回折測定 ~実験室系~

横浜市立大学・国際総合科学研究科・生体超分子科学専攻 構造科学研究室

  • 邦文引用清水敏之, 蛋白質科学会アーカイブ, 1, e027 (2008)
  • キーワードX線回折装置、回折データ、クライオ実験
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概要

様々な条件を探索した結果得られた結晶が構造解析に適したものであるかはX線をあてることによって判断する。良好な結晶であれば引き続きデータ収集を行うが、1セットあたり半日から1日かかる。本稿では実験室で行う回折測定について標準的な方法を述べる。

装置・器具

X線発生装置:高輝度のX線を得るために微小焦点を備え、さらに単色X線を得るための集光ミラーを備えたものが望ましい。((株)リガク MicroMax007、FR-Eなど)

X線検出器:実験室ではイメージングプレートを利用した検出器がよく利用されている。((株)リガク R-AXIS VIIなど)

試料吹付低温装置:大気中から抽出した窒素ガスを極低温冷凍機を使って熱交換することにより低温窒素ガスを発生させる装置である。現在はタンパク質結晶解析に必須のものといえる。((株)リガク)

データ処理用、データ解析用のコンピューター:通常のパソコンでも十分可能である。ソフトウェアのほうもLinuxをはじめWindowsなどにも対応しているものが多い。

実体顕微鏡:結晶は小さいので顕微鏡を用いながら結晶を取り扱うことになる。 ((株)ニコン SMZシリーズなど)

結晶取り扱い用器具、クライオ用器具:結晶を取り扱うための器具やクライオ用の器具は 例えばハンプトンリサーチ社(http://www.hamptonresearch.com/)から様々なものが発売されている(図1)。

液体窒素タンク(移動用、保存用):シンクロトン放射光で測定するときは移動用の液体 窒素タンクに結晶を浸して持ち運ぶ。また結晶保存用の大型タンクがあると多くの結晶を 長期間ストックできる。(MVEなど(http://www.mysci.co.jp/))

実験手順

1)装置類(X線発生装置・試料吹付装置など)のチェック
2)結晶のマウント、センタリング
3)回折データのチェックと強度測定
4)強度データの評価
5)結晶の回収

実験の詳細

1)装置類(X線発生装置・試料吹付装置など)のチェック

毎回チェックする必要はないがビームストッパーの位置、光学系のアライメント、送水装置の水量や結晶を置く位置での温度などを時々チェックする。また所属機関でX線業務従事者登録を行った後に配布されるフィルムバッジを着用し、X線の被爆には十分気をつける。

2)結晶のマウント、センタリング

抗凍結条件を充たした母液に結晶を移しクライオループによりすくい上げゴニオメータヘッドにのせる(図2)。通常のゴニオメータヘッドには直交するアークと直交するそりがある。望遠鏡をのぞきながら高さをあわせ、さらに結晶が視野の十字の中心になるようそりを動かしてあわせる。結晶が窒素気流からはずれないように、ダミーのループであらかじめセンタリングをしておく。

3)回折データのチェックと強度測定

実際にX線をあてて1°程度の振動写真をとり、そのイメージ像から回折データをチェックする。露光時間は数分ぐらいである。チェックする項目はその結晶の分解能、単結晶か否か、モザイク性、反射の重なりなどである。振動範囲、カメラ長やコンピューターの残りのディスク容量をチェック後、連続測定をする。一枚あたりの露光時間は実験室系では数分から数十分程度であろう。1°の振動写真を180枚(180°分)とるとすれば、1枚あたりの露光時間が5分で約15時間かかることになる。

4)強度データの評価

良好なデータか否かを判断するのにいくつかの指標がある。まずは分解能である。これは回折点がどこまで遠く観測されたかであり、3Åが一つの目安といえる(膜タンパク質などはもっと分解能が悪いことが多い)。次は等価な反射強度のばらつき具合を示すRmergeである。通常10%以下ならば普通であり5%以下ならかなり良好といえる。データの完全性は90%以上、強度のS/N比を表すI/σ(I)は最外殻でも2以上、同じデータを何回記録したかを表す多重度は最外殻でも2-3が望ましい。これらのことを総合して判断する。

5)結晶の回収

シンクロトロン放射光でより高精度なデータ収集を行うために、実験室ではデータ収集を行わずに結晶のチェックを行うだけで結晶を回収し、そのまま液体窒素中に保存しておくことも頻繁に行われる。我々のところでは液体窒素で充分冷やしたCryoTongで素早く結晶がのっているCrystalCap Copper Magneticごと回収している。

工夫とコツ

データ収集する上での注意点

結晶の対称性によってデータ収集する範囲が異なる。シミュレーションプログラムを使って何度分をとればいいのか(180°分データ収集すれば問題ない)、カメラ距離・1枚あたりの振動範囲は大丈夫か(反射が重ならないか、どこまでの分解能が狙えるか)をチェックする。

実験室系の長所とは?

X線の強度や輝度、得られるデータの質はシンクロトロン放射光には及ばないものの、実験室系でのX線実験の最大の長所は“いつでも好きなときに”行えることである。さらには時間の制約がなく、慣れた環境でできることもまた長所といえよう。シンクロトロン放射光施設で効率よく実験するためにも実験室系の操作に十分習熟しておくことが大切だと思われる。

その結晶は“もの”の結晶?

結晶が得られたときそれは目的とした“もの”の結晶であろうか?大きさがある程度(0.1mm以上)あればX線をあてて判断するのが確実であろう。また結晶を溶かしてSDSページにかけることもよく行われる(特に複合体結晶を狙っているとき)。塩の結晶かどうかは針で砕いてみたり(蛋白質結晶はもろい)、対照実験をおこなったりして判断する。対照実験のときは蛋白質を溶かしている溶液も加えることに留意。蛋白質結晶を染める試薬(Izitなど)も利用されるが結晶によっては染まらないこともある。

X線発生装置は多くの場合銅をターゲットとしているためX線の波長は1.5418Åとなるが、さらに長波長のX線が得られるクロムあるいはコバルトをターゲットとして蛋白質中に含まれる硫黄原子の異常分散効果を狙って構造を解く試みもなされている。

  • 図1
  • 図2