校正刷り論文の図を見てがっかりしないために

東京大学大学院・理学系研究科

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はじめに

投稿論文の校正刷りを見た際に、図の大きさや配置、ギザギザした文字や線に不満を感じたことはないだろうか?筆者も初めての論文の校正刷りを見たとき、投稿した図が拡大され図の解像度が悪くなっていたり、逆に図が縮小され図中の文字が小さくつぶれていたり、また、図の配置が適切でなく無駄な余白が目立っていたりして、少し残念な気持ちになったのを覚えている(1)。当時は図の大きさや配置、解像度、ベクタ画像とラスタ画像の違いなどを気にせずに作っていたので、当然といえば当然の結果だった。出版された論文を見ても、図が不明瞭なために理解しにくい論文は多いように思える。

「論文として印刷される大きさで作り、PDF形式(またはEPS形式)で投稿する」ことで、図の仕上がりはよくなる(2)。ほとんどの雑誌の投稿規定において、「図は論文として印刷される大きさで作ること」、「PDF形式(またはEPS形式)で投稿すること」が推奨されている。しかし、出版された論文の図を見る限り、これらの点に注意して作られた図はあまり多くないように思える。数枚の写真やグラフのみからなる単純な図なら、これらの点に注意せずとも仕上がりはあまり変わらないが、複数のパネルからなる比較的複雑な図は、これらの点に注意して作るかどうかで仕上がりは大きく異なる。本稿では投稿論文の図をより美しく作るためのちょっとしたコツを述べたい。

図に関する一般的な投稿規定

図に関する投稿規定は雑誌によって異なるが、以下に述べるようにおおむね共通している(図1)。図を作るにあたって、以下のガイドラインは参考になるので参照されたい。

http://www.nature.com/nature/authors/gta/3c_Final_artwork.pdf
http://www.pnas.org/site/misc/digitalart.pdf
http://art.cadmus.com/da/jbc/index.jsp

大きさ:図の幅には、1カラム(~9 cm)、1.5カラム(~12 cm)、2カラム(~18 cm)の3種類がある。雑誌によっては1.5カラム幅の図は認められていないので、投稿する雑誌の投稿規定に従う。図は最終的に論文として印刷される大きさで作ることが推奨されている。

解像度:Monochrome図(文字と線のみからなる白黒のグラフ、模式図などの図)は1200 dpi以上、Halftone図(写真などの画像のみからなる図)は300 dpi以上、Combination Halftone図(写真などの画像に加えて、文字や線を含む図)は600 dpi以上の解像度が推奨されている。ほとんどの図は何らかの文字や線を含むため、Combination Halftoneに分類されるだろう。

色:RGB形式、または、CMYK形式。RGB形式はCMYK形式に比べ表現できる色域が広いが、RGB形式の図をプリンターで印刷するときにはCMYK形式に変換されることから、色合いが微妙に変わってしまう。このため、CMYK形式での投稿を推奨している雑誌もある。一方で、RGB形式での投稿を推奨している雑誌もあり、最近のプリンターはRGB形式を再現性良く印刷できるためCMYK形式で投稿する必要性は低下していると思われる。例えば、図1に示したRGB形式の分子構造は、ディスプレー上で見てもプリントアウトして見ても色合いの違いはほとんど気にならないだろう。

文字:ArialやHelveticaなどのフォントが推奨されている。ギリシャ文字はSymbolフォント、アミノ酸配列などのアライメントにはCourierやLucida Consoleなどの等幅フォントが推奨されている。文字の大きさは5~8ポイント、各パネルのラベル(A、B、Cなど)は8~12ポイントの太字が見やすい。投稿する雑誌の投稿規定で文字のフォントや大きさが指定されている場合は、投稿規定に従う。図中の文字の大きさをある程度統一すると整然とした印象の図になる。

線:線の太さを指定している雑誌は多くないが、0.5~1ポイントが見やすい。

ファイル形式:TIFF、PDF、EPSなどの形式での投稿が推奨されている。

論文として印刷される大きさで作る

投稿規定において要求されている図の解像度、文字の大きさは、「論文として印刷される大きさ」における解像度、文字の大きさである。したがって、「論文として印刷される大きさ」で図を作らない限り、最終的な図の解像度、文字の大きさはわからない。例えば、投稿した図が最終的に縮小された場合、図中の文字が5ポイント以下に縮小され見えにくくなる可能性がある。逆に、投稿した図が最終的に拡大された場合、投稿した図に比べて解像度は下がってしまう。複数のパネルからなる図は、各パネルの大きさと配置を考慮し、全体の幅を1カラム、1.5カラム、2カラムのどれにするかを決定し、むだな余白が最小限になるように各パネルを適切に配置すると仕上がりがよいだろう。NatureやPNASなどページ数の制限がある雑誌に投稿する場合にはとくに、「論文として印刷される大きさ」の図を投稿する必要がある。一般的な雑誌に投稿する場合でも、「論文として印刷される大きさ」の図を投稿することにより、投稿した図と校正刷りの図に予想外のギャップを感じることは少なくなるだろう。

TIFF形式ではなくPDF形式(またはEPS形式)で投稿する

TIFF形式の場合、Monochrome、Combination Halftone、Halftoneの図はそれぞれ1200 dpi、600 dpi、300 dpi以上の解像度で作成し投稿することが推奨されている。Combination Halftone図をTIFF形式で保存すると、写真などのラスタ画像(ドットの集合により表現された図)と、文字や線などのベクタ画像(点の座標とそれらを結ぶ線の数式などの描画情報により表現された図)がまとめられてひとつのラスタ画像として保存されるので、ファイルサイズが大きくなりやすい。例えば、図2のようなCombination Halftone図をTIFF形式(600 dpi)で保存すると、ファイルサイズは3.4 MBとなる(図2上)。一方、PDF形式の場合、写真などの画像はラスタ画像として保存されるが、文字や線はベクタ画像のまま保存される。したがって、Combination Halftone図もHalftone図と同様に300 dpiの解像度で保存すればよく、TIFF形式で保存した場合に比べてファイルサイズは小さくなる。図2をPDF形式(300 dpi)で保存すると、ファイルサイズは670 KBと小さくなり、さらに、文字や線はベクタ画像のまま保存されるのでTIFF形式(600 dpi)で保存したときよりも鮮明に表示される(図2下)。EPS形式で保存した場合も、文字や線はベクタ画像のまま保存されるが、PDF形式に比べてファイルサイズが大きく扱いにくい(図2をEPS形式で保存すると、ファイルサイズは22 MBとなる)。したがって、投稿する雑誌がPDF形式の図を受け付けている場合は、PDF形式の図を投稿するのがよいと考えられる(PDF形式は受け付けていないがEPS形式を受け付けている雑誌に投稿する場合は、EPS形式の図を投稿するのがよいだろう)。

Adobe Illustratorで図を作る

図を「論文として印刷される大きさで作り、PDF形式(またはEPS形式)で投稿する」には、Adobe Illustratorなどのソフトフェアを使うとよい。例えば、図2はIllustratorを用いて以下のような手順で作ることができる(図3)。まず、各パネルの大きさと配置を考慮し、全体の幅を1カラム、1.5カラム、2カラムのどれにするかを決める。各パネルの大きさは、7~8ポイントの文字を入れてみてバランスがよいかどうかで判断するとよい。図2の場合、全体の幅は2カラムとし、4つのパネル(A~D)を図3のように配置するのがよいだろう。パネルAのようなアライメント図は、ESPript(http://espript.ibcp.fr/ESPript/ESPript)などを用いて作成したアライメントファイルを、TIFF形式(ラスタ画像)ではなくPS形式(ベクタ画像)として保存し、Illustrator上で編集すると仕上がりがよい。パネルAでは、Illustrator上で文字を7ポイントのLucida Consoleに変更するなどの加工を行っている。パネルBやパネルCのようなラスタ画像を含む図を作る場合、最終的な大きさで十分な解像度(300 dpi以上)の元画像を用意しておく必要がある。当然ながら、元画像の解像度が不十分な場合、PDF形式(またはEPS形式)として高解像度で保存しても元画像の解像度以上にはならない。元画像の解像度はIllustrator上で確認する。パネルBのような分子構造図を作る場合、CueMol(http://www.cuemol.org)やPyMOL(http://www.pymol.org)を用いて十分な解像度でレンダリングした元画像を準備しておく。ゲル写真や顕微鏡写真などの元画像は、TIFF形式ではなくJPEG形式で保存しておくと不必要にファイルサイズが大きくならずに扱いやすい。パネルDのようなグラフは、ExcelやPrismなどのグラフソフトで作成したものをIllustrator上で編集すると仕上がりがよい。パネルDでは、Excel上のグラフをIllustratorにコピー&ペーストしたのち、不要なパスの削除、全体の大きさの調整、文字や線の調整などを行っている(Excelのグラフは不要なパスが多いためやや扱いにくいかもしれない)。各パネル中の文字は7ポイント、各パネルのラベルは12ポイント(太字)とし、フォントはArialで統一している。各パネルを適当に拡大して図4のように配置することも可能だが、この配置だと余白が目立つ。さらに、パネルCとパネルDが不必要に大きいため、出版社により校正刷りの段階で1.5カラム幅に縮小される可能性が高い。この図が1.5カラム幅に縮小された場合、パネルBの文字などは5ポイント以下となり見にくくなってしまう。また、図4は図中の文字のフォントや大きさがそろっていないため統一感に欠ける。完成した図は300 dpi以上の解像度でPDF形式(またはEPS形式)として保存する。

謝辞

本稿をまとめるにあたり貴重なご助言をいただいた東京大学大学院理学系研究科 石谷 隆一郎 准教授、ライフサイエンス統合データベースセンター 飯田 啓介 特任研究員に感謝いたします。

文献

  1. Nishimasu, H. & Fushinobu, S. et al., Structure, 12, 949-959 (2004)
  2. Fushinobu, S. & Nishimasu, H. et al., Nature, 478, 538-541 (2011)