので便利である。

例)両親媒性の有機化合物の例は 1,2,3-ヘプタントリオール

この場合、スクリーニングは
(基本96条件)×(第1界面活性剤)×(添加剤としての界面活性剤)になる

界面活性剤の選択

非イオン、または両イオン性であること、濃度は CMC より多少高い濃度とする。加えすぎると界面活性剤の変性効果が出てしまう。界面活性剤には化学的には混合物のものがある。たとえば Triton や Brij など。これらは結晶化には適さない(はずである)。最初の細胞膜破砕、精製、結晶化と分けて考える。最初はとにかく膜タンパク質が安定な界面活性剤を選ぶ。普通は CMC が低く、ミセルサイズの大きなものを選ぶ。また、安価なものを選択する方がよい。結晶化では第2の界面活性剤に変えて、ミセルサイズを調節することがある。CMC が高く、ミセルサイズの小さいものを選ぶ。CMC が高いので必然的に濃度が高くなり、第1の界面活性剤を追い出すことになる。もちろん、単一の界面活性剤で問題なければ、2つ以上の界面活性剤を使い分ける必要はない。その理由は、ゲル濾過や限外濾過膜を使った界面活性剤の置換は簡単には達成できないことが一つである。多くの界面活性剤では濃度決定が困難なことがさらに状況を難しくしている。

実験室回折計では大きな結晶の方が一見分解能が高く見えることが多い。しかし、実際は放射光にもっていくと低分解能であることが多い。スクリーニングでは小さな結晶を用いるべきである。小さい方が凍り方が均一になる。ビームが細くバックグラウンドが低い X 線ビームラインを使わなくてはならない。ある結晶化条件のまわりでサーチするが、1つの条件で複数(5個ぐらい)を試す必要がある。誤差の大きい状態で平均的にどの条件がよいかを探すという難しい判断になる。このサーチを数回繰り返すうちに高分解能(<3.5 Å)に到達することになる。(岩田想先生談)

膜内部分の同士の相互作用は特異性が低く、結晶化のドライビングフォースにならない。膜外部分同士の相互作用が鍵となる。そこで、膜外部分が大きいタンパク質はうまくいきやすい。逆に膜外部分が小さい場合は、クリスタルコンタクトを増やすために、抗体や結合タンパク質を結合させる方法がよい。結晶化条件はもちろん変わる。融合タンパク質は普通リンカーがフレキシブルなので有効ではない。沈殿剤は過去の例にならってみると PEG がよい。

脂質キュービックフェーズ(LCP)法あるいは脂質メソフェーズ法を利用した膜タンパク質の結晶化は、当初、鳴り物入りで登場したが、しばらくはバクテリオロドプシンにしか使えないのでは?といった風評だった。しかし、最近はルーチン的に汎用されている。モノオレイオンを使って脂質キュービック相を作った場合、膜タンパク質として膜外ドメインが割合小さいことが必要とされてきたが、7.7MAG と呼ばれるモノオレインの類似体を使うと、この制約を緩めることができる。LCP 法と特に相性がよいと思われるのは、基質が脂質や糖脂質であって、膜タンパク質との複合体を結晶化したい場合である。あらかじめ、モノオレイオン/7.7MAG と脂質基質を混ぜて LCP を作っておき、これにタンパク質溶液を混ぜ合わせる。脂質基質は水に溶けないことが多いが、モノオレイオン/7.7MAG 混合することで溶液状態とすることができる。

脂質キュービックフェーズ(LCP)法あるいは脂質メソフェーズ法で作った膜タンパク質の結晶は微結晶(microcrystal)となることが多い。色が着いていない場合、LCP の中に埋まった微結晶を視認することすら難しいことも多い。そこで、多数の微結晶をザクッとループにすくって、微結晶専用のマイクロフォーカスビームライン(たとえば SPring-8 BL32XU)を使って、多数の結晶から multiple small wedge 法を使って回折データを集め、それらをマージして、結晶解析に使うことができる。

まとめ

最後まで読んでいただきありがとうございます。実験プロトコルとしてまとめるには小ネタすぎる実験 Tips を、思いのまま書き連ねる作業は結構楽しいです。皆さんこのような小ネタを持っているはずです。引退する教員が研究室内で伝えてきたノウハウを “遺言として” 広く公開することにはそれなりの意義があるように思います。一方、このような中途半端な文章を誰が読むのか?と思われるかもしれません。でも、すぐには役に立たなくても、先人の苦労を偲ぶことで、皆さんの今日からのやる気につながることもあると信じております。論文の Methods をいちいち読むのも大変だしね。

改訂履歴

改訂日改訂内容改訂前の PDF
2020-12-02
  • 「所属」を一部変更
  • 「膜タンパク質の結晶化」において段落順を変更
  • 「まとめ」を新たに追記
  • その他、全体に渡って、語彙・文章を適宜修正・追記
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はじめに

本概要はタンパク質結晶初心者である執筆者の5年間の勉強、経験、そして多数の人からのアドバイスをまとめたものである。タンパク質の結晶化はその一部が未だにアートの領域にあるために、多数の異なる見解や隠れた職人芸的技術があると思われる。さらに、タンパク質に備わる個性が事態をさらに複雑にしている。初心者は、沈殿ばかりであったとき、あるいは微結晶が決して大きくならないときに、次に何をなすべきかわからず途方にくれてしまう。そんなときに、経験者の一言が大いに役に立つ。以下がその代わりを果たすことを期待する。

ただし、多くの場合、経験者のアドバイスは、その人自身の経験を超えるものではないので、文章としてまとめると、「…かもしれない」「…という可能性がある」「例外として…」などメリハリに欠けたものになってしまうおそれがある。そこで、敢えて断定的に書いてある部分も多い。したがって、以下はあくまで私見として読んでいただきたい。

その後12年が経過して加筆を行なう機会を得たが、タンパク質結晶作成の初心者としての当時のアツい思いを大事にして大幅な更新は行わないこととした。当時は「遺伝子組み換えで調製した膜タンパク質は結晶解析ができない」といった言説が半ば信じられていたことを考えると、わずか10余年で膜タンパク質の結晶解析がごく普通のこととなったことに隔世の感がある。さらにクライオ電子顕微鏡単粒子解析の急速な普及が進む状況で、「結晶解析はもはや不要だ」という過激な意見もあるはずである。しかし、すべての測定技術はそれぞれに不断の進歩があり、一瞬の間だけ古く見えても次の技術革新の波が必ずやってくる。結晶解析もしかりである。とはいえ、タンパク質の結晶作成はロボットの普及などがあるものの、依然、愉しい手を使った実験であり、数ある生化学実験の中でも、結果が結晶の形で目に見えると言う意味で格別である。Let’s try to crystalize all your proteins.

結晶化理論

タンパク質の結晶化は核形成と核からの成長の2つの過程に分けて考えることができる。核形成条件はいまだ試行錯誤して見つける必要があるが、成長の最適化は理論的に攻めることができる。

結晶化理論2

「勝てば官軍」:結晶化の理論や屁理屈は人の数だけあるが、結晶が出れば勝ちである。結晶化スクリーニングでは、9回の裏ツーアウト逆転満塁ホームランが起こりうる。己を信じて日々努力することが肝要である。

「感性を磨け」:しかし、結晶化名人がいるのは確かである。長年の経験と勘から、沈殿の見た目の善し悪しや、複数の溶液条件の共通性から、次になすべき実験を的確に立案できる。しかし、これは普通の実験となにも変わることはない。観察力と記憶力があればだれでも名人になりうる。これに対し、ひたすらスクリーニングキットの種類を増やして、沈殿を作り続けるのは感心しない

「タンパク質の結晶化条件は必ず複数ある」:ある条件で結晶が出ても、他の条件のサーチを止めてはいけない。現在の条件で出た結晶は最終的な構造解析に至ることがないかもしれない。たとえ構造解析ができたとしても、他の条件で出た結晶の構造が無駄になることはない。論文を書くときに比較することで図を一枚追加できる。もしも結晶が出る条件が非常に狭く限定されたものであるならば、世の中にこれだけのたくさんの結晶構造が溢れることは無い。この事実を己のタンパク質を信じて進む糧にせよ。

「一期一会かも」:とはいえ、結晶析出の再現性に乏しいこともある。1個しか大きくならず、それを使って全データを取るということもある。これは結晶化条件が最適でないことが原因である。当然、時間をかけて最適な結晶化条件を探索すれば再現できるはずであるが、この世の中、一つだけの対象にいつまでも固執しているわけにはいかない。出た結晶は大事にしよう。

「見た目で信じてはいけない」:外見が美しいと良い結晶だと思うのは、世の常である。しかし、すばらしく大きくて、エッジがきれいな結晶が惨めな回折データを与えるのに、みすぼらしい外観の小さな結晶が構造決定可能なデータを与えることも珍しくない。つまり、マクロなレベルでのきれいさと、オングストロームレベルでの整列は基本的に無関係である。外見と中身が必ずしも一致しないのは世の常かもしれない。ただし、なにがしかの相関はあると思われる。結晶化条件の最適化において、すべての結晶(もどき)にX線をあててみることは理想的であるが実際的でない。エッジがきれいな美しい結晶を目指すことは、ひとつの方針としてあり得る。

「誰が偉い?」:どのタンパク質をターゲットにするかを決定する、タンパク質をたくさん作る、結晶をつくる、回折測定をする、位相を決定する、構造論文を書く、以上のための研究費を獲得するなど、多数の人が1つの構造決定に関わる。少し前までは、結晶をつくったり、位相を決めたりする人が専門技術ということで偉かったかもしれない。しかし、昨今の技術革新はその地位を危うくしている。現在では、結晶作成と構造決定は多少アートの要素を残した実験技術になっている。将来、1分子X線構造解析技術などが実現でもすれば結晶化技術は過去の遺物となる。タンパク質は機能をもっているが故に皆が興味をもっているのだから、構造から機能に結びつく発見ができる人が一番偉い(はずだ)。

詳細

タンパク質の調製

タンパク質の純度が最も重要である。大まかな目安としては、「SDS 電気泳動で CBB 染色したときに単一バンド」とするか、「純度99%以上」といえる。動的光散乱(Dynamic Light Scattering)測定などをして、タンパク質が単分散状態すなわちアグリゲーションをつくっていないことを確認しておくことも有効である。しかし、SDS 電気泳動などで単一のバンドを与える場合であっても、イオン交換クロマトグラフィーで複数のピークを与える場合は、電荷が異なることを意味するので、それぞれを異なる標品として扱う。もったいないからといって、複数のピークを合わせたり、裾に肩が見られるのにそれを含めてしまうことは避ける。たとえば、複数のピークのうち、1つだけが結晶を与える場合がある。「私はそんなことはしない」と言う人もいると思うが、経験上、このようなことをついしてしまう人は案外多い。

目的タンパク質をアフィニティタグとの融合タンパク質として発現することが多い。この場合、融合タンパク質を結晶化するアイディアはうまくいかない。なぜなら、融合タンパク質と目的タンパク質はフレキシブルなリンカーを介してつながっているので、この運動性が結晶化を阻害する。ヒスタグは小さいのでそのまま残しておいても問題ないことが多いが、お作法として除去するのが普通である。アフィニティタグの除去はプロテアーゼを用いて行う。除去後に残るリンカー由来配列は数残基程度と短かくなるようにあらかじめ設計しておく。インクルージョンボディになって巻き戻しをしたり、丈夫なために熱処理で精製ができる場合は、アフィニティタグをつけずにダイレクト発現にする方が、タグの除去のステップを省略できるので試す価値がある。N 末端のメチオニンが残らないように、2番目のアミノ酸は側鎖が小さなアミノ酸(アラニンやセリン)を選ぶと良い。N末端のメチオニンが中途半端に残るのは、大腸菌で大量発現すると細胞内で N 末端のメチオニンの酵素的な除去が間に合わなくなってしまうためである。

精製は、アフィニティ精製→イオン交換カラム→ゲル濾過の順番にするのが理にかなっている。最後のゲル濾過は夾雑物である低分子を除く役割も持っている。

凍結乾燥はなるべく避けたいが、凍結乾燥した場合は十分に透析する。精製段階の最終ステップ近くでは硫安沈殿を避ける。\(\ce{(NH4)2SO4}\) の残留があり再現性がなくなる。ただし、核酸に結合するタンパク質では硫酸イオンがリン酸基結合サイトに入って結晶化がうまくいく場合がある。

最終的な精製タンパク質溶液には不必要なものが入っていないこと。単に前例を踏襲して、たとえば EDTA が意味も無く入っているような事態を避けなければならない。タンパク質の安定化や溶解性に本当に必要なものがあれば、それを必要最少限の濃度で入れること。DTT、塩、基質、グリセロールなど。なんと水で透析する猛者もいる。私は怖くてしませんけど。

タンパク質試料が古くなると結晶が出るケースでは、βメルカプトエタノールが添加されている可能性があり、時間がたつとβメルカプトエタノールが酸化あるいは揮発した結果、タンパク質にフリーのSH基がなくなったためと考えられる。

SH 基保護試薬として、DTT、βメルカプトエタノール、TCEP–HCl(Tris(2-caroboxyethyl)-phosphine hydrochloride)がある。βメルカプトエタノールは揮発性だが、あとの2つの不揮発性である。

pH を調節するための緩衝液は 10 mM 程度の濃度の薄い緩衝液、Tris pH 8.0、TEA pH 7.5、HEPES pH 7.0 などを用いる。結晶化スクリーニングでは、沈殿剤の緩衝液を使って pH を変えるのでタンパク質溶液中の高い濃度は不可である。

腐敗防止にアジド(\(\ce{NaN3}\))は加えるなら0.02%〜0.1%くらい。ただし、これにはいろいろ意見がある。アジドの代わりに thymol あるいは Thimerosal を加えることがある。私はどれも加えません。

セレノメチオニン体の調製

大腸菌は普通の BL21(DE3) でよい。特にメチオニン要求株を使う必要はない。培地に Ile, Lys, Thr を倍量加えた SR 培地を用いて代謝を抑えることができる。MALDI-TOF-MS を使って、セレノメチオニンが入っていることを確認することを勧める。

バッファー交換と濃縮

遠心式の限外濾過膜を使うのが普通。例えばミリポア社の Amicon Ultra シリーズがある。濾過膜は再生セルロース製である。一方、GE ヘルスケア、現在はサイティバ(Cytiva)社の Vivaspin シリーズはポリエーテルスルホン(PES)製の濾過膜を使っている。著者が長年の研究生活で得た真理の一つに「タンパク質を扱う上で一番難しい作業は濃縮である」ことがある。吸着などの問題があるときには、異なる材質の濾過膜を使うのも一法であることを憶えておいて損はない。結晶化のための最後の作業として、エッペンドルフチューブタイプの膜を使うと最終体積を40 μL程度にまで濃縮できる。必ず、濾液をチェックして漏れがないかどうかを調べてから濾液を捨てること。使用前に限外濾過膜を水でよく洗うこと。保存用にグリセロールなどが含まれているからである。3Kカットオフだとバッファー交換にかなり時間がかかる。

イオン交換樹脂に吸着して濃縮することも一案。スピンカラムで脱塩を検討するのもグッド。濃度の測定は、1 μL 程度で UV 吸収が測定できる装置を使うと便利である。ナノドロップという商品名の装置がその代表である。購入前(値段のわりには使うとは思えない)と購入後(無いと生きていけない)の評価がここまで異なる機器は珍しい。

タンパク質溶液のフィルター濾過について

いろいろ意見あり。0.22 μm の遠心濾過フィルターを結晶化直前に行う。しかし、サンプルロスを考えると、遠心(あるいは超遠心)で済ます方が良い場合もある。結晶化スクリーニングのときは逆にゴミなどの微粒子は、結晶核を残す?意味で濾過しないことを推奨することもある。

保存

なるべくタンパク質濃度が高い状態で保存する(10〜50 mg/ml)。結晶化においては溶解度が高いタンパク質は高い濃度が必要という理屈で、できるだけ濃縮して保存タンパク質溶液とする。4℃で溶液のまま保存するか、少量に小分けして液体窒素で急速凍結して−80℃で保存する。融解するときに、氷上でゆっくり溶かす、あるいは37℃で急速に溶かすかのオプションあり。サブユニットがある場合は、凍結保存はあまりよくないかもしれない。保存のためにグリセロールをむやみに添加しないこと。グリセロールの残留が問題となる。

アグリゲーションの有無のチェック

Native PAGE、BN-PAGE(Blue Native)、IEF(等電点電気泳動)、NMR、ゲル濾過カラム、Dynamic light scattering(DLS)、電子顕微鏡負染色像観察などが考えられる。最初の結晶化スクリーニングで、べたっとした沈殿ばかりという場合は、面倒でもこうしたチェックが必要かもしれない。

沈殿剤の選択

手持ちのタンパク質量が少ないときは、中性 pH 付近で、グリッドスクリーンの PEG6000、\(\ce{(NH4)2SO4}\) を試す。余裕があるなら、加えて PEG/LiCl、MPD、NaCl を試す。低濃度から試し、沈殿がでたらそれ以上の濃度はやめる。次に pH を変える。結晶化温度はまず20℃を試す。

最近では結晶化セットアップロボットを使うと、一条件あたり、0.1 μL~0.2 μL の少量でスクリーニングを行うことができる。この場合は最初からスパースマトリックススクリーニングを行う。ハンプトン、キアゲン、シグマ、モレキュラーディメンジョン、その他の市販されているスパースマトリックススクリーニングキットを用いる。膜タンパク質用のキットもある。ただし、キットの名前が異なっていても、組成が同一であったり、似ていることもあるので、むやみにたくさんのキットを試しても無駄である

タンパク質の量が少ないからといって、タンパク質濃度を落としてより多くのスクリーニング条件を試すというのはまったく良くない戦略である。結晶化は溶解度と関係しているので、溶解度が許す限り高い濃度にした方がよい。たとえば、5 mg/ml では沈殿だけだが、20 mg/ml では結晶が出るなどということがある。標準としては 10 mg/ml とされている。タンパク質濃度として 80~100 mg/ml という例もある。

沈殿剤の種類

硫安 \(\ce{(NH4)2SO4}\) の代わりにマロン酸が有効なことがある。ハンプトンにキットがある。有機溶媒(organic solvent)で不揮発性のものでは MPD がポピュラーである。沈殿剤にはヒ素(カコジル酸緩衝液)や重金属イオンが入っているものがあるので捨てるときに注意が必要になる。最近はカコジル酸緩衝液を使っていないキットも販売されているのでお勧め。

マロン酸を使った結晶化について

特長として

  1. 塩の中では結晶化ヒット率が最も高い
  2. 硫安と置き換えられる
  3. 2M 以上の濃度の場合、クライオプロテクタントとして使える。

が挙げられている。

結晶化の温度

20℃が基本で、余裕があれば4℃を加える。中間をとって10℃がよいという意見もある。20℃より30℃がよいというサンプルも経験上あった。4℃で行う場合は、厳密には結晶化のセットアップから観察まですべて4℃で行うべきであるが、氷室での作業となるので、セットアップと観察は室温で行うことで代えてもよい。私はセットアップと観察は室温でしています。

マニュアルセットアップ

シッティングドロップの方がセットアップにかかる時間が少ないので初期スクリーニングに適している。ハンギングドロップ法はその後の最適化スクリーニングに用いる。

ハンギングドロップ法:グリース付きの24穴プレートを使うと便利である。カバーグラス(ガラス製あるいはプラスチック製)はキムワイプで拭いた後、ダスターでほこり(主にキムワイプの線維)を吹き飛ばす。ガラスの小さな破片もよく残るので注意する。タンパク質溶液 1 μL に沈殿剤を 1 μL 加えるのが基本である。沈殿剤の中にタンパク質溶液を加えるのは沈殿が出る可能性があるので推奨されていない。必ずタンパク質溶液を乗せてから、それに沈殿剤を加える。混ぜるのが普通であるが、混ぜない場合もある。混ぜる場合も、stir(コーヒー混ぜ)と mix(ピペットマンで吸ったり吐いたりする)がある。再現性を考えて統一性を持たせること。核形成が増えるので最初のスクリーニングでは混ぜるが、最適化では混ぜないこともある。

ウエルに沈殿剤を 400 μL ずつ入れる。それほど正確でなくてよい。タンパク質溶液 1 μL にウエルから 1 μL とって加える。この時点で体積は 2 μL になり、タンパク質と沈澱剤濃度はそれぞれ半分になる。液–液平衡に向けてドロップから水が蒸発して、ウエルの沈殿剤液に移動する。平衡には2週間程度かかる。最終的にはドロップ体積が 1 μL となり、タンパク質濃度と沈澱剤濃度が共に徐々に濃くなっていく。この過程の最中にタンパク質が沈殿あるいは結晶となる。

結晶化セットアップロボットによるセットアップ

HydraPlusOne, Mosquite, Gryphon などがある。結晶化セットアップのための時間や労力が減らせるメリットもあるが、それよりも、マニュアル操作に比べて少ない体積で結晶化を試せるので、より多くの結晶化条件を探索できるメリットの方が大きい。また、ドロップの体積が少ない分だけ早く平衡に達するので、時間短縮効果もある。

観察

顕微鏡をつかって40倍~100倍でセットアップ直後と毎日観察する。1週間後からは数日おきでよい。20℃では、マニュアルセットアップのハンギングドロップやシッティングドロップの場合、平衡に達するのに2週間くらいかかる。ロボットを用いた96穴プレートでは1週間程度である。低温ではさらに時間がかかる。焦点深度を変えて、プラスチック表面やガラス表面にも注目すること。

しばらくして、ほとんどのウエルで透明な溶液のままであるときは、タンパク質濃度が足りない。目安として、半分程度のウエルで沈殿が見られるようなタンパク質濃度が良いらしい。逆にほとんどのウエルで沈殿が見られるときは、タンパク質濃度が高すぎる。このときは、沈殿剤濃度を下げる(たとえば、沈殿剤をすべて半分に希釈するなど)を行う。先に書いたとおり、タンパク質濃度を下げてはいけません。

べたっとした沈殿、色がついた沈殿、網目状の沈殿などいろいろできる。ドロップ表面に膜が張って、しわしわになることもある。また、相分離と呼ばれる現象で、オイルと呼ばれる油滴ができることがある。もう少し、性質が良いと、つぶ沈(丸く光る、かなり大きくなる)や、つぶ沈が集まって透明なかたまりをつくることがある。クワジ結晶(準結晶, quasi-crystal)や球晶と呼ばれる「結晶もどき」ができることもある。余談ながら、相分離はとても見事に起こるので何か意味があるのでは当時思っていたが、液液相分離という物理現象が生物現象として重要性なことがわかってくると、「やっぱりね」と思う今日この頃である。

結晶かどうかを判断するときは、エッジがあるか、偏光があるかなどを見る。偏光なしで観察した方がわかりやすい場合がある。普通、結晶は透明に見えるのに対し、ゴミなどは光を通さずに暗く見える。特に初心観察者はガラスの破片やプラスチック基材の傷などを結晶と思いこむことが多い。天井の蛍光灯が映り込むことがある。粘調なドロップの場合は、液中にトラップされた泡が結晶に見えるので注意。とはいえ、慣れてくるとすぐに見分けがつくようになるのでご心配なく。

タンパク質の結晶の外観は、微結晶、“うに” みたいな針状結晶、薄い層状結晶、ロッド状、柱状結晶など多彩である。(警告)変幻自在な結晶の形を収集することが趣味になることが多い。

塩の結晶はエッジがあり、偏光もあるので、タンパク質結晶と間違いやすい。特にタンパク質溶液や沈殿剤にリン酸、カルシウムイオンなどが入っている場合は要注意である。結晶に再現性があるなら無駄になることを覚悟で、結晶をいくつか選んで針でつついて壊してみる。堅い手応えなら、塩である可能性が高い。また、青い色素が市販されている。これを加えてしばらくすると、タンパク質結晶はまわりに比べて青く染まるが、塩は逆に白く抜ける。しかし、経験上、含水率が低くて堅いタンパク質結晶や青く染まらないタンパク質結晶もたまにあるので、最終的には X 線を当ててみることで判断するしかない。少々値段は高いが、トリプトファンの蛍光をみる顕微鏡がある。タンパク質結晶は光るが塩の結晶は光らない。

結晶が沈殿のなかから出てくることはごく普通に見られる。これは初心者にはにわかには信じられない。結晶が成長するにしたがって、沈殿が目に見えて減っていくことがある。

結晶条件の最適化

pH を0.2刻みで ±0.8 程度ふる。PEG などの濃度を1%刻みで ±8% 程度ふる。

PEG の分子量を変える。100から20,000まである。数字が大きくなるにつれて PEG 濃度を少しずつ下げる。

PEG に低濃度の塩(\(\ce{NaCl}\)、\(\ce{LiCl}\)、\(\ce{(NH4)2SO4}\)、\(\ce{Li2SO4}\))を加える。

MPD から PEG400、あるいは PEG400 から MPD としてみる。

カチオンの種類を変えてみる。

バッファーの種類を変えてみる。

タンパク質濃度を変える(すべてクリアーなら上げる。沈殿が多いなら下げるとよいかもしれないが、他の要因かもしれない)。

サンプル体積を変える。タンパク質溶液と沈殿剤溶液の比率や体積を変えるのも有効である。タンパク質溶液と沈殿剤溶液:2 μL + 1 μL と 1 μL + 0.5 μL では比率は同じであるが、異なる混ぜ方であると考えるべき。

温度を変える。4~37℃

結晶化の方法を変える。ハンギング法とシッティング法は一見よく似ているが、結晶形成の条件が異なる。透析法、オイルバッチなど別の方法を試すのも価値がある。低分子の添加剤を試す。これは結晶がすでに出ているが、大きくしたいとか、3次元的に成長させたいときに、低分子物質を加える操作である。

シーディング

シーディングとは困難な核形成のステップをうまく回避するための技術である。なんらかの形で核を移植する。移植された核が溶けてしまわないで、成長していく条件をあらかじめ設定しておく必要がある。

マクロシーディング

小さな結晶を数個取り出して、新しくセットしたドロップへ移す。結晶が少し溶けて新しい表面が出てくることが重要。でも上手く行かないことが多いでしょう。

ミクロシーディング1

微結晶が出ているドロップには核(シード)が含まれている。

シードを含むドロップ 0.5 μL + そのウエル 4.5 μL(これで10分の1の濃度)そこから、3 μL + ウエル溶液 27 μL(これで100分の1)そこから、3 μL + ウエル溶液 27 μL(これで1000分の1)。タンパク質溶液 1 μL + 上記のシードを含む溶液 1 μL をドロップ(ここで沈殿剤濃度は半分になる。これでシードが溶けてしまうと困るが)に、ウエルには新しい沈澱剤溶液を入れて、次の結晶化ラウンドに入る。

ミクロシーディング2

結晶を針で壊す。その針で結晶が出なかったドロップをストリークする。ドロップは沈殿が出ているようなものは避けて、透明なものを選ぶ。新しくセットしたものだと溶けてしまうので、しばらく日数がたったものを使う。沈殿が出ているドロップでは単に沈殿してしまう。

分解能がより高い結晶をつくる

添加剤(Additive)を検討する。dioxane, DMSO, PEG200, ethanol, DMF, ter-butanol 0.1~2% v/v などの低分子をドロップに加える。何でもありである。ハンプトンなどから添加剤のキットがでている。

添加剤としてNDSB(総称)を使うときは、ストック溶液は加熱して溶かすこと。超音波処理では透明でもアグリゲーションをつくっている。

添加剤(additive)はタンパク質試料に加えるが、そのときウエル溶液にも加えるべきか否かの問題がある。蒸気圧の変化を引き起こすものはウエル溶液にも加えないと、体積が 1 + 1 μL から 1 μL にもどらす、逆に増えることがある。例えば、グリセロールはウエル溶液にも加えるべき。塩は少量ならウエル溶液には入れなくてもよい。しかし、要は条件を再現できれば、それほど厳密に考えなくてもよい。

もう一つの方法として、2つの沈殿剤をミックスする方法がある。まず、最初のスクリーニングで沈殿を生じた溶液条件では、なんらかの形で溶解度を変えたためであると考えられる。そこで、これらを選んで、最適化したいと考えている条件に10%程度加えて再スクリーニングを行う。

核酸結合タンパク質では、スペルミジンなど、核酸に結合する低分子が有効かもしれない。また、主鎖リン酸基をミミックする意味で、リン酸緩衝液が良いことがある。硫酸イオンにも同様な効果がある。

一般的にはゆっくりと結晶を成長させた方がよいと考えられる。例えば結晶がでた条件 PEG16% とする。ハンギングドロップ法やシッティングドロップ法で等量ずつ混ぜた場合、最初の PEG 濃度は8%である。そこで、ドロップをつくる場合は PEG16% を使うが、ウエルにはより低い PEG 濃度である8%~16%の PEG を入れると、ゆっくりと結晶成長が進行して、良質の結晶が期待できる。PEG8% の場合はバッチ法に近くなる。

脱水(dehydration)

結晶の含水量が高い結晶に有効である。結晶中の溶媒水が吸い出されて結晶が締まることで分解能が上がると考えられる。結晶化条件に比べ沈殿剤濃度が高い溶液にループを使って結晶を移し、数秒から数分そのまま置いてから凍結する。結晶を含むドロップを空気にさらしてしばらく置いて乾かすこと(air-dry)が効くこともある。初心者がもたもたやった方が分解能の高い回折データが得られることがあるのはこのためである。まさにビギナーズラック(lack)である!結晶化プレートを長く放置しておくと密閉が不十分なために脱水が自然に起こるケースも考えられる。

脱水をコントロールして行うには、沈殿剤の濃度を高めたウエル溶液を入れたウエルに結晶が含まれたドロップをスライドガラスごと移して、数時間~数日待つことを行う。

結晶は脱水操作でひびが入ったりすることがしばしばあるが構わない。分解能だけではなく、スポットが伸びた形(モザイシティ)が解消される効果も期待できる。結晶がぼろぼろ崩れて、中心部分の芯が良いという場合もあった。

アニーリング(annealing)

回折計にマウントしたまま低温窒素ガスを数秒遮って、また当てる操作をアニーリングと呼ぶ。一瞬溶けてまた凍る。試すのは簡単であるが、それほど成功率は高くないと思う。

マウントからはずして室温に戻して完全に溶かしたあとに、クライオソルベントのドロップへ結晶を戻して、しばらく待ってからまたマウントする。これは結構うまくいくことが多い。

ドロップからの結晶の取り出し方法

顕微鏡で見ながらクライオループですくい取る。結晶の大きさよりやや大きいループを選ぶ。大きすぎるループは結晶を拾いにくいし、不要な沈殿剤溶液が周囲に残って、散乱によるバックグランドを上げてしまう。操作としては、まず結晶を液面近くまで浮かび上がらせる。表面近くにきたら、ループを下にあてがって、ループ面に対し平行に引き抜く。金魚すくいのように結晶をくぐらせてはいけない。名人になると、ループに結晶が触れないように配慮しながら拾うことができるらしい。普通人にはそんな余裕はないけど。

結晶を引き上げたら、脱水を考えなければ15秒以内に凍結させる。乾燥すると塩が析出したりして、結晶が壊れて回折能が低下する。

クライオ条件

結晶を凍結させる際に、周囲にある溶液は非結晶状態(アモルファス状態)で凍らせなければならない。その理由は水をそのまま普通に凍らせると体積が増えるために、その圧力で結晶が破壊されるのを避けるためである。アモルファス氷をつくるために、クライオプロテクタントと呼ばれる低分子化合物を混ぜてかつ急速凍結する。クライオプロテクタントとしてグリセロールやエチレングリコールを用いる場合、目安として22.5%ぐらいまでを加えて、アモルファス氷になるようにする。この数字は目安であって、20%では足りず、25%は多すぎるという経験から来ている。

PEG と MPD は沈殿剤であると同時にそのままクライオプロテクタントでもある。この場合、PEG や MPD の濃度がある程度あれば、そのまま、凍結させることができる。また、足りなければ補って濃度を増やせばよい。低濃度の塩はクライオプロテクタントとしては働かないが、高濃度の塩がクライオプロテクタントになる場合がある(“Cryosalts: suppression of ice formation in macromolecuar crystallography.”, Acta Crystallogr. D Biol. Crystallogr., 2000 Aug;56(Pt 8):996-1001)。

結晶をつくったウエル溶液に、単純にクライオプロテクタントを加えると沈殿剤濃度が低下してしまう。しかし、結晶をクライオプロテクタント溶液につける短い時間(1分以下)の間に結晶が溶けなければよいので、これで事足りる場合が多い。丁寧にやるときは、ウエル溶液の水が一部クライオプロテクタントに置き換わった組成のクライオプロテクタント溶液を別につくる。

結晶をクライオプロテクタント入りの溶液にくぐらす操作を行うときにクライオプロテクタントが希釈される。そこで、その分を考えてクライオプロテクタント溶液のクライオプロテクタントの濃度を多少上げておくほうが良い。

クライオプロテクタントの濃度を一気に上げる方法が普通であるが、他に、段階的に少しずつクライオプロテクタントの濃度を上げていく方法がある。結晶によってはどちらかの方法を使うことが必須な場合がある。

(例)段階的に上げる方法。結晶を含むドロップ(たとえば 2 μL)に 10 μL のウエル液を加えて体積を増やす。ここにクライオプロテクタント溶液をピペットマンで 5 μL 加えて、しばらく待ったあとに 5 μL 取り去る。これを3~4回繰り返して、徐々にクライオプロテクタントの濃度を上げていく。関係する溶液をすべて同じスライドガラス板上に配置しておくことで、すばやく操作を行うことができる。

正攻法としては、始めからクライオプロテクタントを含む沈殿剤溶液で結晶化を行う。こうするとハンドリング操作が結晶に与えるダメージを最小にすることができる。もちろん、結晶が出なくなることもある。

クライオプロテクタントを入れる代わりに結晶の周囲の母液をオイルで置換する方法もある。perfluoropolyether oil PFO-X125/03(Lancaster Synthesis、和光)がある。

凍結操作

結晶をクライオプロテクタント溶液ドロップにループでいったん移して、そこから再度拾ってマウントする。アモルファス状態になったかどうかは X 線を照射してチェックする。慣れると X 線を当てなくても外見で凍ったかどうかわかる。凍ってしまった場合は、アモルファス氷になる必要最小限のクライオプロテクタント濃度を決める。

結晶はあまりにおおきいと凍結の際に歪むので、あまり大きくない方がよい。大きさとして一辺が 100 μm くらい以下が適当である。この操作で歪んでモザイシティが大きくなったりするので回折実験でチェックすべきである。

液体窒素に結晶を入れる場合は、液体窒素が気化して窒素ガスの層をつくり、急激な温度低下を阻害する。窒素ガス層を剥がすために、結晶ループにつけたロッド(棒)を動かして、混ぜるような動作をすることが有効とされている。これに対して、100 K 程度の低温の窒素ガス気流中で凍らせる場合はこの心配がない。

クライオ電子顕微鏡単粒子解析では、電顕グリッドの微細な穴に張ったタンパク質溶液を液体エタンに投下して急速凍結する。液体エタンは液体窒素の中に浮かべた容器の中に、エタンガスを直接吹き付けて簡単に作ることができる。エタンを使う理由は融点と沸点との差が約80℃あり、液体として存在する温度幅が広いために高温の物体に接触してもすぐに気化することがなく、ガス層を作らないので冷却能に優れている。これを利用できないか?と考えるのは自然である。事実、過去に、X 線結晶解析でも液体エタンや液体プロパンが使われたことがあるようだが普及しなかった。操作が煩雑になる割にはメリットがなかったのだろう。

雑多な結晶化の Tips

pH は等電点付近が良い場合が多いとある。しかし、統計には根拠がないとの指摘もあり。

バッファーとしてリン酸塩は避ける。無機塩結晶を生じやすい。しかし、リン酸塩でないとだめな場合もある。

たくさん微結晶が出来てしまう場合に、多数の核形成を抑えるため、プレートごとゆっくりと振とうすると良い場合がある。

塩濃度が高いときはタンパク質の溶解度が温度の高い方が下がり、PEG のときは逆に、タンパク質の溶解度が温度の低い方が下がる傾向あり。

有機溶媒を沈殿剤として使うときは、低温(4℃)でなるべく低イオン強度で行う。

結晶の twinning を減らすには、dioxane(0.5~2%)や glycerol を加える。glycerol は疎水相互作用を抑える効果ある。PEG が沈殿剤なら PEG の分子量や製造元を変えるという手もある。

セレノメチオニンを入れたタンパク質では疎水性が上がって、ワイルド体に比べて溶解度が下がることが多い。通常は、結晶化条件が共通あるいは、わずかな結晶化条件の調整で結晶化が可能なことが多いが、結晶化やクライオ条件が変わる可能性が常にある。心構えとして、別の蛋白質と考えて条件検討をするぐらいの気持ちが良い。

膜タンパク質の結晶化

アグリゲーションの有無のチェックは動的光散乱(DLS)よりも電子顕微鏡観察負染色観察の方がよい。超遠心をすることでアグリゲーションを事前に除くことが重要。αへリックスタイプとβバレルタイプでは考え方が異なる。αへリックス同士の膜中での相互作用はゆるく相対配置がきっちり決まっていない。αへリックスの間に脂質あるいは界面活性剤分子が入り込んでいることが多い。リガンドが結合すると、相対配置がきっちり決まって結晶解析ができる(例、ロドプシン)。βバレルタイプは一般に安定である。

添加剤として分子の大きさが界面活性剤よりやや小さい両親媒性の有機化合物を加えて隙間を埋めることがある。また、膜由来の脂質が残って隙間を埋めるパッキンとして働くことが多い。PEG400 はクライオプロテクタントとしても働くので便利である。

例)両親媒性の有機化合物の例は 1,2,3-ヘプタントリオール

この場合、スクリーニングは
(基本96条件)×(第1界面活性剤)×(添加剤としての界面活性剤)になる

界面活性剤の選択

非イオン、または両イオン性であること、濃度は CMC より多少高い濃度とする。加えすぎると界面活性剤の変性効果が出てしまう。界面活性剤には化学的には混合物のものがある。たとえば Triton や Brij など。これらは結晶化には適さない(はずである)。最初の細胞膜破砕、精製、結晶化と分けて考える。最初はとにかく膜タンパク質が安定な界面活性剤を選ぶ。普通は CMC が低く、ミセルサイズの大きなものを選ぶ。また、安価なものを選択する方がよい。結晶化では第2の界面活性剤に変えて、ミセルサイズを調節することがある。CMC が高く、ミセルサイズの小さいものを選ぶ。CMC が高いので必然的に濃度が高くなり、第1の界面活性剤を追い出すことになる。もちろん、単一の界面活性剤で問題なければ、2つ以上の界面活性剤を使い分ける必要はない。その理由は、ゲル濾過や限外濾過膜を使った界面活性剤の置換は簡単には達成できないことが一つである。多くの界面活性剤では濃度決定が困難なことがさらに状況を難しくしている。

実験室回折計では大きな結晶の方が一見分解能が高く見えることが多い。しかし、実際は放射光にもっていくと低分解能であることが多い。スクリーニングでは小さな結晶を用いるべきである。小さい方が凍り方が均一になる。ビームが細くバックグラウンドが低い X 線ビームラインを使わなくてはならない。ある結晶化条件のまわりでサーチするが、1つの条件で複数(5個ぐらい)を試す必要がある。誤差の大きい状態で平均的にどの条件がよいかを探すという難しい判断になる。このサーチを数回繰り返すうちに高分解能(<3.5 Å)に到達することになる。(岩田想先生談)

膜内部分の同士の相互作用は特異性が低く、結晶化のドライビングフォースにならない。膜外部分同士の相互作用が鍵となる。そこで、膜外部分が大きいタンパク質はうまくいきやすい。逆に膜外部分が小さい場合は、クリスタルコンタクトを増やすために、抗体や結合タンパク質を結合させる方法がよい。結晶化条件はもちろん変わる。融合タンパク質は普通リンカーがフレキシブルなので有効ではない。沈殿剤は過去の例にならってみると PEG がよい。

脂質キュービックフェーズ(LCP)法あるいは脂質メソフェーズ法を利用した膜タンパク質の結晶化は、当初、鳴り物入りで登場したが、しばらくはバクテリオロドプシンにしか使えないのでは?といった風評だった。しかし、最近はルーチン的に汎用されている。モノオレイオンを使って脂質キュービック相を作った場合、膜タンパク質として膜外ドメインが割合小さいことが必要とされてきたが、7.7MAG と呼ばれるモノオレインの類似体を使うと、この制約を緩めることができる。LCP 法と特に相性がよいと思われるのは、基質が脂質や糖脂質であって、膜タンパク質との複合体を結晶化したい場合である。あらかじめ、モノオレイオン/7.7MAG と脂質基質を混ぜて LCP を作っておき、これにタンパク質溶液を混ぜ合わせる。脂質基質は水に溶けないことが多いが、モノオレイオン/7.7MAG 混合することで溶液状態とすることができる。

脂質キュービックフェーズ(LCP)法あるいは脂質メソフェーズ法で作った膜タンパク質の結晶は微結晶(microcrystal)となることが多い。色が着いていない場合、LCP の中に埋まった微結晶を視認することすら難しいことも多い。そこで、多数の微結晶をザクッとループにすくって、微結晶専用のマイクロフォーカスビームライン(たとえば SPring-8 BL32XU)を使って、多数の結晶から multiple small wedge 法を使って回折データを集め、それらをマージして、結晶解析に使うことができる。

まとめ

最後まで読んでいただきありがとうございます。実験プロトコルとしてまとめるには小ネタすぎる実験 Tips を、思いのまま書き連ねる作業は結構楽しいです。皆さんこのような小ネタを持っているはずです。引退する教員が研究室内で伝えてきたノウハウを “遺言として” 広く公開することにはそれなりの意義があるように思います。一方、このような中途半端な文章を誰が読むのか?と思われるかもしれません。でも、すぐには役に立たなくても、先人の苦労を偲ぶことで、皆さんの今日からのやる気につながることもあると信じております。論文の Methods をいちいち読むのも大変だしね。

改訂履歴

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2020-12-02
  • 「所属」を一部変更
  • 「膜タンパク質の結晶化」において段落順を変更
  • 「まとめ」を新たに追記
  • その他、全体に渡って、語彙・文章を適宜修正・追記
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