結晶化条件の最適化

東京大学大学院・総合文化研究科

  • 邦文引用志波智生, 蛋白質科学会アーカイブ, 1, e033 (2008)
  • キーワードタンパク質の結晶化に影響を与えるパラメーター、イオン強度、緩衝液の種類、添加剤(additive)
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概要

スクリーニングキットを用いたタンパク質の結晶化条件のスクリーニングで結晶が得られたら次に、結晶化条件最適化のステップに進む。タンパク質の結晶化には、様々なパラメーターが影響するので、それらを変化させて結晶化条件を最適化しX線回折実験に適した結晶を得る。X線解析に適した結晶の条件としては、分解能が高く(できれば2.5Å以上)、再現性良く結晶が析出することが重要である。ここでは、タンパク質の結晶化に影響を与えるパラメーターや、どのようにして結晶化条件を最適化していくのかを具体的に述べる。

装置・器具・試薬

  • インキュベーター(各社)、4、20℃用の2台あった方が良い
  • ピペットマン(各社)、200、2μL用
  • 結晶化プレート(HAMPTON RESEARCH社など)、グリース付きの方が便利、例えば、VDX48 Plate, with sealant; HAMPTON RESEARCH社。
  • カバーガラス(HAMPTON RESEARCH社など)、シリコナイズされているものの方が便利、例えば、Siliconized Cover Slides 12mm Thick Circles ; HAMPTON RESEARCH社。
  • エアダスター(各社)
  • ポリエチレングリコールなどの沈殿剤溶液 (HAMPTON RESEARCH社, メルク社など)

まず、タンパク質の結晶化に影響を与えるパラメーターを以下に示す。

[タンパク質の結晶化に影響を与えるパラメーター]

① タンパク質の濃度
タンパク質の濃度は、結晶化の大きな要因の1つである。タンパク質濃度が薄すぎると、結晶化しない、高すぎると大量の沈殿が生じたり、微結晶が大量に析出することがある。各々のタンパク質に応じて適切な濃度を決めることは重要である。

② 緩衝液の種類、pH
タンパク質分子は、内部に疎水性アミノ酸、表面に親水性なアミノ酸が存在する傾向がある。そのため溶液のpHに応じて分子表面の電荷分布が変化し、その結果、溶解度が変化する(正負の電荷数が等しくなる等電点では、最も溶解度が低くなる)。このような溶解度や電荷分布の変化が、結晶化に大きく影響する。また、同じpHでも緩衝液の種類によっては、結晶になったり、ならなかったりすることがある。

③ イオン強度
 有機溶媒やポリエチレングリコールなどの水溶性高分子を沈殿剤に用いる場合には、イオン強度(緩衝液の濃度や塩の種類や濃度)が重要な因子となることが多い。

④ 温度
 温度も結晶化の成否に関わる重要なパラメーターなので、温度を変えてみることは重要である。通常は、4℃と20℃の2通りを試すことが多い。しかし、不安定なタンパク質の結晶化を20℃で行なうときは、タンパク質が失活しないようにする注意が必要である(例えば、阻害剤を共存させて、立体構造を安定化させる)。また、プロテアーゼが夾雑していると、結晶化温度が高い程切断を受ける可能性がある。

⑤ 沈殿剤の種類と濃度
 沈殿剤には、(A)塩類、(B)有機溶媒、(C)水溶性高分子の3つのタイプがあり、タンパク質への作用が異なる。同じタイプの沈澱剤にも数多くの種類があり、すべてが結晶を与えるわけではない。特に、水溶性高分子のポリエチレングリコールには、様々な分子量のものがあり、分子量によってタンパク質への作用が異なる。また、沈殿剤の濃度は、最も重要なパラメーターの一つで、濃度が低すぎると結晶は析出しないし、高すぎると大量の沈殿になったり、微結晶が大量に生じる。

⑥ タンパク質の純度
 タンパク質の精製法の一つに再結晶法が使われることもあるので、サンプルによっては、化学的な純度は結晶化に必ずしも必須の条件ではないが、できるだけ純度を向上し、電気泳動でシングルバンドまで精製する方が望ましい。しかし、高純度のサンプルを得るために、カラムを何本も通して、サンプル量が1mgになってしまうよりも、95%程度の純度でとりあえずは妥協して10mgのサンプルで結晶化条件のスクリーニングを行うことは、現実的な選択である。

 また、糖タンパク質の場合、タンパク質の化学的な純度が高くてもタンパク質に結合した糖鎖の不均一性のために良質な結晶になりにくい(ならない)ことがある。この場合には、大腸菌を用いて糖鎖のないタンパク質を発現させたり、糖鎖を酵素によって均一にトリミングするような方法がとられる。pHやサンプルバッファーによっては、タンパク質が不均一に会合して、アグリゲーションを起こし、結晶化に向かなくなる場合がある。タンパク質の会合状態は、ゲルろ過クロマトグラフィーや動的光散乱法で調べることができる。また、精製の最終段階にゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、不均一に会合した多量体のタンパク質を除き、目的の分子量のタンパク質のみを精製することは結晶化に効果的である。

⑦ 添加物
 タンパク質を安定化させるような化合物をサンプルバッファーに加えておくと、結晶が著しく改善する場合がある。具体的には、金属イオン(注1)、基質、阻害剤、補酵素、還元剤、酸化剤、界面活性剤、グリセロールなどがあり、添加剤(additive)という。

⑧ タンパク質のsource
 タンパク質のsourceを変えることにより、アミノ酸配列が変わり、化学的、物理的な性質が変化して容易に結晶化する場合もある。

⑨ その他
 重力(宇宙での微小重力実験など)、振動、圧力、電場、磁場などにより、結晶化に影響を及ぼすことがあるが、容易に制御できないことが多い。

(注1)カルシウムイオンやマグネシウムイオンなどの2価の陽イオンは、タンパク質によっては、構造保持に必須であることがある。

実験手順

1)スクリーニングで結晶が生じた場合
2)スクリーニングで結晶が生じなかった場合

実験の詳細

1)スクリーニングで結晶が得られた場合

① まず、生じた結晶がタンパク質の結晶であることを以下の方法で確認する。

  • 偏光版を入れて、結晶を確認する。一部を除き、結晶の場合は、偏光版を回転させると消光が起こる。特に、微結晶か沈殿かを判別するときに役に立つことが多い。
  • ある程度の大きさがある場合は、結晶にX線を当ててX線回折イメージを見る(結晶の分解能から結晶の質も分かる)。蛋白質の結晶の場合は、低分解能の領域に無数の回折斑点が現れるが(多結晶の場合は、低分解能の領域に無数の同心円状の回折)、低分子の結晶の場合は、高分解能の領域に強い回折斑点がまばらに現れる(回折斑点が現れない場合には、カメラを近づけて振動角を5度ぐらいにして測定すると回折斑点が現れる場合がある)。
  • 明らかに多結晶のようないらない結晶をニードルでつぶしてみる。タンパク質の結晶である場合には、ゼリーのようにやわらかいのですぐにつぶれてしまうが、有機物や塩の結晶は硬い。
  • タンパク質の結晶は、体積の約半分が溶媒を含んでおり、結晶中に溶媒のチャンネルが存在している。タンパク質結晶が存在しているドロップに、タンパク質の染色に用いられているクマシーブリリアントブルー(CCB)などの色素を少量加えると、多くの場合は結晶が染色される(注2)(タンパク質結晶でも染色されないケースもたまにある)。しかし、低分子の結晶には、そのようなチャンネルが存在しておらず、染色されない。結晶を電気泳動してタンパク質の結晶かどうかを確かめる。

A) 生じた結晶を大量のリザーバー溶液で洗い(2-3回)、結晶表面についているタンパク質を含む溶液を完全に除去する。

B) 結晶を電気泳動のサンプルバッファーに溶かす。

C) 電気泳動を行う。 まれに、結晶化中にサンプルが分解して、分解物が結晶になる場合があるので、電気泳動を行えばすぐに確認することができる。

 これらの方法で、タンパク質の結晶であることを確認し、結晶化条件の最適化の段階に移行する。

(注2)HAMPTON RESEARCH社からIZIT Crystal Dyeという商品で販売されている。

② 結晶化の最適化

(2-1) まず、3-5個ぐらい、同じサンプル、同じ沈殿剤(スクリーニングキット)を用いて、 結晶化の再現性を見る。

(2-2) 次に、タンパク質濃度を固定して、まず大まかに沈殿剤の濃度やpHを刻み、Gridを組んで結晶化を行う。また、緩衝液の種類を変えると良質の結晶が得られることもあるので、別の緩衝液でも結晶化を行なっておいた方が良い。まれに、自分で調製した試薬はだめで、キットでしか結晶にならない場合がある。

(2-3) 次に、殿剤の濃度、pHを細かく刻みGridを組んでより詳細な条件検討を行う。

(2-4) 結晶化の温度は、タンパク質に余裕がある場合は4、20℃の両方で試す。結晶が改善されない場合は、タンパク質の濃度も変化させてみる(2倍濃縮や2倍希釈など)。色々なパラメーターを変化させて、できるだけ大きな単結晶を得る条件を精密化する(理想的な結晶の大きさは、1辺が0.2~0.3mmの大きさである)。しかし、結晶によっては、非常に小さい場合でも分解能が良く解析することができる場合があるので、結晶が小さくてもX線回折実験を行って分解能をcheckするべきである。

(2-5) どうしても、結晶が多結晶になってしまったり、大きくならない場合は、添加剤(additive)や界面活性剤(detergent)を加えて結晶化する。

 添加剤(additive)や界面活性剤(detergent)の探索方法としては(注3)、得られた最良の結晶化条件で1/10量の添加剤(additive)や界面活性剤(detergent)をドロップに加えて結晶化を行う。具体的には、最良の結晶化条件の溶液1μL+タンパク質溶液1μL+additive 0.2μLを加えたドロップを作成し、最良の結晶化条件の溶液(リザーバーの方にはadditiveやdetergentは加えない)に対してhanging-drop蒸気拡散法で結晶化を行う。

(注3)HAMPTON RESEARCH社からAdditive Screen 1、2、3, Detergent Screen 1、2、3として販売されている。

 また、上記の方法を参考にして、結晶化条件を最適化しても結晶に顕著な変化が見られなかった場合は、「工夫とコツ」に述べるような点を参考にすると良い。

2)スクリーニングで結晶が生じなかった場合

 以下の点を考慮して結晶化を行う。

① タンパク質の純度を向上させる。クロマトフォーカシングなどで純度を向上させると 結晶になることがある。

② タンパク質のsourceを変える。タンパク質のsourceを変えることにより、アミノ酸配列が変わり、タンパク質表面の性質が大きく変化して、結晶になることがある。

③ 動的光散乱法を用いて、サンプルが結晶化に向いているのかを確かめる。また、いろいろとサンプルバッファーを変えて、タンパク質を安定に保つのに最も適したサンプルバッファーを決定し、それに溶かしたサンプルを用いて結晶化を行う。

④ ゲルろ過クロマトグラフィーを用いて、多量体になったタンパク質を除いて結晶化を行う。精製の最終段階で、ゲルろ過を用い、会合して多量体になっているタンパク質を除くと結晶になる場合もある。また、ゲルろ過を用いることによって、バッファーを置換することも出来る。

⑤ ドメイン構造の場合は、N末端またはC末端の長さを変えてみる。N末やC末は、フレキシブルなことが多いため、その領域を除くとすると結晶になることがある。その時の目安としては、タンパク質の二次構造予測サイト(注4)を利用してループ構造の部分を除くように設計する。また、プロテアーゼの限定分解を用いて、N末端やC末端のフレキシブルな領域を除き、安定な領域を決めることも可能である。その際には、プロテインシークエンサーやマススペクトルを用いて、安定な領域を決めることが出来るので、その領域のコンストラクトを作成し結晶化を行うと効果的である。

⑥ 基質や阻害剤を加えてみる。複合体を形成することにより、フレキシブルな領域が固定され、結晶になることがある。

⑦ tag-融合タンパク質の場合、tagを切断すると結晶になる場合もある。

⑧ スクリーニングキットを行ったときに、あまり沈殿が生じていないのであれば、タンパク質の濃度を高くする。非常に溶解度の高いタンパク質の場合は、100mg/mLぐらいの濃度にしないと結晶にならない場合もある。

⑨ 逆に、スクリーニングキットを行ったときに、ほとんどの場合で沈殿が生じているようであれば、タンパク質の濃度を低くする。

(注4)二次構造予測サイトとしては、http://npsa-pbil.ibcp.fr/cgi-bin/npsa_automat.pl?page=/NPSA/npsa_seccons.html などがある。

工夫とコツ

結晶を改良するための工夫

① DTTやTCEP(Tris(2-carboxyethyl)phosphine Hydrochloride)などの還元剤を加える。特にセレノメチオニン体の場合、セレンの酸化を抑えられるので、還元剤を加えると結晶化の再現性が向上することがある。

② ドロップのサイズを大きくする。結晶化条件の探索の場合は、サンプル量を節約するために1μLの結晶化サンプルと1μLのリザーバー溶液を加えて、ドロップを作っていたが、結晶を大きくするためには、ある程度のドロップの大きさ(2μL +2μLぐらい)が必要である。

③ 基質や阻害剤を加えてみる。複合体を形成することにより、フレキシブルな領域が固定され、良質な結晶になることがある。

④ PEGで結晶が得られた場合には、PEGの分子量を変えてみる。

⑤ 純度の高いPEGを試すまたは、PEGを精製してから結晶化に用いる。高純度のPEGは、HAMPTON RESEARCH社やメルク社で販売されている。

⑥ 結晶化の方法を変える。ハンギングドロップ蒸気拡散法をシッティングドロップやサンドイッチドロップ蒸気拡散法、透析法などに変えて試してみる。

⑦ 糖タンパク質の場合は、タンパク質の化学的な純度が高くてもタンパク質に結合した糖鎖の不均一性のために良質な結晶になりにくい(ならない)ことがある。この場合には、大腸菌を用いて糖鎖のないタンパク質を作成したり、糖鎖を酵素によって均一にトリミングするような方法がとられる。   ⑧ サンプルの純度を向上させる。クロマトフォーカシングなどを用いてタンパク質の純度を向上させると良質な結晶が得られる場合がある。

⑨ 種結晶化法を試してみると、大きな単結晶が得られることがある。

⑩ tag-融合タンパク質の場合、tagを切断すると結晶の性質が大きく改善することがある。

⑪ 放射光実験施設の実験でMicro X-ray beam(5-10μm)を用いる(KEK-PF-17AやSPring8のBL-41XU or BL-44XUなど)。結晶の場所によってはいい反射が出ることがあるらしい。

⑫ アミノ酸置換する。分子表面のグルタミン酸やアルギニンをアラニンにすると分解能が向上する場合がある。

⑬ アニーリング(Crystal annealing):瞬間冷却した結晶を常温まで戻し、再度瞬間冷却すると分解能やモザイク性が向上する場合がある。

⑭ 結晶を脱水処理(dehydration)すると分解能が向上する場合がある。

⑮ グルタルアルデヒドを用いて、結晶を架橋処理すると分解能やモザイク性が向上する場合がある

結晶化条件の最適化については他にも幾つか優れた文献が存在するので併せて参考にして頂きたい(1-7)。

文献

  1. 坂部知平監修、相原茂夫編集, タンパク質の結晶化, 京都大学学術出版会 (2005)
  2. Benvenuti, M. & Mangani, S., Nat Protoc., 2, 1633-1651 (2007)
  3. Heras, B. & Martin, J. L., Acta Cryst., D61, 1173-1180 (2005)
  4. Newman, J., Acta Cryst., D62, 27-31 (2006)
  5. McRee, D. E., Practical Protein Crystallography, Academic Press (1999)
  6. McPherson, A., Preparation & Analysis of Protein Crystals, Krieger Publishing (1989)
  7. McPherson, A., Crystallization of Biological Macromolecules, Cold Spring Harbor Laboratoly Press (1999)