タンパク質の結晶作成についての私見

九州大学生体防御医学研究所ワクチン開発構造生物学

  • 邦文引用神田大輔, 蛋白質科学会アーカイブ, 1, e025 (2008)
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はじめに

本概要はタンパク質結晶初心者である執筆者の5年間の勉強、経験、そして多数の人からのアドバイスをまとめたものである。タンパク質の結晶化はその一部が未だにアートの領域にあるために、多数の異なる見解や隠れた職人芸的技術があると思われる。さらに、タンパク質に備わる個性が事態をさらに複雑にしている。初心者は、沈殿ばかりであったとき、あるいは微結晶が決して大きくならないときに、次に何をなすべきかわからず途方にくれてしまう。そんなときに、経験者の一言が大いに役に立つ。以下がその代わりを果たすことを期待する。

ただし、多くの場合、経験者のアドバイスは、その人自身の経験を超えるものではないので、文章としてまとめると、「…かもしれない」「…という可能性がある」「例外として…」などメリハリに欠けたものになってしまうおそれがある。そこで、敢えて断定的に書いてある部分も多い。したがって、以下はあくまで私見として読んでいただきたい。

結晶化理論

タンパク質の結晶化は核形成と核からの成長の2つの過程に分けて考えることができる。核形成条件はいまだ試行錯誤して見つける必要があるが、成長の最適化は理論的に攻めることができる。

結晶化理論2

「勝てば官軍」結晶化の理論や屁理屈は人の数だけあるが、結晶が出れば勝ちである。結晶化スクリーニングでは、9回裏ツーアウト逆転満塁ホームランが起こりうる。己を信じて日々努力することが肝要である。

「感性を磨け」しかし、結晶化名人がいるのは確かである。長年の経験と勘から、沈殿の見た目の善し悪しや、複数の溶液条件の共通性から、次になすべき実験を的確に立案できる。しかし、これは普通の実験となにも変わることはない。観察力と記憶力があればだれでも名人になりうる。これに対し、ひたすらスクリーニングキットの種類を増やして、沈殿を作り続けるのは感心しない。

「タンパク質の結晶化条件は必ず複数ある」ある条件で結晶が出ても、他の条件のサーチを止めてはいけない。現在の条件は最終的な構造に至ることがないかもしれない。たとえ構造解析ができたとしても、他の条件で出た結晶の構造が無駄になることはない。もしも結晶が出る条件が非常に狭く限定されたものであるならば、世の中にこれだけたくさんの結晶構造が溢れることは無い。この事実を己のタンパク質を信じて進む糧にせよ。

「一期一会かも」とはいえ、結晶析出の再現性に乏しいこともある。1個しか大きくならず、それを使って全データを取るということもよくある。当然、また時間をかけて努力すれば再現できるはずであるが、この世の中、一つだけの対象にいつまでも固執しているわけにはいかない。出た結晶は大事にしよう。

「見た目で信じてはいけない」外見が美しいと良い結晶だと思うのは、世の常である。しかし、すばらしく大きくて、エッジがきれいな結晶が惨めな回折データを与えるのに、みすぼらしい外観の小さな結晶が構造決定可能なデータを与えることも珍しくない。つまり、マクロなレベルでのきれいさと、オングストロームレベルでの整列は基本的には無関係である。外見と中身が必ずしも一致しないのは人間と同じかもしれない。ただし、なにがしかの相関はあると思われる。結晶化条件の最適化において、すべての結晶(もどき)にX線をあててみることは理想的であるが実際的でない。エッジがきれいな美しい結晶を目指すことは、ひとつの方針としてあり得る。

「誰が偉い?」どのタンパク質をターゲットにするかを決定する。タンパク質をたくさん作る。結晶をつくる。回折測定をする。位相を決定する。構造論文を書く。以上のための研究費を獲得するなど、多数の人が1つの構造決定に関わる。少し前までは、結晶をつくったり、位相を決めたりする人が専門技術ということで偉かったかもしれない。しかし、昨今の技術革新はその地位を危うくしている。現在では、結晶作成と構造決定は多少アートの要素を残した実験技術になっている。将来、1分子X線構造解析技術などが実現でもすれば結晶化技術は過去の遺物となる。タンパク質は機能をもっているが故に皆が興味をもっているのだから、構造から機能に結びつく発見ができる人が一番偉い(はずだ)。

タンパク質の調製

タンパク質の純度が最も重要である。大まかな目安としては、「SDS電気泳動でCBB染色したときに単一バンド」とするか、「純度99%以上」といえる。動的光散乱(Dynamic Light Scattering)測定などをして、タンパク質が単分散状態すなわちアグリゲーションをつくっていないことを確認しておくことも有効である。しかし、SDS電気泳動などで単一のバンドを与える場合であっても、イオン交換クロマトグラフィーで複数のピークを与える場合は、電荷が異なることを意味するので、それぞれを異なる標品として扱う。もったいないからといって、複数のピークを合わせたり、裾に肩が見られるのにそれを含めてしまうことは避ける。たとえば、複数のピークのうち、1つだけが結晶を与える場合がある。

アフィニティタグとの融合タンパク質として発現することが多い。この場合、融合タンパク質を結晶化するアイディアはうまくいかないことが多い。なぜなら、融合タンパク質と目的タンパク質はフレキシブルなリンカーを介してつながっているので、この運動性が結晶化を阻害する。ヒスタグは小さいのでそのまま残しておいても問題ないことが多いが、お作法として除去するのが普通である。アフィニティタグの除去はプロテアーゼを用いて行う。除去後に残るリンカー由来配列は数残基程度と短かくなるようにあらかじめ設計しておく。インクルージョンボディになって巻き戻しをしたり、丈夫なために熱処理で精製ができる場合は、アフィニティタグをつけずにダイレクト発現にする方が、タグの除去のステップを省略できるのでよい。N末端のメチオニンが残らないように、2番目のアミノ酸は側鎖が小さなアミノ酸を選ぶと良い。

精製は、アフィニティ精製、イオン交換カラム、ゲル濾過の順番にするのが理にかなっている。最後のゲル濾過は夾雑物である低分子を除く役割も持っている。

凍結乾燥はなるべく避けたいが、凍結乾燥した場合は十分に透析する。精製段階の最終ステップ近くでは硫安沈殿を避ける。(NH4)2SO4の残留があり再現性がなくなる。ただし、核酸に結合するタンパク質では硫酸イオンがリン酸基結合サイトに入って結晶化がうまくいく場合がある。

最終的な精製タンパク質溶液には不必要なものが入っていないこと。単に前例を踏襲して、たとえばEDTAが意味無く入っているような事態を避けなければならない。タンパク質の安定化や溶解性に本当に必要なものがあれば、それを必要最少濃度入れること。DTT、塩、基質、グリセロールなど。水で透析する人もいる。

タンパク質試料が古くなると結晶が出るケースでは、不要なβメルカプトエタノールが添加されている可能性があり、時間がたつとβメルカプトエタノールが酸化あるいは揮発してSH基がなくなったためと考えられる。

SH基保護試薬として、DTT、βメルカプトエタノール、TCEP-HCl(Tris(2-caroboxyethyl)-phosphine hydrochloride)がある。βメルカプトエタノールは揮発性だが、あとの2つの不揮発性である。TCEP中性がPIERCEから出ている(フナコシ、PCC23-0777-20)

pHを調節するための緩衝液は10mM 程度の濃度の薄い緩衝液、Tris pH8.0、 TEA pH7.5、 HEPES pH7.0などを用いる。結晶化スクリーニングでは、沈殿剤の緩衝液を使ってpHを変えるのでタンパク質溶液中の高い濃度は不可である。

腐敗防止にアジド(NaN3)は加えるなら0.02%~0.1%ぐらい。ただし、これにはいろいろ意見がある。アジドの代わりにthymolあるいはThimerosalを加えることがある。私は加えません。

セレノメチオニン体の調製

大腸菌は普通のBL21(DE3)でよい。特にメチオニン要求株を使う必要はない。培地にIle, Lys, Thrを倍量加えたSR培地を用いて代謝を抑えることができる。MALDI-TOF-MSを使って、セレノメチオニンが入っていることを確認する。

バッファー交換と濃縮

限外濾過膜を使うのが普通。例えばミリポア社のAmicon Ultraシリーズがある。最後はエッペンドルフタイプの膜を使うと、最終体積が40μL程度まで濃縮できる。必ず、濾液をチェックして漏れがないかどうかを調べる。使用前に限外濾過膜を水でよく洗うこと。保存用にグリセロールなどが含まれているからである。3Kカットオフだとバッファー交換にかなり時間がかかる。イオン交換樹脂に吸着して濃縮することも一案。スピンカラムで脱塩を検討するのもグッド。濃度の測定は、1μL程度でUV吸収が測定できる装置を使うと便利である。ナノドロップという商品名の装置がその代表である。購入前(値段のわりには使うとは思えない)と購入後(無いと生きていけない)の評価がここまで異なる機器は珍しい。

タンパク質溶液のフィルター濾過について

いろいろ意見あり。0.22μmの遠心濾過フィルターを結晶化直前に行う。しかし、サンプルロスを考えると、遠心(あるいは超遠心)で済ます方が良い場合もある。結晶化スクリーニングのときは逆にゴミなどの微粒子は、結晶核を残す?意味で濾過しないことを推奨することもある。

保存

なるべくタンパク質濃度が高い状態で保存する(10mg/ml~50mg/ml)。結晶化においては溶解度が高いタンパク質は高い濃度が必要という理屈で、できるだけ濃縮して保存タンパク質溶液とする。4℃で溶液のまま保存するか、少量に小分けして液体窒素で急速凍結して-80℃で保存する。融解するときに、氷上でゆっくり溶かす、あるいは37℃で急速に溶かすかのオプションあり。サブユニットがある場合は、凍結保存はあまりよくないかもしれない。保存などのためにグリセロールをむやみに添加しない。グリセロールの残留が問題となる。

アグリゲーションの有無のチェック

Native PAGE、BN-PAGE (Blue Native)、IEF(等電点電気泳動)、NMR、ゲル濾過カラム、Dynamic light scattering (DLS)、電子顕微鏡負染色像観察などが考えられる。最初の結晶化スクリーニングで、べたっとした沈殿ばかりという場合は、面倒でもこうしたチェックが必要かもしれない。

沈殿剤の選択

手持ちのタンパク質量が少ないときは、中性pH付近で、グリッドスクリーンのPEG6000、(NH4)2SO4を試す。余裕があるなら、加えてPEG/LiCl、MPD、NaClを試す。低濃度から試し、沈殿がでたらそれ以上の濃度はやめる。次にpHを変える。結晶化温度は20℃を試す。

最近では結晶化セットアップロボットを使うと、一条件あたり、0.1μL~0.2μLの少量でスクリーニングを行うことができる。結晶化チップ(TOPAZ、フリューダム社)を使うと一条件あたり、0.02μLでスクリーニングできる。これらの場合は最初からスパースマトリックススクリーニングを行う。「手持ちのタンパク質量が多いとき」を参照。

タンパク質の量が少ないからといって、タンパク質濃度を落としてより多くのスクリーニング条件を試すというのは良くない戦略である。結晶化は溶解度と関係しているので、溶解度が許す限り高い濃度にした方がよい。たとえば、5mg/mlでは沈殿だけだが、20mg/mlでは結晶が出るなどということがある。標準としては10mg/mlとされている。結晶化チップ(TOPAZ)では、原理的に希釈が起こるので、濃度は高めに15mg/mlを標準とする。タンパク質濃度として、80~100mg/mlという例もしばしばある。

手持ちのタンパク質量が多いときは、ハンプトン、キアゲン、シグマ、その他の市販されているスパースマトリックススクリーニングキットを用いる。膜タンパク質用のキットもある。ただし、キットの名前が異なっていても、組成が同一であったり、似ていることもあるので、むやみにたくさんのキットを試しても無駄である。

沈殿剤の種類

硫安(NH4)2SO4 の代わりにマロン酸が有効なことがある。ハンプトンにキットがある。有機溶媒(organic solvent)で不揮発性のものではMPDがポピュラーである。沈殿剤にはヒ素(カコジル酸緩衝液)や重金属イオンが入っているものがあるので捨てるときに注意が必要である。

マロン酸を使った結晶化について

特長として

  1. 塩の中では結晶化ヒット率が最も高い
  2. 硫安と置き換えられる
  3. 2M以上の濃度の場合、クライオプロテクタントとして使える

が挙げられている。

結晶化の温度

20℃が基本で、余裕があれば4℃を加える。10℃がよいという意見もある。20℃より30℃がよいというサンプルも経験上あった。4℃で行う場合は、厳密には結晶化のセットアップから観察まですべて4℃で行うべきであるが、氷室での作業となるので、セットアップと観察は室温で行うことで代えてもよい。

マニュアルセットアップ

シッティングドロップの方がセットアップにかかる時間が少ないので初期スクリーニングに適している。ハンギングドロップ法はその後の最適化スクリーニングに用いる。

ハンギングドロップ法:グリース付きの24穴プレートを使うと便利である。カバーグラス(ガラス製あるいはプラスチック製)はキムワイプで拭いた後、ダスターでほこり(主にキムワイプの線維)を吹き飛ばす。ガラスの小さな破片もよく残るので注意する。タンパク質溶液1μLに沈殿剤を1μL加えるのが基本である。沈殿剤の中にタンパク質溶液を加えるのは沈殿が出る可能性があるので推奨されていない。必ずタンパク質溶液を乗せてから、それに沈殿剤を加える。混ぜるのが普通であるが、混ぜない場合もある。混ぜる場合も、stir(コーヒー混ぜ)とmix(ピペットマンで吸ったり吐いたりする)がある。再現性を考えて統一性を持たせること。核形成が増えるので最初のスクリーニングでは混ぜるが最適化では混ぜないこともある。

ウエルに沈殿剤を400μLずつ入れる。それほど正確でなくてよい。タンパク質溶液1μLにウエルから1μLとって加える。この時点で体積は2μLになり、タンパク質と沈澱剤濃度はそれぞれ半分になる。液-液平衡に向けて、ドロップから水が蒸発して、ウエルの沈殿剤液に移動する。平衡には2週間程度かかる。最終的にはドロップ体積が1μLとなり、タンパク質濃度と沈澱剤濃度がもとに戻ることになる。この過程の間にタンパク質が沈殿あるいは結晶となる。

結晶化セットアップロボットによるセットアップ

HydraPlusOne, Mosquite, Phenixなどがある。結晶化セットアップのための時間や労力が減らせるメリットもあるが、それよりも、マニュアルに比べて少ない体積で結晶化を試せるので、より多くの結晶化条件を探索できるメリットの方が大きい。また、ドロップの体積が少ない分だけ早く平衡に達するので、時間短縮効果もある。

観察

顕微鏡をつかって40倍~100倍でセットアップ直後と毎日観察する。1週間後からは数日おきでよい。20℃では、マニュアルセットアップのハンギングドロップやシッティングドロップの場合、平衡に達するのに2週間くらいかかる。ロボットを用いた96穴プレートやTOPAZ結晶化チップでは1週間程度である。低温ではさらに時間がかかる。焦点深度を変えて、プラスチック表面やガラス表面にも注目すること。

しばらくして、ほとんどのウエルで透明な溶液のままであるときは、タンパク質濃度が足りない。逆にほとんどのウエルで沈殿が見られるときは、タンパク質濃度が高すぎる。このときは、タンパク質濃度を落とす以外に、沈殿剤濃度を下げる(たとえば、沈殿剤をすべて半分に希釈するなど)を行う。目安として、半分程度のウエルで沈殿が見られるようなタンパク質濃度が良い。

べたっとした沈殿、色がついた沈殿、網目状の沈殿などいろいろできる。ドロップ表面に膜が張って、しわしわになることもある。また、相分離と呼ばれる現象で、オイルと呼ばれる油滴ができることがある。もう少し、性質が良いと、つぶ沈(丸く光る、かなり大きくなる)や、つぶ沈が集まって、かたまりをつくることある。クワジ結晶(準結晶, quasi-crystal)や球晶と呼ばれる「結晶もどき」ができることもある。

結晶かどうかを見るときは、エッジがあるか、偏光があるかなどを見る。偏光なしで観察した方がわかりやすい場合がある。普通、結晶は透明に見えるのに対し、ゴミなどは光を通さずに暗く見える。特に初心観察者はガラスの破片やプラスチック基材の傷などを結晶と思いこむことが多いが、慣れてくるとすぐに見分けがつくようになる。

タンパク質の結晶の外観は、微結晶、“うに”みたいな針状結晶、薄い層状結晶、ロッド状、柱状結晶など多彩である。

塩の結晶はエッジがあり、偏光もあるので、タンパク質結晶と間違いやすい。特にタンパク質溶液や沈殿剤にリン酸、カルシウムイオンなどが入っている場合は要注意である。再現性があるなら、結晶をいくつか選んで、針でつついて壊してみる。堅い手応えなら、塩である可能性が高い。また、青い色素が市販されている。これを加えてしばらくすると、タンパク質結晶はまわりに比べて青く染まるが、塩は逆に白く抜ける。しかし、経験上、含水率が低くて堅いタンパク質結晶や青く染まらないタンパク質結晶もたまにあるので、最終的にはX線を当ててみることで判断する。

結晶が沈殿のなかから出てくることは普通に見られる。これは初心者にはにわかには信じられない。結晶が成長するにしたがって、沈殿が目に見えて減っていくことがある。

結晶条件の最適化

pHを0.2刻みで±0.8程度ふる。PEGなどの濃度を1%刻みで±8%程度ふる。

PEGの分子量を変える。100から20,000まである。数字が大きくなるにつれてPEG濃度を少しずつ下げる。

PEGに低濃度の塩(NaCl、LiCl、(NH4)2SO4、Li2SO4)を加える。

MPDからPEG400、あるいはPEG400からMPDとしてみる。

カチオンの種類を変えてみる。

バッファーの種類を変えてみる。

タンパク質濃度を変える。(すべてクリアーなら上げる。沈殿が多いなら下げるとよいかもしれないが、他の要因かもしれない。)

サンプル体積を変える。タンパク質溶液と沈殿剤溶液の比率や体積を変えるのも有効である。タンパク質溶液と沈殿剤溶液:2μL+1μLと1μL+0.5μLでは比率は同じであるが、異なる混ぜ方であると考えるべきである。

温度を変える。4~37℃

結晶化方法をかえる。ハンギングとシッティングは一見よく似ているが、結晶形成の条件が異なる。透析法、オイルバッチなど別の方法を試すのも価値がある。

添加剤を試す。 これは結晶がすでに出ているが、大きくしたいとか、3次元的に成長させたいときに、低分子物質を加える操作である。

シーディング

シーディングとは困難な核形成のステップをうまく回避するための技術である。なんらかの形で核を移植する。移植された核が溶けてしまわないで、成長していく条件をあらかじめ設定しておく必要がある。

マクロシーディング

小さな結晶を数個取り出して、新しくセットしたドロップへ移す。結晶が少し溶けて新しい表面が出てくることが重要。

ミクロシーディング1

微結晶が出ているドロップには核(シード)が含まれている。

シードを含むドロップ0.5μL + そのウエル4.5μL (これで10分の1)
そこから、3μL + ウエル溶液27μL (これで100分の1)
そこから、3μL + ウエル溶液27μL (これで1000分の1)
タンパク質溶液1μL + 上記のシードを含む溶液1μL ウエルは新しい沈澱剤溶液
(ここで沈殿剤濃度は半分になる。これでシードが溶けてしまうと困るが)

ミクロシーディング2

結晶を針で壊す。その針で結晶が出なかったドロップをストリークする。ドロップは沈殿が出ているようなものは避けて、透明なものを選ぶ。 (新しくセットしたものだと溶けてしまうので、しばらく日数がたったものを使う。沈殿が出ているドロップでは沈殿してしまう)

分解能がより高い結晶をつくる

添加剤(Additives)を検討する。dioxane, DMSO, PEG200, ethanol, DMF, ter-butanol 0.1~2% v/vなどの低分子をドロップに加える。ハンプトンなどから添加剤のキットがでている。

添加剤としてNDSB(総称)を使うときは、ストック溶液は加熱して溶かすこと。(超音波処理では透明でもアグリゲーションをつくっている)

添加剤(additive)はタンパク質試料に加えるが、そのときウエル溶液にも加えるべきか否かの問題がある。蒸気圧の変化を引き起こすものはウエル溶液にも加えないと、体積が1μLにもどらす、逆に増えることがある。例えば、グリセロールはウエル溶液にも加えるべき。塩は少量ならウエル溶液には入れなくてもよい。しかし、要は条件を再現できれば、それほど厳密に考えなくてもよい。

もう一つの方法として、2つの沈殿剤をミックスする方法がある。まず、最初のスクリーニングで沈殿を生じた溶液条件では、なんらかの形で溶解度を変えたためであると考えられる。そこで、これらを選んで、最適化したいと考えている条件に10%程度加えて、再スクリーニングを行う。

核酸結合タンパク質では、スペルミジンなど、核酸に結合する低分子が有効かもしれない。また、主鎖リン酸基をミミックする意味で、リン酸緩衝液が良いことがある。

一般的にはゆっくりと結晶を成長させた方がよいと考えられる。結晶がでた条件を例えばPEG16%とする。ハンギングドロップ法やシッティングドロップ法で等量ずつ混ぜた場合、最初のPEG濃度は8%である。そこで、ドロップをつくる場合はPEG16%を使うが、ウエルにはより低いPEG濃度である8%?16%のPEGを入れると、ゆっくりと結晶成長が進行して、良質の結晶が期待できる。PEG8%の場合はバッチ法に近くなる。

脱水、dehydration

結晶の含水量が高い結晶に有効である。結晶中の溶媒水が吸い出されて結晶が締まることで分解能が上がると考えられる。結晶化条件に比べ沈殿剤濃度が高い溶液にループを使って結晶を移し、数秒から数分そのまま置いてから凍結する。結晶を含むドロップを空気にさらしてしばらく置いて乾かすこと(air-dry)が効くこともある。初心者がもたもたやった方が分解能の高い回折データが得られることがあるのはこのためである。ビギナーズラック(lack)!また、結晶化プレートを長く放置しておくと密閉が不十分なために脱水が自然に起こるケースも考えられる。

脱水をコントロールして行うには、沈殿剤の濃度を高めたウエル溶液を入れたウエルに結晶が含まれたドロップをスライドガラスごと移して、数時間~数日待つことを行う。

結晶は脱水操作でひびが入ったりすることがしばしばあるが構わない。分解能だけではなく、スポットが伸びた形(モザイシティ)が解消される効果も期待できる。結晶がぼろぼろ崩れて、中心部分の芯が良いという場合もあった。

アニーリング、annealing

マウントしたまま低温窒素ガスを数秒遮って、また当てる操作をアニーリングと呼ぶ。一瞬溶けてまた凍る。試すのは簡単であるが、それほど成功率は高くない。

マウントからはずして、室温に戻して完全に溶かしたあとに、クライオソルベントのドロップへ結晶を戻して、しばらく待ってからまたマウントする。これは結構うまくいくことが多い。ドロップの沈殿剤濃度を調節することで、上記の脱水操作と組み合わせることができる。

ドロップからの結晶の取り出し方法

クライオループですくい取る。顕微鏡でみて、結晶の大きさよりやや大きいループを選ぶ。大きすぎるループは結晶を拾いにくし、不要な沈殿剤溶液が周囲に残って、バックグランドを上げてしまう。操作としては、まず結晶を液面近くまで浮かび上がらせる。表面近くにきたら、ループを下にあてがって、ループ面に対し平行に引き抜く。金魚すくいのように結晶をくぐらせてはいけない。ループに結晶がなるべく触れないようにすること。

結晶を引き上げたら、脱水を考えなければ、15秒以内に凍結させる。乾燥すると塩が析出したりして、結晶が壊れて回折能が低下する。

クライオ条件のスクリーニング

結晶を凍結させる際に、周囲にある溶液は非結晶状態(アモルファス状態)で凍らせなければならない。そのために、クライオプロテクタントを混ぜる。クライオプロテクタントとしてグリセロールやエチレングリコールを用いる場合、目安として22.5%ぐらいまでを加えて、アモルファス氷になるようにする。この数字は目安であって、20%では足りず、25%は多すぎるという経験から来ている。

PEGとMPDは沈殿剤であると同時にそのままクライオプロテクタントでもある。この場合、PEGやMPDの濃度がある程度あれば、そのまま、凍結させることができる。また、足りなければ補って濃度を増やせばよい。低濃度の塩はクライオプロテクタントとしては働かないが、高濃度の塩がクライオプロテクタントになる場合がある。(”Cryosalts: suppression of ice formation in macromolecμLar crystallography.”, Acta Crystallogr D Biol Crystallogr. 2000 Aug;56(Pt 8):996-1001.)

(手順)使用した沈殿剤溶液(あるいは結晶が溶けないように沈殿剤濃度を少し上げた溶液)だけを低温窒素気流中で凍らせるか、そのまま液体窒素の中に直接入れて、アモルファス氷になればそれをクライオプテクト条件とする。実験室のX線回折計でX線を照射してチェックする。慣れるとX線を当てなくても外見で凍ったかどうかわかる。アモルファス氷になる必要最小限のクライオプロテクタント濃度を決める。実際は、結晶をくぐらす操作のときにクライオプロテクタントが希釈されるので、その分、多少濃度を上げておくほうが良い。

結晶をつくったウエル溶液に、単純にクライオプロテクタントを加えると沈殿剤濃度が低下してしまう。しかし、結晶をクライオプロテクタント溶液につける短い時間(1分以下)の間に溶けなければよいので、これで事足りる場合が多い。丁寧にやるときは、ウエル溶液の水が一部クライオプロテクタントに置き換わった組成のクライオプロテクタント溶液を別につくる。もっと正攻法としては、始めからクライオプロテクタントを含む沈殿剤溶液で結晶化を行う。こうするとハンドリング操作が結晶に与えるダメージを最小にすることができる。もちろん、結晶が出なくなることもある。

結晶をクライオプロテクタント溶液ドロップにループでいったん移して、それから拾ってマウントしX線回折計でチェックする。この操作をフラッシュクーリングという。あるいは、少しずつ段階的にクライオプロテクタントの濃度を上げていくと方法がある。結晶によってはどちらの方法でないとだめということがある。

(例)段階的に上げる方法。結晶を含むドロップ(たとえば2μL)に10μLのウエル液を加えて体積を増やす。ここにクライオプロテクタント溶液をピペットマンで5μL加えて、しばらく待ったあとに5μL取り去る。これを3~4回繰り返す。

結晶はあまりおおきいと凍結の際に歪むので、あまり大きくない方がよい。大きさとして一辺が100umくらいが適当である。この操作で歪んでモザイシティがあがったりするので実験室の回折計で一つずつチェックすべきである。

母液をオイルで置換する方法もある。perfluoropolyether oil PFO-X125/03(Lancaster Synthesis、和光)がよい。

結晶化でのTips

pHは等電点付近が良い場合が多いとある。しかし、統計には根拠がないとの指摘もあり。

バッファーとしてリン酸塩は避ける。無機塩結晶を生じやすい。しかし、リン酸塩でないとだめな場合もある。

たくさん微結晶が出来てしまう場合に、多数の核形成を抑えるため、プレートごとゆっくりと振とうすると良い場合がある。

塩濃度が高いときはタンパク質の溶解度が温度の高い方が下がり、PEGのときは逆に、タンパク質の溶解度が温度の低い方が下がる傾向あり。

有機溶媒を沈殿剤として使うときは、低温(4℃)でなるべく低イオン強度で行う。

結晶のtwinningを減らすには、dioxane(0.5~2%)やglycerolを加える。glycerolは疎水相互作用を抑える。PEGが沈殿剤ならPEGの分子量や製造元を変えるという手もある。

セレノMetを入れたタンパク質では疎水性が上がって、ワイルド体に比べて溶解度が下がることが多い。通常は、結晶化条件が共通あるいは、わずかな結晶化条件の調整で結晶化が可能なことが多いが、結晶化やクライオ条件が変わる可能性が常にある。心構えとして、別の蛋白質と考えて条件検討をするぐらいの気持ちが良い場合もある。

膜タンパク質の結晶化

アグリゲーションの有無のチェックは動的光散乱(DLS)よりも電子顕微鏡観察負染色観察の方がよい。超遠心をすることでアグリゲーションを除くことが重要。

αへリックスタイプとβバレルタイプでは考え方が異なる。αへリックス同士の膜中での相互作用はゆるく相対配置がきっちり決まっていない。αへリックスの間に脂質分子が入り込んでいることが多い。リガンドが結合すると、相対配置がきっちり決まって結晶解析ができる(例、ロドプシン)。βバレルタイプは一般に安定である。

界面活性剤の選択 非イオン、または両イオン性であること、濃度はCMCより多少高い濃度とする。加えすぎると界面活性剤の変性効果が出てしまう。最初の膜破壊、精製、結晶化と分けて考える。最初はとにかく膜タンパク質が安定な界面活性剤を選ぶ。普通はCMCが低く、ミセルサイズの大きなものを選ぶ。また、比較的安価なものを選択する方がよい。結晶化では第2の界面活性剤に変えて、ミセルサイズを調節する。CMCが高く、ミセルサイズの小さいものを選ぶ。CMCが高いので必然的に濃度が高くなり、第1の界面活性剤を追い出すことになる。界面活性剤には化学的には混合物のものがある。たとえばTritonやBrijなど。これらは結晶化には適さない。

添加剤として分子の大きさが界面活性剤よりやや小さい両親媒性の有機化合物を加えて隙間を埋めることがある。また、膜由来の脂質が残って隙間を埋めるパッキンとして働くことが多い。PEG400はクライオプロテクタントとしても働くので便利である。 例)両親媒性の有機化合物の例は1,2,3-ヘプタントリオール

スクリーニングは
(基本96条件)x(第1界面活性剤)x(添加剤としての界面活性剤)x(温度)になる

実験室回折計では大きな結晶の方が一見分解能が高く見えることが多い。しかし、実際は放射光にもっていくと低分解能であることが多い。スクリーニングでは小さな結晶を用いるべきである。この方が凍り方が均一になる。ビームが細くバックグラウンドが低いX線ビームラインを使わなくてはならない。ある結晶化条件のまわりでサーチするが、1つの条件で複数(5個ぐらい)を試す必要がある。誤差の大きい状態で平均的にどの条件がよいかを探すという難しい判断になる。このサーチを数回繰り返すうちに高分解能(<3.5Å)に到達することになる。(岩田想先生談)

膜内部分の同士の相互作用は特異性が低く、結晶化のドライビングフォースにならない。膜外部分同士の相互作用が鍵となる。そこで、膜外部分が大きいタンパク質はうまくいきやすい。逆に膜外部分が小さい場合は、クリスタルコンタクトを増やすために、抗体や結合タンパク質を結合させる方法がよい。結晶化条件はもちろん変わる。融合タンパク質は普通リンカーがフレキシブルなので有効ではない。沈殿剤は過去の例にならってみるとPEGがよい。